取材が雑すぎないか

統合失調症と言う病気があります。精神疾患として代表的なものですが、小児科医である私には縁が薄く、手許に精神科の本もない有様なので恥ずかしながらwikipediaから症状を引用させて頂きます。他の引用でも良いのですがwikipediaがシンプルなのでご容赦ください。

■陽性症状

  • 思考の障害
    • 思考過程の障害
    • 思考内容の障害(妄想)
  • 知覚の障害と代表的な表出
  • 自我意識の障害
    • 意志・欲望の障害
陰性症状
  • 感情の障害
  • 思考の障害
  • 意志・欲望の障害
■その他の症状
  • 現実検討力の障害
  • 感情の障害

当ブログはプロの中のプロも読まれるのでこんなチャチな説明を行う事自体が自殺行為なんですが、プロでない方のための説明と御理解頂きお目こぼしよろしくお願いします。こういう多彩な精神障害を持つ方を統合失調症と呼び、近年では治療成績の向上も見られているそうですが、手強い病気である事には変わりありません。もう少し詳しい情報が欲しい方は引用元のwikipediaでも御参照ください。

ここに共同通信社が発信している医療新世紀なる連載ものがあり、中間管理職様も御批評されている記事があります。

第3部「現場からの声−5」 「私はモルモット」つらい入院体験、心病む

一連の記事を読んで、つらい体験を思い出したという読者から手紙が届いた。中部地方に住む45歳の女性。

 〈入院した時、医師に反論したことがありました。ものすごい反対にあいました。針のむしろで、自殺しそうにまで追い詰められました。退院後に精神を病みました〉

 丁寧な手書きの文字。一体どんな経緯があったのか。書かれていた電話番号にダイヤルした。

 「人間として扱われず、モルモットだと感じることがありました」

 静かな口調で、女性は1カ月半に及ぶ8年前の入院生活を振り返った。

 耳の帯状疱疹と顔面神経まひの治療のため総合病院に入院。薬の投与を受けるうちに、胸部の激しい痛みや息苦しさが続くようになった。主治医から、心理的な要因によるものだと言われたことを覚えている。

 薬の副作用ではないかと主治医に疑問をぶつけてみた。

 「医師はみるみる機嫌を損ね、『あなたのような症状は精神が安定していないから出るんだ』と強い口調で言いました。その後は症状を訴えても、検査をしてもらえないこともあった」と女性。

 不信感を抱き、別の医療機関で診察を受けようと決意した。

 「退院させてほしいと言ったけど、聞き入れてもらえず、院内でカウンセリングを受けるよう指示されました。医師や看護師が『あの患者は精神がおかしい』と別の患者さんに話しているのを耳にしたこともあります」

 退院したが、人込みが怖くなった。体調が悪くても病院に行くのをためらうようになった。 家族の勧めで別の医療機関の精神科を訪ねた。2004年、統合失調症と診断され再び1カ月半にわたり入院。その後の通院治療中に、以前入院した総合病院への不満を口にした。

 「でも精神科医には最初、『その病院や先生に問題はない。悪く言うのはやめた方がいい』と、たしなめられました。思いを理解してもらえるようになったのは、ようやく昨年あたりからです」

 心の病は、医療の“副作用”か…。 「患者からの批判に、医者は激しく反発するものだと痛感しました。だからこそ今は、疑問や不安に耳を傾け、ちゃんと治療をしてくれる人に会うと感激するんです」

 女性はそう言って、受話器を置いた。

◎この連載に対する感想やご自身の体験を「医療漂流」取材班にお寄せください。ファクスは03(6252)8761、電子メールはhyoryu@kyodonews.jp (2008/11/25)

締めと言うか結論的な部分ですが、

心の病は、医療の“副作用”か…。 「患者からの批判に、医者は激しく反発するものだと痛感しました。だからこそ今は、疑問や不安に耳を傾け、ちゃんと治療をしてくれる人に会うと感激するんです」

こういう結論になる理由と言うか原因として8年前の入院が原因であったと展開されているように受け取れる記事です。つうかそれ以外に読み取りようがない記事と言っても良いかと思います。訴えられた患者自身はそういう風に固く信じていると考えますし、患者がそう訴える事は何の問題もありません。なぜなら

統合失調症と診断

患者は統合失調症になっていたからです。統合失調症の発症要因については現在でも解き明かされていない点が多いはず(私の知識はその程度に留まっています)で、強いて言えば脳にある種の遺伝子的欠陥があり、これがある時期に破綻するからでは無いかと考えられているはずです。破綻の要因としてストレスも数えられますが、ストレスは破綻の引き金になる事はあっても、ストレス単独で統合失調症を引き起こすかといえば否定的であったはずです。

患者は記者の取材に対して様々な訴えをされています。問題は患者の状態です。記事の主張が正しいとするためには、

  1. 8年前の入院時には統合失調症でなかった
  2. 入院中のストレスが引き金になり統合失調症を発症した
  3. 現在は統合失調症が軽快している
この3つの条件が必要です。統合失調症は医学の進歩により必ずしも不治の病ではなくなっていますが、それでも手強い病気です。また精神疾患の場合、「これで完治、心配なし」と明瞭に区切りをつけにくい性質があります。付けられることもあるかもしれませんが、病は精神の中にあり、目に見えないものですから安易には言えない事が多いものです。

共同通信記者はこの記事を電話取材だけで行なっています。まあ、実際に会っても大差なかったかもしれませんが、患者の言葉をほぼ全面的に信用しての記事構成になっています。つまり現在の患者の統合失調症の治療状況も患者の言葉のみを信用している事になります。統合失調症の患者の症状の特徴の一つに「病識がない」があります。病識とは自分が病気であるという意識です。だから病識が出てくると統合失調症の治療で効果が出ている一つのサインと受け取ったりします。

何が言いたいかですが、患者が記者に訴えた事柄は患者にとってはそうであると信じ込んでいる事柄です。ただし本当にそうであるかどうかについては慎重に事実関係の裏取りを行なわなければならないという事です。少なくとも現在の治療状況についての患者本人以外の専門家ないしは近親者などの第三者の評価が必要と考えます。患者の病状が軽快しており、その言葉をほぼ額面通りに信用できる状態なのか、それとも統合失調症の特徴の一つである妄想が出る状態なのかの判断です。

統合失調症の患者の病態も多彩であり、理性を保ちながら妄想を展開し、その妄想が真実かどうかの判断が難しい事も多々あります。そこまでの判断を一通の手紙と電話取材だけで可能なのかに大きな疑問を感じます。少なくとも一通の手紙と一本の電話だけで判断するのは専門家でも容易ではないと思われます。