7/4付Asahi.com(魚拓)より、
自殺者急増、人気女性タレントの影響? 内閣府参与報告
今年5月に自殺者が急増したのは、女性タレントの自殺の影響だった――。清水康之内閣府参与(NPO自殺対策支援センター・ライフリンク代表)が4日、内閣府の自殺対策会議でそう報告した。
減少傾向にあった月別自殺者数が5月、前年比19.7%増と急伸したため、当時の担当大臣だった蓮舫氏が東日本大震災との関連を含めて内閣府に分析を指示していた。
その結果、今年初めからの自殺者数は1日平均82人だったが、人気女性タレントの自殺が報じられた翌日の5月13日から1週間は1日平均124人に増えたことが判明。増加分の半数以上を20〜30代が占め、女性の伸び率が高かった。清水氏は原因として「女性タレントの自殺と関連報道が考えられる。政府としてはメディア各社にガイドラインの策定を呼びかけるべきだ」と指摘した。
この記事が様々な波紋を呼んでいるようです。自殺およびその対策に関しては基礎情報が必要なんですが、これを始めれば今日は終わってしまうので、釣りにマジレスしながらメディアの自殺報道を考える を御参照下さい。私の基本スタンスはメディアの自殺報道と自殺数に関連があるとするWHO及びIASPによる「自殺予防メディア関係者のための手引き 2008年改訂版日本語版」 (WHOの手引き)を支持するものです。理由もリンク先に書かせて頂いています。
この記事の波紋の一つは、未だに見出しにある、
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人気女性タレントの影響?
WHOの手引きの話を私が3年前に持ち出した時は、マスコミの無知ではないかとスタンスで書いた記憶があります。無知であるなら知る事により改善が期待できますが、今はそうではないと感じています。マスコミは無知ではなく無視であるとする方が適切と考えます。無視は知っているにも関らず、あえて知らないふりをする、ないし歯牙にもかけないことで、より罪深い行為と言えます。
無視の姿勢の現われとして、これもまた定番のメディアの編集権の問題です。ここは微妙ですが重要な点なので、良く咀嚼して御理解下さい。記事文末で、
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清水氏は原因として「女性タレントの自殺と関連報道が考えられる。政府としてはメディア各社にガイドラインの策定を呼びかけるべきだ」と指摘した。
私のプレゼン資料は、本日中にライフリンクのHPにアップします。「5月に自殺が急増したのは、有名女性タレントの自殺報道が影響した可能性がある」とも指摘したので、メディアによっては記事にするところもあるようです。いずれにしても、詳しくは追って報告します。とりいそぎ。
もう一つ、これもツイッターから、
私の発言として正確なのは、「5月に自殺者が急増したのは、女性タレントの自殺と関連報道が考えられる。政府としてはメディア各社にガイドラインの策定を呼びかけるべきだ」と指摘したという部分。自殺そのものより、その報道のあり方が問題ということ。
記事の清水氏引用部分は、2つに分けると、
- 女性タレントの自殺と関連報道が考えられる。
- 政府としてはメディア各社にガイドラインの策定を呼びかけるべきだ
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今年初めからの自殺者数は1日平均82人だったが、人気女性タレントの自殺が報じられた翌日の5月13日から1週間は1日平均124人に増えたことが判明
はい、もちろんあります。ただ今日の今日のことなので、まだ内閣府「自殺対策タスクフォース」のHPにもアップされていないようです。 RT @ma_angie …2頁「急増しているのは若年世代の女性」の根拠データがないという指摘があり、…何か別に統計はありますでしょうか?
震災関連の自殺者と、それ以外の自殺者に対してかなり綿密な分析を行った上での発言と私は解釈します。
これでわかってもらえたでしょうか。わかった人もいるかもしれませんが、わからなかった人のために念を押します。清水氏はメディアの自殺報道が端的に現れた一例として女性タレントの自殺をあげています。本丸はWHOの手引きに準じたメディアの報道のあり方です。つまり、
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女性タレントの自殺 << メディアの自殺報道
昨日の会合での私のプレゼンの本意は、「日本のマスコミの多くが『自殺報道ガイドライン』に反した自殺報道をしており、そのことが自殺を誘因している可能性がある」というもの。誰か特定の個人の自殺が原因で自殺が増えたなどという、そんな乱暴なことを言ってるわけではない。
ところがマスコミの編集権を潜ると、
これで判りましたか。つまり見出しと冒頭部の合わせ技で、「たまたま」女性タレントが自殺した事が自殺数の増加のすべてであり、メディア報道自体は無関係であると誘導しようと編集されていると言う事です。確かに清水氏のコメントとして「政府としてはメディア各社にガイドラインの策定を呼びかけるべきだ」はありますが、文末に脈絡もなくコチョコチョ書かれても、WHOの手引きも知らない人間にとっては「なんの事やらミカンやら」状態になる寸法です。メディアの自殺報道を見るたびに思うのですが、日本のマスコミはWHOの手引きを意図的に無視しようと、たゆまぬ努力を継続されている様に感じます。別に朝日だけに限った話ではなく、すべてのマスコミに共通しています。無視する目的は、可能な限り煽情的に報じて注目を集める事にあるようです。有名人の自殺となれば、いかにセンセーショナルに、いかに詳細に報じるかの競争がマスコミの使命と信じられているようです。
そこまで自殺報道を煽情的に報じたいのなら、自殺問題そのもを無視すれば良さそうなものですが、これはこれで報道する事も欠かせないとまた判断しているようです。ある意味矛盾した行動ですが、矛盾を押し隠すために都合の良い定義を決められているようです。たいした定義ではないのですが、
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自殺問題は取り上げて対策も要求するが、メディアの自殺報道は自殺には全く無関係である
そういう意味で朝日記事は平常運転です。ただいつまで続けられるかは不明です。世論は既製メディアの影響を大きく受けますが、かつてのように一色ではありません。既製メディア以外の世論構成ツールがしっかり普及しています。今回の女性タレント自殺問題でも少々動いています。どこまで蓋をして置けるかは、予断を許さないぐらいはしておいても良いかもしれません。
ちなみにWHOの手引きでメディア報道に求めているのはクイックリファレンスにあります。
- 努めて、社会に向けて自殺に関する啓発・教育を行う
- 自殺を、センセーショナルに扱わない。当然の行為のように扱わない。あるいは問題解決法の一つであるかのように扱わない
- 自殺の報道を目立つところに掲載したり、過剰に、そして繰り返し報道しない
- 自殺既遂や未遂に用いられた手段を詳しく伝えない
- 自殺既遂や未遂の生じた場所について、詳しい情報を伝えない
- 見出しのつけかたには慎重を期する
- 写真や映像を用いることにはかなりの慎重を期する
- 著名な人の自殺を伝えるときには特に注意をする
- 自殺で遺された人に対して、十分な配慮をする
- どこに支援を求めることができるのかということについて、情報を提供する
- メディア関係者自身も、自殺に関する話題から影響を受けることを知る
規制と言っても、たったこの程度のものなんですが、これまで目玉だった有名人の自殺ニュースが目玉でなくなるのはやっぱり手痛いのかもしれません。そうなると世論が変化しかけても、
- とにかく規制は報道の自由の侵害
- 知る権利が読者にある
- 悪いのはネットである
- メディア報道で自殺が増える根拠に乏しい
- 日本の自殺報道は十分に配慮されており、WHOの手引きに該当しない