消防白書記事の比較検討

12/16付産経新聞より、

救急搬送遅れ10年で6・5分 出動増、受け入れ拒否影響 20年版消防白書

 通報から救急車の現場到着までの時間が平成19年の全国平均で前年より0.4分長い7.0分、到着から患者を搬送し医療機関に収容するまでの時間は1分延びて26.4分となり、ともにワースト記録を更新したとする20年版消防白書が16日、閣議で了承された。

 現場到着から収容までの時間は10年間で6・5分も延びた計算。要因について総務省消防庁は、19年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。

 消防庁は、救急医療は医師不足など厳しい状況で対策を急ぐ必要があるとし、搬送の際に空きベッド状況などを把握できる「救急医療情報システム」に医療機関が積極的に協力することを求めている。

 消防庁は現場到着が遅れる背景について、高齢化などで全国の救急車出動件数が約529万件と10年間で52%増加していると指摘。「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。

 消防庁は出動件数を減らすため、緊急性が低いのに救急車を呼んだり、タクシーの代わりに使ったりしないよう呼び掛けている。救急車を呼ぶ必要があるかどうか迷っている人の通報も多く、通報前に医師の助言を聞く相談窓口の整備を急いでいる。

 全国の救急隊数は10年間で8%増にとどまっており、消防庁は「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」と説明している。

この記事はお読みの通り平成20年消防白書についての解説記事である事がわかります。Web版と書籍版で内容が違うのかどうかも確認できませんし、報道発表の時に補足説明があったかどうかもわかりませんので、あくまでも確認できるWeb版で比較してみます。

順次記事内容と消防白書の内容を比較してみます。

通報から救急車の現場到着までの時間が平成19年の全国平均で前年より0.4分長い7.0分、到着から患者を搬送し医療機関に収容するまでの時間は1分延びて26.4分となり、ともにワースト記録を更新した

この記事に該当しそうな消防白書の部分は、

救急隊の現場到着時間は平成9年の平均6.1分に対し、平成19年では7.0分であった。また、現場到着から病院収容までの時間は平成9年の平均19.9分に比べ、平成19年では26.4分と遅延傾向にあり、特に心肺機能停止状態の傷病者の発生など一刻を争う局面においては、今後、地域によっては、救急隊の到着が遅れるおそれがあり、深刻な問題となっている。

これだけでは記事の時間が判明しませんので同じページにあるグラフを示します。

記事はこのグラフを参照して書かれたものと考えられます。次の記事ですが、

現場到着から収容までの時間は10年間で6・5分も延びた計算。要因について総務省消防庁は、19年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。

ここは白書の該当しそうな長いですが、全文引用してみます。

2 救急搬送における医療機関の受入状況

 全国各地で救急搬送時の受入医療機関の選定に困難を来す事案が報告されたことから、消防庁では、平成19年10月に産科・周産期傷病者搬送の受入実態について調査を行い、結果を公表した。また、平成20年3月には、

  1. 重症以上傷病者搬送事案
  2. 産科・周産期傷病者搬送事案
  3. 小児傷病者搬送事案
  4. 救命救急センター等搬送事案
に調査対象を拡大し、平成19年中の受入れ実態について調査を行い、結果を公表した。

 当該調査によって、例えば〔1〕の重症以上傷病者搬送事案において、医療機関に受入れの照会を4回以上行った事案が14,387件あること、地域別の状況をみると、首都圏、近畿圏等の大都市周辺部において照会回数が多く、4回以上の事案の占める割合が全国平均(3.9%)を上回る団体(10都府県)における4回以上の事案数が、全国の事案数の85%を占めるなど、選定困難事案が一定の地域に集中して見られる傾向があることが判明した。また、受入れに至らなかった主な理由としては、処置困難(22.9%)、ベッド満床(22.2%)、手術中・患者対応中(21.0%)等の理由が挙げられた。

 さらに3次救急医療機関と2次以下の救急医療機関における受入れに至らなかった理由の割合について、これらを区分して集計することが可能であった7都県において分析を行ったところ、3次医療機関で受入れに至らなかった理由において、「ベッド満床」が37.8%、「手術中・患者対応中」が34.5%と高いのに対し、2次以下の医療機関では「処置困難」が39.0%と高く、両者において受入れに至らなかった理由の傾向が異なることが明らかになった(第4図参照)。

 救急搬送における受入医療機関の選定が、大変厳しい状況にあることを踏まえ、消防庁では、平成19年度に「消防機関と医療機関の連携に関する作業部会」を「救急業務高度化推進検討会」に設け、平成20年度も引き続き、円滑な救急搬送・受入医療体制を確保するための対策について検討を行っている。

白書の内容は記事とやや異なるかと存じます。白書でも確かに照会回数の分析は行われ、受け入れられなかった理由の分析を行なっていますが、少なくとも「拒否」の言葉は用いられず、受け入れが出来なかったことが「影響した」との結論にしていないように私は感じます。個人的には医療機関の受け入れが困難になりつつある事に対しての対策を医療機関と連携を深める事により改善しようの姿勢に受け取れます。

次の記事に進みます。

 消防庁は、救急医療は医師不足など厳しい状況で対策を急ぐ必要があるとし、搬送の際に空きベッド状況などを把握できる「救急医療情報システム」に医療機関が積極的に協力することを求めている。

ここも白書該当部分を引用します。

救急搬送の適切な実施を確保するために、早急に講じるべき対策としては、医療機関による救急医療情報システムへの迅速・正確な入力、救急隊による正確な傷病者観察とそれに基づいた適切な医療機関選定・情報伝達、受入可能と表示した医療機関による受入の確保等が円滑に行われることが必要であることが指摘された。

たしかに白書にもそう書いてあります。次の記事に進みます。

 消防庁は現場到着が遅れる背景について、高齢化などで全国の救急車出動件数が約529万件と10年間で52%増加していると指摘。「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。

白書該当部分は、

 現在、少子高齢化社会の進展や住民意識の変化及び核家族化等に伴って救急需要が拡大しており、平成19年中の救急出場件数は約529万件で、平成9年からの10年間で約52%増加している。

白書を読む限り記事の後半部分については書かれていないように思います。さらに次に進みます。

 消防庁は出動件数を減らすため、緊急性が低いのに救急車を呼んだり、タクシーの代わりに使ったりしないよう呼び掛けている。救急車を呼ぶ必要があるかどうか迷っている人の通報も多く、通報前に医師の助言を聞く相談窓口の整備を急いでいる。

白書該当部分は、

2)救急相談事業の推進

 救急自動車の出動を要請すべきかどうかについて、十分な医学的知識に基づく判断を市民に求めることは困難であり、例えば赤ちゃんの突然の発熱やけが等の場合に、それが軽症であっても、市民が不安を感じ救急自動車の出動を要請してしまうことがある。従来も、消防機関においては市民からの問い合わせに対応するサービスや、診療可能な医療機関の情報を提供するサービス等を行っていたが、医学的判断に基づいた相談は行われてこなかった。

 東京消防庁においては、平成19年6月より、救急自動車の出動要請をするかどうか迷った場合に、緊急受診の要否に関するアドバイスや、医療機関の紹介を行い、さらには応急手当等に関して相談に応じる「東京消防庁救急相談センター」(#7119)を開設し、医師、看護師等が24時間365日体制で対応し大きな成果を上げているところである。

 市民の救急相談に対し救急車の出動も含め適切に対応することで、市民の安心と安全を確保していくため、消防庁では、今後、消防と医療の一層の連携を図りつつ、救急相談事業について推進していくこととしている。

ここは記事通りかと思われます。最後ですが、

全国の救急隊数は10年間で8%増にとどまっており、消防庁は「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」と説明している。

ここの白書該当部分は、

一方で、全国の救急隊数は、平成10年からの10年間で約8%の増加にとどまっている

産経記事もおおよそ正確かと思われますが、白書にない部分が幾つか見られます。無いと考えられるのは、

  1. 「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。
  2. 「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」と説明している。
この二つについては消防白書の報道発表時に消防庁が補足説明した可能性を考えますが、
    要因について総務省消防庁は、19年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している
こういう内容の補足説明が本当になされたかは個人的にやや疑問をもちます。もちろん真相はわかりません。ただ12/16付タブロイド紙でも、

  • 19年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。
  • 「救急車が足りなくなり現場から離れた消防署から出動している」とした。

こう報じており、さらには12/16付中日新聞でも、

  • 07年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。
  • 「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。
  • 「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」と説明している。

もう一つ12/16付佐賀新聞でも、

  • 07年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。
  • 「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。

各紙の報道内容が酷似しているため、消防庁の補足説明としてあったと考えるのが妥当と考えます。それとなんですが、各紙の内容・構成が非常によく似ているため元記事と考えられる12/16付共同通信を引用しておきます。

 通報から救急車の現場到着までの時間が2007年の全国平均で前年より0・4分長い7・0分、到着から患者を搬送し医療機関に収容するまでの時間は1分延びて26・4分となり、ともにワースト記録を更新したとする08年版消防白書が16日、閣議で了承された。

 現場到着から収容までの時間は10年間で6・5分も延びた計算。要因について総務省消防庁は、07年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。

 消防庁は、救急医療は医師不足など厳しい状況で対策を急ぐ必要があるとし、搬送の際に空きベッド状況などを把握できる「救急医療情報システム」に医療機関が積極的に協力することを求めている。

 消防庁は現場到着が遅れる背景について、高齢化などで全国の救急車出動件数が約529万件と10年間で52%も増加していると指摘。「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。

 消防庁は出動件数を減らすため、緊急性が低いのに救急車を呼んだり、タクシーの代わりに使わないよう呼び掛けている。

共同通信記事はオリジナルなのは間違いないので、ここで使われている。

  1. 07年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。
  2. 「通報から収容までの時間が延びて救急車が足りなくなり、現場から離れた消防署から出動している」と、悪循環が起きているとした。
この二つの補足説明の大元は、文章が似ているため共同通信記事の可能性が高いとも考えられます。つまり自分で取材したのではなく共同通信記事を買って脚色しただけの可能性です。それともう一つの「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」のルーツは今朝の時点では判明しませんでした。

以上簡単ですが記事の比較検証でした。