たらい回しを防げ、管制塔役の医師が搬送先調整…長崎
長崎県佐世保市は来年1〜3月、救急患者の搬送先がすぐ決まらなかった場合、担当医が振り分ける新たな救急医療体制のモデル事業を実施する。“管制塔”役の医師を置くことで、患者の「たらい回し」を防ぐのが狙いで、事業の成果を検証したうえで継続するかどうかを判断する。市は8日開会の定例市議会に、約1900万円の関連事業費を計上した補正予算案を提出する。
同市では現在、夜間や日曜・祝日に、入院や手術が必要な患者が出た場合、救急隊員が搬送先の候補となる市内の11病院などに照会。連絡を受けた各病院の看護師長らが医師に症状を報告し、受け入れの可否を判断している。看護師長らが仲介するため判断に時間がかかるうえ、受け入れられなければ、救急隊員は別の病院に照会し直す必要がある。
市内の医師不足も深刻で、2009年度の人口10万人当たりの医師数は251・9人と、県平均の278・3人を下回っている。医療体制の脆弱(ぜいじゃく)化が原因で、救急隊員の照会が4回以上になるケースが10年は263件あり、06年の2・7倍に上った。
同市の医師会からは「過酷な勤務で医師も疲弊しており、このままでは『たらい回し』による最悪の事態が起きかねない」と危惧する声が上がり、市は対策に乗り出すことにした。
事業では、管制塔役の担当医や11病院の医師、7グループ程度の救急隊に、専用の携帯電話(最大30台)を配布。3回照会しても搬送先が見つからない患者の連絡を受けた担当医が、症状や専門分野などから適当と判断した医師に電話し、受け入れを要請する。担当医は、その日の市内の当直医1人が務め、全体では5〜10人ほどになる見込み。
事業は1〜3月のうち45日間程度を予定。市保健福祉政策課は「医師間のホットラインを生かし、窮状を打開したい」としている。
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救急隊員の照会が4回以上になるケースが10年は263件あり、06年の2・7倍に上った。
- 救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果について(平成19年データ)
- 平成20年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果(平成20年データ)
- 平成21年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果(平成21年データ)
- 平成22年中の救急搬送における医療機関の受入状況等実態調査の結果(平成22年データ)
種別 | 2007 | 2008 | 2009 | 2010 | ||||
総搬送数 | 4回以上 | 総搬送数 | 4回以上 | 総搬送数 | 4回以上 | 総搬送数 | 4回以上 | |
重症救急 | 4959 | 81 | 5959 | 62 | 6108 | 94 | 6086 | 81 |
周産期救急 | 206 | 4 | 172 | 1 | 137 | 2 | 178 | 0 |
小児救急 | 1996 | 39 | 2332 | 39 | 2435 | 44 | 2385 | 35 |
センター救急 | 5 | 2 | 2329 | 13 | 2353 | 16 | 2743 | 27 |
* | 計 | 126 | 計 | 115 | 計 | 156 | 計 | 137 |
記事にある2010年の「263件」は4分類以外の中等症や軽症の搬送事案も含めたものと考えざるを得ません。別にそれでも構わないのですが、2006年より2010年が2.7倍になっていると言う事は、2006年の照会4回以上は97件ぐらいだった事になります。そうなると長崎の「たらい回し」は2007年から急速に悪化した可能性が考えられます。消防庁データの4分類は重複もあるとされていますが、それにしても2006年データとそれ以降の落差が大きいように感じてしまいます。
ここについては、「263件」は長崎県の佐世保市のデータと見るべきだも当然あります。救急出動件数のデータがあるので紹介しておくと、
年 | 出動件数 | 年 | 出動件数 | 年 | 出動件数 |
1999 | 9053 | 2003 | 11585 | 2007 | 12752 |
2000 | 9704 | 2004 | 12087 | 2008 | 12700 |
2001 | 10230 | 2005 | 12569 | 2009 | 12612 |
2002 | 11050 | 2006 | 12886 | 2010 | 13602 |
2006年には12886件の出動に対して97件であったのが、2010年には13602件中263件になった事になります。長崎県全体の消防庁データは上に示した通りで、統計に出ている4分類の合計は2007年から2010年の間で増減はあるものの横這いです。そうなると考えられるのは、
- 全体数が増えれば通常は重症以上の数もほぼ同じ比率で増えるはずだが、佐世保市以外がカバーして長崎県全体の増加を抑えている
- 重症以上の救急を何らかの方式で優先し、そのツケが中等症以下の照会回数に反映している
- 2006年から2007年で突然照会回数が急増した
- 長崎県の人口は約142万人、一方で佐世保市の人口は約26万人。長崎県全体の2割近い規模があり、佐世保市の増加分をカバーするのは容易とは言えない。
- 救急要請は逐次式であり、原則も何も早く要請されたものが先に処理される。いつ重症以上が要請されるかは予測不可能。
- どう考えても不自然。
そうでも考えないとデータの流れから不自然な増加にしか見えません。
あんまりやる気がないのですが、感想としては「木を見て森を見ず」の姑息策です。もっとも佐世保市レベルでは姑息策しか出来ないので仕方がないでしょうが、
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市内の医師不足も深刻で、2009年度の人口10万人当たりの医師数は251・9人と、県平均の278・3人を下回っている。
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3回照会しても搬送先が見つからない患者の連絡を受けた担当医が、症状や専門分野などから適当と判断した医師に電話し、受け入れを要請する。
ここでのポイントは、管制役の医師が何回照会を行おうとも、救急隊からの照会回数つまり「たらい回し」回数は増えない点かと思われます。管制役の医師が何ヶ所照会しようとも救急隊からの照会ではないからです。最近のマスコミの「たらい回し」批判の水準は往々にして「1回でも拒否は許さない」がチラチラ見えます。それならば効果的な方法として、
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救急隊からの搬送要請は「すべて」管制役の医師が搬送先を確保し案内する
実はここからが今日の本題なのですが、管制役に指名される医師は、
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担当医は、その日の市内の当直医
意識していないのですから、佐世保市も読売も「当直医とは当直料でこき使える医師」ぐらいの認識から一歩も出ていないと考えるのが妥当です。まあ、それは勝手ですが、問題はこの管制事業です。
別に抜き出さなくとも、市の公式事業として行われます。病院に対しては市からの公式の協力要請が出されるのは間違いありません。公式の協力要請を受けた病院は、管制役になる当直医に「管制役をやれ」の業務命令を下す事になります。いくら労基法上の当直医であっても、業務命令が下れば管制役を粛々と行うでしょうが、業務命令が出た時点で誰がどう言い繕うが勤務です。
そうなれば労基法の当直医としての当直料とは別に、当直時間帯すべての時間外手当が必要になります。年間263件ですから管制役を行っていない時間帯の方が多くはなるでしょうが、担当時間帯にいつでも対応できる体制を続けなければなりませんから、労基法上の「手待ち時間」と解釈されます。予算が約1900万円となっていて事業期間は、
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事業は1〜3月のうち45日間程度を予定