消防白書を単純に読む

消防白書は平成11年度からWebで確認できます。昨日の記事比較検証でどうも総務省消防庁の補足説明で、

現場到着から収容までの時間は10年間で6・5分も延びた計算。要因について総務省消防庁は、19年8月に奈良県の妊婦が医療機関に10回以上、収容を断られ死産したことに象徴される病院の受け入れ拒否が影響したなどと分析している。

こういう趣旨の説明をされた事は確認できます。実際はどういう真意で説明されたかは記者会見場にいない者には記事情報以上のものは入手しようがありませんが、これは現象の説明だけです。もちろん「医者がサボっている」と即断して鞭打ち打つ人もおられるでしょうが、照会回数のデータ自体は昨年度から全件数に調査範囲が広がったので、とりあえず増えているか減っているかを確認できる統計データはありません。

それでもマスコミが大々的に報じられているので、照会回数を減らす、すなわち問答無用で病院に押し込めばすべて解決するの論調は少なくありません。そうでなく照会回数が増えても不思議は無いんじゃないかのデータを、単純に消防白書から示してみたいと思います。

病院が救急隊の搬送を受け入れられない、いわゆるマスコミ用語の「たらい回し」が起こる要因は、基本的に救急需要と医療供給の関係になります。搬送需要に救急隊の能力が限界に達しつつある事を消防白書では訴えています。

  1. 現在、少子高齢化社会の進展や住民意識の変化及び核家族化等に伴って救急需要が拡大しており、平成19年中の救急出場件数は約529万件で、平成9年からの10年間で約52%増加している。
  2. 一方で、全国の救急隊数は、平成10年からの10年間で約8%の増加にとどまっている
  3. 消防庁は「地方公務員の削減が進む中、隊員数を増やすことは難しい」と説明している。(記事情報)
10年間で救急需要が5割増なのに、それに対する救急隊の増加が8%しかなく、さらにこれを増やすのは難しいとしています。救急搬送数の増加をグラフにして見ます。
白書に把握できる具体的な数字として、
    1998年度:370万1315件 → 2007年度:529万236件(42.9%増)
このうち軽症救急(入院を要さない救急)は、総務省データによると、
    1996年度:50.1%
    1999年度:50.2%
    2002年度:51.2%
    2005年度:52.1%
このデータを参考にすると、概算ですが救急搬送にて入院治療を必要とした患者数は、
    1998年度:約181万人 → 2007年度:約251万人
約70万人増えた事になります。救急隊は8%しか増えずに大変と消防白書は書かれていましたが、救急需要を受ける救急医療機関の推移をグラフにして見ます。
具体的な数字を白書で見ると、

年度 総数 病院 診療所
国公立 私立 合計
1998年度 5148 1243 3040 4283 865
2007年度 4370 1272 2692 3964 406
増減率 15.1% 2.3% 11.4% 7.4% 53.1%


全体の減少数の15.1%は半減した診療所数の影響が大きいですが、入院をほとんど引き受けている病院数は7.4%の減少となっています。こうやってデータをまとめて驚いたのは国公立の救急医療機関数は殆んど横這いである事です。これももうすぐ政策的(by 総務省)に減らされますけどね。それでもって、もう一度まとめると、

項目 10年間の増減
総搬送件数 158万8921件増(42.9%増)
入院件数 約70万件増(38.7%増)
救急隊数 約8%増
救急病院 7.4%減(319ヶ所減)


ごくごく単純に考えて、救急需要の増加に医療供給が追いついていないのが「病院の受け入れ拒否」の理由と考えられるのですが、如何なものでしょうか。もちろん他にも医療事情が逼迫している説明は多々ありますが、消防白書のデータだけでもこれぐらいは読み取れます。もう一つ興味深いデータがあります。救急医療機関数は緩やかながら減少を続けているのですが、とくに落ち込みが激しいの2006年度から2007年度にかけてです。

年度 病院 診療所
2006年度 4129 608
2007年度 3965 406
減少数 165 202
減少率 4.0% 33.2%


ここはもうくどい解説は不要でしょう。