お薬手帳騒動

久しぶりに医療系の話題を書いてみます。ツイッター界隈でも少々話題になったもので概略は、

    診療報酬改定で調剤薬局でクスリをもらう時にお薬手帳への記載を断ったら20円安くなるぞ! 拡散!!
お薬手帳の意義は長くなるので今日はあえて割愛します。厚労省お家芸である「○○をしたら高くなる(安くなる)」の誘導方式は、ごく簡単にまとめると、
お薬手帳がなければ 普及促進の動機
調剤薬局 患者
安くなる プラス マイナス
高くなる マイナス プラス
こんな構図になります。今回の方式は調剤薬局側にペナルティを課したので患者側にマイナスのモチベーションが生じたわけです。ここで表を見ればお分かりのように「高くなる」誘導方式もあります。この場合は患者側にプラスのモチベーションが生じますが薬局側のマイナスのモチベーションとして、「70円」と言うのは調剤薬局の保険報酬点数で患者側の窓口負担は3割で「20円」と言う事です。「安くなる」誘導方式では患者側に20円のマイナスのモチベーションが生じますが、「高くなる」誘導方式ではこれが70円になると言う事です。「70円 vs 20円」なら70円(調剤薬局)の方により強いマイナスのモチベーションが発生すると厚労省は判断したのかなぁ? 私は調剤薬局側はお薬手帳の普及促進に積極的であると見ています。ところがこれは実は妄想で、お薬手帳の普及促進なんて調剤薬局にすれば「カネの切れ目が縁の切れ目」的な位置づけなんでしょうか。わかるのは厚労省の判断としては、
    薬局が70円のためにお薬手帳を故意に利用しない可能性 >> 患者が20円節約する可能性
こんな関係と考えている風に見えます。ここは考えようでこうとも見れます。
普及促進方式 保険者の支払い
普及率アップ時 普及率ダウン時
調剤薬局にペナルティ 少し下がる 大きく下がる
患者側にペナルティ 少し上がる 大きく上がる
今回の診療報酬改定は調剤薬局お薬手帳を記入しなかったら従来より減算するものです。つまり総額で言うと調剤薬局は、これまでお薬手帳を利用していなかった人を漏れなく全員記入してやっと従来の収入を確保できるわけです。そんな事は机上の空論に等しいですから、どんなに普及率を向上させても調剤薬局全体ではマイナスになります。ましてや普及率が下がればマイナスはさらに大きくなります。逆に患者側にペナルティを課す、今回取らなかった選択枝を選ぶとどうなるかです。この場合は従来の診療報酬に加算になります。そうなると普及率が100%になって初めて保険者からの支払いが従来並みになります。そんな事は不可能ですから、普及率が100%に満たない分だけ保険者の支払いが大きくなります。ましてや普及率が下がろうものなら持ち出しばかりが増える結果になります。今回の厚労省の「安くなる」誘導方式は
  1. 普及率が上がっても支払いは増える事はない
  2. 普及率が下がれば支払いは確実に減る
どう転んでも保険者の支払いは減ります。患者側へのペナルティならこれが逆になります。つまり厚労省調剤薬局へのペナルティを選択した理由は、
    保険者の支払いの節約 >> お薬手帳の普及促進
厚労省に取って医療費削減は絶対の大義ですが、お薬手帳普及も大義のはずです。どっちの大義の方が厚労省に単純比較で重いかと言えば医療費削減になるであろう事は理解可能です。ただなんですが医療費削減の大義のためにお薬手帳普及の大義を小道具に使うのは「???」です。お薬手帳普及は厚労省に取ってその程度の「どうでも良い大義」なんでしょうか。言い換えればお薬手帳普及の大義でさえ医療費削減の大義のためには削減のための小道具と化してしまうぐらいにも解釈できます。

さて、それでも今回の診療報酬改定により厚労省は「お薬手帳の普及促進になったはずだ」の見解は絶対に変えられないと考えます。ここで普及が進まない、もしくは普及が後退する様な事が起こった時に次の展開はどうなるかの予想です。前提は「手法自体は正しい」ですから「ペナルティが軽すぎた」と判断するのは十分可能性があります。そのためにペナルティの範囲を拡大し、医療機関(病院、診療所)を受診する時にお薬手帳を持参していなければペナルティぐらいを打ち出しても不思議とは思えません。厚労省とはそういうところと理解しています。