厚労省の小失態

全国保険医団体連合会が掘り出した「5分ルール」の中医協資料の出典ですが、厚労省の小失態と言うあたりで落ち着きそうです。保団連がHPや保険医新聞で「目的外使用」と報じたのに対し、厚労省が抗議書を出したらしいが先週までの動きでした。「らしい」とはしましたが、元はm3情報らしく、さらにそういう抗議書について無能な土木役人様から、

それから、役所として公文書で抗議書を送るという話はあまりききませんね。

御指摘の通りで、まさか正式の抗議書は出ないだろうとも考えていましたが、なんと出てました。顛末は厚労省から保団連への抗議文として保団連から発表されていますが、簡単に補足しながら紹介します。まずさすがに「抗議書」とは銘打たれていませんが、配達証明付で厚生労働省と書かれた封筒で保団連に郵送されています。

平成20年6月20日
全国保険医団体連合会御中
厚生労働省保険局医療課

 日頃より保険診療に御尽力いただき、感謝申し上げます。

 本年4月より実施されている平成20 年度診療報酬改定において、患者に対する懇切丁寧な説明を評価する観点から、外来管理加算の見直しを行ったところですが、外来管理加算に係る議論を行った昨年12 月7 目中央社会保険医療協議会提出資料におけるグラフ資料について、貴会のホームページにおいては、「厚生労働省、調査データを不正流用。」と題し、あたかも当省が調査データを不正に使用しているかのような記載が見られました。

また、貴会が発刊する全国保険医新聞(2008 年6 月15H 号)においては、「別件調査が『5分ルール』の根拠に」(カッコ内は全国保険医新聞記事より引用。本段落において以下同じ。)、「『概ね5分』根拠なし」との表題の下、当省が行った時間外診療に関する実態調査(以下「調査」という。)が「『今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため』として」実施されたとし、「これを密かに、外来管理加算の時間要件という全く別の目的に使用したのは、明らかな不正行為であると考えられる。」と述べられています。

 しかし、当省が行った調査については、医療機関に対し調査への協力を依頼する文書において、「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に… 実施することとなりました。」とし、平成20年度診療報酬改定における検討で用いることを明確にして実施したものであり、調査の結果を外来管理加算の検討に用いることにっいては、何ら不正使用に当たるものでないことは明らかです。この点において、貴会のホームページの記載や、全国保険医新聞の記事には重大な誤りがあるものです。

 さらに、全国保険医新聞の記事については、貴会からの情報公開請求に対し当省が開示した文書を基に執筆したものであることを明らかにしていますが、当該記事の中で開示決定資料から引用しているかのように記載している「『今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため』」については、そもそも誤った開示資料の文言をそのまま用いて執筆しています。(正しくは前述のとおり「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」です。)当初の開示資料について誤りのあった点にっいては、当課担当より貴会事務局及び本件を担当される本田内科医院院長本田孝也氏に対し謝罪し、再三御説明した上で、訂正後の正しい開示決定資料をお渡しし、ご了解いただいたにもかかわらず、貴会はあえて訂正前の資料を基に記事を作成されました。これは、単なる事実誤認の域を超え、意図的に誤った情報を流布したものであると言わざるを得ません。

 当課としては、貴会のこうした誤った情報発信に強く抗議し、貴会が誤りを認め、速やかにホームページを修正し、新聞及びホームページにおいて訂正文を掲載することを、ここに申し入れる次第であります。

 まずは取り急ぎ、ここに書面をもって申し入れます。

以上

文書にタイトルはつけてありませんが、「厚生労働省 保険局 医療課」と発信者が明記してあり、文中に、

 当課としては、貴会のこうした誤った情報発信に強く抗議し、貴会が誤りを認め、速やかにホームページを修正し、新聞及びホームページにおいて訂正文を掲載することを、ここに申し入れる次第であります。

こうあれば公式の抗議書の一種と見なす事は可能かと思います。抗議内容はさすがに診療時間算出方法については触れていません。本当の問題はそちらの方なんですが、もう一つの目的外使用に絞って抗議を行っています。ただこの文書の評価として無能な土木役人様から、

ところで、あの抗議文、文書番号もなければ、課長名の判子もないから、法的には医療課は発出した正式な公文書ではないですね。課長名で出せないときには課長補佐の名前+私印とかその文書の責任がだれにあるのか明確にするのが、普通のやり方なんだけど、責任者の名前もなし。普通じゃないですね、この文書。いわば、厚労省の封筒で送られてきた怪文書ってところか。郵便代は誰が出したんだろ。公費かな?

なるほど形式として「正式」では無いという体裁が取られていると解釈するのが宜しいようです。それでも配達証明付と言うのはどう解釈するのでしょうかね。


それはさておき抗議の要点は、

当該記事の中で開示決定資料から引用しているかのように記載している「『今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため』」については、そもそも誤った開示資料の文言をそのまま用いて執筆しています。(正しくは前述のとおり「今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に」です。)

これは元データの調査にあたり厚労省が配布した『「時間外診療に関す実態調査」ご協力のお願い』の目的部分が、

    (a)今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に
    (b)今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため
どちらであったかの真相についての抗議です。ここが煩雑なのですが、厚労省は情報開示に当たり

当初の開示資料について誤りのあった点については、当課担当より貴会事務局及び本件を担当される本田内科医院院長本田孝也氏に対し謝罪し、再三御説明した

どういう事かと言うと『「時間外診療に関す実態調査」ご協力のお願い』には本書と下書きの2つのバージョンが存在し、厚労省は情報開示に当たりまず誤って下書きバージョンを渡し、その後に訂正して本書バージョンを渡すという経緯がまずあったようです。そのうえで保団連は厚労省が謝罪の上訂正したにも関らず、本来は(a)であるはずなのに意図的に(b)を用いている点に対しての抗議と訂正を求めている内容と考えられます。本書の内容であっても違和感を感じたのは前に書いたとおりですが、お役所的にはあれで問題ないの情報は先日頂いたばかりです。

ところがです。厚労省の抗議文の目的の文面ですが原資料と実は異なっています。本書バージョンは合っているのですが、下書きバージョンはやや異なります。どうなっているかと言えば、

下書きバージョンの方がよりまわりくどい表現となっており、抗議書の内容とはかなりの差異が生じています。こういうところは重要な点ですし、単なるミスタイプにしては差が大きすぎるように感じます。ここに第3の資料が出てきます。調査を請け負ったみずほ情報総研の調査依頼文です。アレレレ、厚労省が誤っていると指摘した文面は、なんと調査を委託したみずほ情報総研の「目的」に関する文面だった事になります。つまり厚労省は保団連に抗議するに当たり、みずほ情報総研の文面を参照していた事になります。一字一句違わないのですから、下書きバージョンを見ながらこれだけのミスタイプは起こらないと考える方が妥当です。とりあえず厚労省は小失態を演じた事になります。

それでも抗議の趣旨である「目的外使用ではない」に対しての文意は最低限通っているので面子はなんとか保たれるのですが、本書バージョンとみずほバージョンは調査にあたり同封されたとされます。そうであればみずほ情報総研の単純ミスになってしまうのですが、保団連はみずほ情報総研に問い合わせを行なっています。

6月2日にみずほ情報総研に電話で正しましたところ、「厚生労働省様には、しっかり確認しました」「本当?」「はい。ちゃんと確認しました。」と回答しています。

これは推測になりますが、みずほ情報総研は文書作成時に内容の最終確認を厚労省と取り合っていると考えられます。みずほ情報総研が下書きを厚労省に送付し、これに対する了解みたいなものをもらう手順です。まさかみずほ情報総研が勝手に作って勝手に同封したとは思えません。当然ですがみずほ情報総研が作成に当たり参考にしたのは厚労省の原稿です。文面自体はありきたりの定型文ですから、主要部分は丸写しにするのがもっともありそうなケースです。

保団連は間違って開示された下書きバージョンからみずほ情報総研の文面が作成されたと推理していますが、私はちょっと違う可能性を考えています。下書きバージョンとみずほバージョンをもう一度ならべてみます。

    下書きバージョン:今後の時間外診療のあり方を検討するための基礎資料とする事を目的に
    みずほバージョン:今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため
参考にしたにしては違いすぎます。これだけ違っていれば今度は厚労省から「訂正」の指導が入ると考えられます。もっと言えば書き換える必要さえ無い部分です。何が考えられるかですが、厚労省の下書きバージョンはもう一段階存在しているのではないかと考えます。開示されたものを下書きバージョン1としますが、これでの表現はどう読んでもクドイので、下書きバージョン2としてみずほ情報総研の文面でのものがあった可能性です。

みずほ情報総研が原稿を作成した頃は下書きバージョン2がβ版として厚労省内にあり、みずほ情報総研からの問い合わせに対してもβ版を用いて「了承」していたとすればどうでしょう。これが土壇場でさらに修正が加わり本書バージョンになったものの、みずほ情報総研の文面修正までは配慮が回らず、異なった文意の2通の「お願い」が同封される結果になったというものです。簡単に時系列にしてみると、

  1. 下書きバージョン1が作られる(誤って開示された分)

  2. 下書きバージョン2が作られる

  3. みずほバージョンが下書きバージョン2を参照して作られる
  4. 本書バージョンが作られる
誤って開示されたのは下書きバージョン1ですが、厚労省の担当者の頭の中では下書きとは下書きバージョン2であると思い込んでいたと考えられます。さらに誤開示されたものも当然下書きバージョン2であると思い込み、トンチンカンな抗議を行なったと考えれば筋が通ります。

それでも小失態ぐらいで話は終わりそうなのですが、厚労省がようやく気づいた問題点が浮上していそうです。どうも抗議文を出した時点で厚労省は、みずほバージョンの存在を意識していなかったようです。みずほバージョンなら厚労省が抗議文で書いてしまったように「目的外使用」に該当してしまいます。もちろん厚労省の本書バージョンが同封されていますから、効力としては「みずほ情報総研は誤り」とすれば外部的には話は終息するかと思ったのですが、ここも無能な土木役人様から、

確かに、直接の依頼元のみずほ総研からの文書では、「時間外の診療体制の検討のため・・」とあるから、こりゃアウトだわ。これでは、「目的外使用に当たらないのではないか」と申し上げた私の発言を撤回せざる得ませんね。

この調査での厚労省みずほ情報総研の関係を簡単にまとめると、


発信元 関係 調査目的 目的外使用
厚生労働省 発注元 今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に
みずほ情報総研 依頼元 今後の時間外の診療体制のあり方を検討するため ×


私は調査を請け負ったみずほ情報総研の文書より発注元の厚生労働省の文書のほうが圧倒的に重いと漠然と考えていましたが、みずほ情報総研の文書も相当重い存在のようです。この辺の感覚に乏しいところがあるのですが、どうやら調査結果を受け取った厚労省は目的外使用は無問題と強弁できても、みずほ情報総研に対しては目的外使用と正式に抗議できる余地が生じそうな気がします。確かに直接の依頼元は目的外使用はしないとしているのに、調査結果を受け取った発注元が目的を変更してしまうのは問題となりそうです。

それでもおそらくですが、二つの文書は同封されていたので、厚労省は「連絡ミス」による「些細な手続きの誤り」ぐらいにして、この問題はねじ伏せる様な気がします。影響としてはこれもまた無能な土木役人様からですが、

多分担当者は相当油を絞られてるんじゃないかなあ。手続きの不正行為は役所にとって非常にヤバイから、担当課は真っ青かも。騒ぎになったら課長の将来にも影響が出かねないし。 

後は厚労省内部の人事査定みたいな話に矮小化しそうです。結構良質そうな燃料でしたが、現在のところこじんまり燃えて終わりそうな気配が濃厚に漂っています。何かするならみずほ情報総研に目的外使用の責任を問うと言う手はありますが、そうなればみずほ情報総研のほうは平謝りに出て、こちらも担当者処分ぐらいで話をおさめてしまいそうです。みずほ情報総研にしても担当者のクビよりクライアントとしての厚労省を大事にするでしょうからね。

そういう訳で、とりあえずこれで幕引きみたいです。