総務庁様のお怒り

12/16付読売新聞より、

医師不足データ不備、総務相厚労省に改善通知

 総務省政策評価独立行政法人評価委員会は16日、医師確保対策を進めている厚生労働省が地域別・診療科別の医師不足の実態などの基礎的データを十分に把握していないなどとする評価結果を原口総務相に答申した。


 総務相は同日、厚労省に対し、実態把握のうえで、医師確保対策を実施するよう改善を通知した。

 厚労省は自己評価で「診療科別、地域別の必要な医師数の推計は困難」としていたが、同委は「実態をデータとしてつかめていないことが医師不足問題を深刻化させている。医師の需給状況の定量的な把握が必要だ」と指摘した。

 また、1948年以来見直されていない医師の配置基準に関して、医師の長時間勤務の実態などを踏まえた検証を要求した。

「やっぱり無いのか」と言うのが素直な感想です。私も統計ネタでエントリーを書こうとしたら、いつもある時点からデータが不明になります。もちろん厚労省データも膨大ですから、私が探し出せていない可能性もあるとは思っていましたが、総務省が要求しても無いのであれば公式には本当にないのかもしれません。

この記事のモトネタみたいなものが政策評価・独立行政法人評価委員会 政策評価分科会(12月2日開催)議事要旨らしく、そこの「医師確保対策」のところを引用すると、

  • 今回の評価においては、科学的データがほとんどないため、検討のしようがないというのが私の結論である。
  • 文部科学省の評価では、学生1人当たりの教員数は増加している、共用試験の平均点は上がっているとされているが、テストの点数は何回かやっていくうちに上がっていくものだ。日本の医学部学生はレベルが低く、日本の現状や外部の人の指摘については触れられていない。
  • 臨床研修制度や大学院重点化による医師不足への影響に関する記述は無責任だと思う。
  • 臨床研修制度の施行を契機として、医師不足が顕在化したとの指摘があると記述されているが、厚労省自らの意見がない。
  • 病院勤務医の平均勤務時間は週61.3時間とされているが、病院の中には、超過勤務をタイムカードに反映させないようにしているところもある。もっと長時間勤務の実態が表れている調査結果もある。
  • 地方自治体は、独自に努力しており、厚労省文科省は、こうした自治体のデータを使って評価を行うべきなのではないか。
  • 答申で言おうとしていることでは、物足りない。
  • 日本の心臓外科医数はアメリカの3倍、脳外科医数はアメリカの4倍というデータがある。また、手術件数は日本よりアメリカの方が多いという実態がある。こうした背景には、アメリカには医師を補助する者GP(ゼネラル・フィジシャン)等が存在していることがある。このような実態を踏まえる必要があるのではないか。
  • 厚労省は、2年ごとに医師について調査しているが、調査結果を集計して評価に使っていない。
  • 厚労省の評価では、必要医師数の推計は困難としているが、これに対してはその必要性を明確にコメントすべきなのではないか。
  • 産科医療補償制度については、何らデータが示されていない。産科医にとってこの制度が良い制度なのかどうかといったアンケート調査も行われていない。この制度は、民間に丸投げし、原則として「妊娠33週以上、出生体重が2000グラム以上」、「妊娠28週以上で所定の要件に該当した場合」に支払いが限られている。集められた保険料については多額の余剰金が発生するとの指摘が医者からも問題提起されている。こうしたことについて、答申に盛り込むべき。
  • 地域においては、専門医枠を持っているところもある。胸部外科学会が人口当たりの必要専門医数を調査している。こうした貴重なデータを活用すべきである。
  • 学会や各都道府県が一生懸命やっていることについて、厚労省は情報を体系的に収集して整理していない。
  • 各専門医療職種に必要な医行為を明確に定義して具体的な研修を義務付けると同時に、教育機関への財政的支援も行う必要がある。コメディカルの医行為拡大議論においては、こうした教育・研修の充実の議論が必要である。

細かい点に絡み出したら長くなるので適当に目を瞑って、総務省は何を言いたいかを考えて見ます。考えるほどの事はないのですが、新政権により変わっていなければ病院、とくに公立病院の集約による淘汰整理が総務省の基本方針です。

私もうろ覚えの部分があるので、誤解している部分があれば御容赦願いたいのですが、総務省は自らの管轄内である公立病院が赤字である事がお気に召さないようです。もちろん赤字経営で大喜びになる方が異常ですから、赤字経営を問題視する事自体は非難される事ではありません。ただ赤字経営の改善法が単純で、

    赤字経営は許さないから数年以内に黒字にする計画を提出せよ
公立病院が赤字である原因を書き始めると長くなるので省略しますが、この厳命に従って各地方自治体はハコモノ事業の経営予想みたいな経営改善計画を提出しています。どこの計画も見る見る赤字が解消して、見事に黒字転換する予想が麗々しくならんでいます。しかし改善計画が実現するかと言えば、ハコモノ事業の経営予想と同じで、宝くじ並みの実現率であろうことは言うまでもありません。

この経営改善指令と並列するように統合案の推進にも力を入れています。この統合案の私の受け取り方は、

    赤字であれば潰すつもりだが、統合案に賛成したら潰さない
全国に散在する中小の地方公立病院を潰して、広域ブロックごとの大病院に統合しようとの腹積もりと考えています。発想の根幹は「大きい事は良い事だ」でしょうか。これも別に悪い事ばかりではなく、大きくなれば病院の機能もアップしますし、大きいところのほうが一般的に医師も集まりやすくなります。経営的にもスケールメリットが出てくるとは思います。

さてなんですが、総務省の統合整理案をもう一度まとめると、

  1. 今のままで存続したいのなら黒字にしてみろ、赤字のままなら潰すぞ
  2. 潰されるのが嫌なら総務省の統合整理案に従え
これが仮に粛々と進んだとして、総務省が心配している(してないかもしれませんが・・・)のは、統合整理後の医療がどうなるかです。少なくとも統合整理後の病院がキチンと機能してくれないとチト拙いかもしれません。アクセス面でかなりの犠牲を払いますから、その代わりに求められる機能として、24時間365日のデパート診療機能、100%の確率で二つ返事でニコニコ救急車を引き受けるぐらいは動いて欲しいところです。

今回のお話は、統合整理は総務省が粛々と進めるが、統合整理後に医師はちゃんと集まるかの厚労省への質問のように感じます。ところが厚労省は集まるかどうかのデータは持っていないと返答したため、「サッサと集めろ」の指示と解釈しています。


なぜ厚労省が持っていないかですが、やはりほんの2年前までは「医師は絶対足りている」としていた事に起因するように思います。足りているのに不足感が出るのは「偏在」があるためであり、偏在さえ解消すれば足りていると、まるでどこかの法務大臣のようにワンパターンで主張し続けておられました。これも今から考えると不思議なのですが、一度たりとも具体的な過剰地域を指摘したことがありません。

まったくしていないわけではなく、極めて漠然と「都市部への偏在」とのみ指摘し、それ以上は何も話していません。ここから考えると本当に統計資料は存在しない事になりますが、厚労官僚もそこまで能力が低いとは思えませんから、実は極秘の統計資料はあるんじゃないかと勘ぐっています。その統計資料に書かれている事は、現在の医療戦力では全然足りないであると。

これを表に出せないのは、出すと内部では厚労官僚の主流である医療費亡国論派ににらまれますし、出したら出したで、今度は「なぜここまで放置した」の集中砲火を浴びるからです。そのため足りているとしか解釈できない方向にのみ統計資料を集め、その資料を基に問題をひたすら先送りにしたと考えています。


そんな状況で政権がゴロッと変わりました。あくまでも外野からの見方ですが、前任者に較べると、現在の大臣以下の政務三役ははるかに扱いやすいと見られている気がします。なんと言っても大臣の御興味は年金にしかなく、医療に関してはあくまでも「ついで」です。数字にウルサイと言う説もありますが、うるさければ数字を作るのは官僚の本業です。いくらでも数字ぐらいなら作り出せます。

とにもかくにも総務省から統合整理後の医師の「確保」の対策を要求されているので、医師を大病院に集める方策を出しています。あくまでも案の段階ですが、

この提案自体は基本的には間違っていないとは思いますが、聞いた瞬間に7:1看護のドタバタが頭に浮かびました。7:1看護の医療機関側のメリットは前に拙ブログのコメ欄で、あれこれ試算していましたが、結論とすれば非常にメリットが高いと言う事です。試算するまでもなくメリットが高いので7:1を実現すべく、日本中の多くの病院が看護師争奪戦に明け暮れた言えます。

7:1看護の看護師争奪戦のつめ跡も深いですが、看護師以上に足りないのが医師と言えます。同様の政策を医師でやればどうなるだろうです。多くの医師の人事権を未だに保有しているのは、衰えたと言っても大学医局です。新研修医制度導入時に指導教官を確保するために派遣医師を引き上げたのが、広い意味での医療崩壊のスタートの一つですから、さらにの事は確実に起こります。

一番痛い目に会うのは地方公立病院ですが、これは総務省プランに織り込み済みとは言え、統合整理案による大旗艦病院設立までタイムラグが絶対に生じます。開業医冷遇路線も一方で強力に推進されていますから、文字通りの無医地帯がワンサカ登場しても不思議ありません。残存病院も旗艦化していませんから、かなりの痛みが出るであろう事は予測されます。


最大の懸念はそういう混乱後に総務省の目論見どおりの旗艦病院が健全に機能するかです。そもそも数が集まるかの問題もありますが、集まったとしても、たくさん集まれば無条件に効率が上がるかと言えばそうとも言い難いところがあります。これは前にrijin様から御指摘を頂いた事があるのですが、医師の数はある一定数までは増えれば効率が上がるが、それ以上はむしろ下がるというものです。

職人集約産業である医療ではそういう面が確実にあるのは医師として実感します。もっとも現状のままではニッチもサッチも行かずジリ貧状態では無いかと言われればそれまでなんですが、では下手にいじくってドカ貧状態を招き寄せるのも嬉しい事ではありません。

本当は医師数や病院数の数合わせではなく、もっと根幹の医療戦力に応じた医療体制の再構築が重要なんですが、それを考えるにも統計資料すら存在しないと言う事のようです。総務省の狙いと違うとは思いますが、「ちゃんとデータを出せ」の部分は呉越同舟と感じています。

それと本当に、本当に重要で困難を極めるのは厚労省が作成したデータの検証です。厚労省御謹製統計データと言うのは調べた結果と言うより、意図に副って設計し、作り上げる事に全精力を注がれますから、無いより有った方が、かえって有害な事が多い代物ですから困ったものです。総務庁が欲しそうな統計に阿吽の呼吸で整えて聖典化されてウンザリなんてのも十分すぎるぐらいあるからです。

冬の時代はまだまだ続きそうです。


お詫び

私の単純ミスがありました。タイトルに総務庁としておりますが、正しくは総務省です。本来なら訂正すべきもなのですが、タイトルの訂正はややこしいので、そのままにさせて頂いております。謹んでお詫び申し上げます。