なんだ社説か・・・

ssd様のおみとり様物語の文末に、

真面目な話はYosyan先生に任せた。

これを読んで「つまらんから嫌だ」と強く強く思ったのですが、義理堅くやっておきます。ネタモトは2/14付南日本新聞社説です。まったくもう「社説」と言うだけでウンザリ感が10倍増しです。仕方が無いから総ざらえで行きます。

 医療機関に支払われる診療報酬が2年ぶりに4月から改定されることが決まった。全体で0.004%のごく小幅な引き上げだが、薬価の引き下げ分を在宅医療の充実と病院勤務医の負担軽減に重点配分した。

 在宅医療を重視したのは、患者の自宅でのみとりや緊急時・夜間の往診、訪問看護を要望する声が強まっているからだ。加速する高齢社会に対応するには、在宅での介護と医療の充実が欠かせない。患者や家族は自宅で満足のいく治療が受けられる環境が整えば、安心できる。

「在宅、在宅」と口を開けばどこかのオマジナイみたいに唱えていますが、

    患者の自宅でのみとりや緊急時・夜間の往診、訪問看護を要望する声が強まっているからだ
つまりは厚労省が病院から患者を追い出し、他の高齢者施設も政策誘導として抑えこんだ結果、行き場のなくなった患者が「仕方がない」から在宅にさせられているわけです。施設か在宅の選択枝は最初から無いと言う事です。
    加速する高齢社会に対応するには、在宅での介護と医療の充実が欠かせない
この後も触れますが、そもそも施設介護にするか、在宅にするかの決定を誰がやったかです。はっきり言っておきますが間違っても医師じゃありません。すべては厚労省が独断で決めたものです。

 約1500億円を充て、往診料を緊急時最大2000円、夜間・深夜は最大4000円増額し、医師の訪問診療を促す。患者負担はいくらか増えるが、入院費用が不要になり、結果的に医療費抑制につながる。

ウッカリ読むと往診にすべての加算が付きそうに思ってしまいますが、よく読むと「緊急時」の但し書きがついています。ssd様のエントリーのHekichin様のコメントを紹介しておきますが、

緊急往診加算の算定要件は、標榜診療時間内(つまり外来診療中)に心筋梗塞(疑)、脳血管障害(疑)等緊急疾患で患者(もしくは看護者)からの求めに応じて往診した場合→そんなケース

死にそうな胸痛とか、頭痛(もしくは意識不明の状態になっている時)に外来診療を中断して往診した時の加算と言う事です。誰でも思うのは往診して「何をするんだ」です。前向きな治療はまず何も出来ません。そりゃ聴診器と持参の点滴ぐらいじゃ焼け石に水にもなりません。また実際に往診したら「どうも違う」と感じても、そのままにするのは相当な度胸が必要になります。

ただなんですが「(疑)」には裏と表があります。裏であれば年間5人ぐらいは出て当然の現場の意見はあります。たぶんそうだと私も思います。ただし裏なら従来と診療内容はなんら変わりはありません。しかし表なら上述した通りです。そういう事ですから、

    患者負担はいくらか増えるが、入院費用が不要になり、結果的に医療費抑制につながる
どう考えたらこういう結論に至るのか極めて不思議です。医師が往診しただけで表の「心筋梗塞(疑)、脳血管障害(疑)等緊急疾患」が、患家でなんとかなってしまうとの社説子のお考えは単なる妄想です。

 ただ、こうした在宅医療を担う病院や医院が地域に十分にあるのかといえば不安が残る。今回の診療報酬改定で医療機関をてこ入れするというが、「常勤医師が3人以上」「緊急時の往診が年5回以上」「みとりが年2人以上」といった要件を満たすのはハードルが高すぎる。

ハードルのうち「みとりが年2人以上」は比較的容易とは言われています。「緊急時の往診が年5回以上」は上述した通りです。誰もが指摘する最大のハードルは、

    常勤医師が3人以上
これは現実には但し書きの「3つ以上の医療機関が連携して」になるんじゃないかと言われていますが、正則通りの「3人以上」の実際の可能性を考えてみます。それもシチュエーションとして現在1人でやっているところが、政策誘導に乗って適合を目指すとしてみます。

まず「3人以上」と言っても「常勤医師」などホイホイ集められるものではありません。目指すは自分以外にもう2人をツテツテを辿りまくって集める事になります。これだけでも実現の可能性は高くないのですが、そこはとりあえず置いといて「集められた」とします。そうなった時の3人の医師の勤務形態は、

  • 1人は経営者医師
  • 2人は医院勤務医
さてここでなんですが、医師が1人から3人に増えると支出が劇的に増加します。単純には増えた医師の人件費分だけの新たな医療需要を開拓しなければなりません。ここも単純には在宅患者を増やすです。医師1人あたり、どれほどの在宅患者を抱えればペイするかは詳しく存じませんが、ここも単純には従来の3倍近くは必要になるとも考えられます。どう考えても最低2倍は必要でしょうね。

そういう状況で24時間365日体制ですから、1週間のカバー時間で考えると168時間です。3人で168時間をカバーするのですが、増やした2人の医師は医院であっても「勤務医」です。勤務医の1週間の労働時間の上限は40時間です。2人で80時間になり、残りの88時間は経営者がカバーせざるを得なくなります。

もともと経営者は1人で24時間365日体制だったからラクになったと言う指摘も出るかもしれませんが、カバー時間の濃度が変わります。増やした2人の医師を養うための在宅患者数が2〜3倍に増えていると言う事です。あくまでも労働者換算ですが週に48時間の時間外労働が、医業を続けている限り発生し続けるわけです。ちなみに開業医団体の医師会の平均年齢は58歳だったと聞いています。若くはありませんから、命を削るようなものに私は見えます。

 患者と身近に接する開業医の多くが1人で頑張っており、直ちに対応できるとは思えない。往診料をアップするだけでは在宅医療の充実は程遠く、なにより医師らマンパワーの確保を急がねばならない。

へぇ、これは社説子がまた物凄いところです。在宅のための医院のマンパワーはどこから湧いて来ると考えておられるかです。署名を集めたり、地方議会で議決したり、中央に陳情したらどこからともなく医師が湧いて来ると考えておられるに違いありません。在宅への医師の供給源は病院勤務医です。それも中堅層以上からです。厚労省の在宅医促成栽培計画である総合診療医も2018年度からようやく投入予定です。

この場合の「急ぐ」の時間単位は10年でしょうか。1年や2年、5年単位で急がれたら病院から勤務医、それも中堅層以上がゴッソリいなくなりますが、ちょっとはものを考えてから書いて欲しいところです。もっともここも現在在宅医療に従事していない開業医の経営を締め上げて、すべからく投入しようとの構想の意味なら筋は通ります。それでも開業医の平均年齢は58歳です。

 一方、病院勤務医らの負担軽減策に約1200億円を投入する。とりわけ救急や産科、小児科医などは過酷な勤務を強いられており、処遇改善は喫緊の課題である。負担軽減に引き続き力を入れるのは当然だが、問題は、診療報酬改定に盛り込まれた軽減策だけでは十分な改善効果が期待できないことだ。

 患者が同じ医療機関で二つ以上の診療を受けた場合、2カ所目の再診料も半額払うことになり、この再診料増収分を勤務医の激務緩和に使うという。だが、増収分はまず病院の赤字穴埋めに使われ、医師の処遇改善は後回しになっているとの指摘もあり、さらなる後押しが不可欠だ。

他人事だからこんなものとも言えますが、確かに前回の診療報酬改訂の効果もあってか、公立病院でさえかなり経営を持ち直したの統計データはあります。なんとか黒字になった分はどこに最優先で使われると思っているのかです。事は経営ですから累積赤字の解消に費やされます。経営で単年度の黒字に漸く戻った程度で給料を大盤振る舞いするようでは極度の無能です。いくらお題目で、

    再診料増収分を勤務医の激務緩和に使うという
これを具体的に指示する施策はどこにありますか? 山ほどある通達とかの類にでも明記してあり、厚労省が会計監査でもするとなっていますか。あくまでもちなみにですが、累積赤字が解消しなければ縦割りの素晴らしさで、今度は総務省が締め上げに来るのを是非お忘れなくして頂きたいところです。

 今回の診療報酬改定は3年ごとの介護報酬改定と同時ということもあって、政府が社会保障と税の一体改革で描く「医療から介護へ」「施設から地域へ」という将来像への第一歩と位置付けられる。安心できる地域包括ケアを実現するには、在宅医療の提供を軌道に乗せ、介護サービスの質を向上させて、医療と福祉の連携を一層強化する必要がある。

だから一体誰が、

    「医療から介護へ」「施設から地域へ」という将来像
これを決めたというのですか。民主党政府が決めたのですか、厚労省が決めたのですか。決めたのなら結果責任もちゃんと背負って頂かなければなりません。介護のために国民が職を投げ打つ事に「国民的議論」の末に「国民的合意」でもなされたと言うのでしょうか。私は全然聞いた事がありません。かすかに耳にしているのは、コソコソと厚労省が行なったとされるアンケート調査が存在する「らしい」です。

厚労省は問答無用で在宅医療が施設医療より格段に安上がりとしていますが、本当にそうかどうかは、在宅医療の効率性の悪さからだけでも疑問符は付けられています。たぶん「試算を出せ」と要求したら、きっちり辻褄を合わせたものが出てくるでしょう。それでも本当にそうか、たとえば在宅医療のために就労人口が減り、手にできたはずの収入が消滅する事まで計算してもメリットがあるかどうかは真剣に考えて良い問題のはずだと思います。

さすがに私の手には余る試算ですが、誰一人疑問に思わないのは凄い不思議です。ま、社説子程度が疑問に思わなくとも極めて自然な現象です。社説相手ですから、これぐらい「真面目」に解説すれば必要にして十分と考えています。やっつけ仕事で書いたのでかなり雑なんですが、相手に合わしているぐらいで御了承下さい。