厚労省の抗議書??

全国保険医団体連合会は医師の最有力組織とは言えませんが、ちゃんとした組織です。1969年に結成されて、

現在では47都道府県すべてに保険医協会が結成され、会員数も、医科64,489人、歯科36,241人、合計10万730人(05年2月1日現在)へと大きく発展しました。

日医に較べると影響力に欠けることは否定しませんが、医師の中でも有力組織のひとつであることは認めても良いと思っています。もう3回目の紹介になりますが、厚生労働省、調査データを不正流用。外来管理加算5分ルールで。保団連の情報開示請求により判明 という声明を発表しています。これは原徳壽医療課長が平成19年12月7日の中医協の診療報酬基本問題小委員会で外来管理加算への「5分ルール」導入の説明に用いた資料である内科診療所の平均診療時間についてのものです。声明の骨子は、

本会が「行政機関の情報公開法」に基づき同省にこのグラフの出典開示を請求したところ、実際には外来管理加算の対象となる再診患者に対する診療時間の調査は実施されておらず、「平成19年度厚生労働省委託事業 時間外診療に関する実態調査結果」の数値をもとに作成されたグラフであることが判明した。

実は保団連のHPにある行政文書開示決定通知書だけを読んでも、それが中医協で原徳壽医療課長が用いたグラフの出典かどうかはわからないのですが、保団連はグラフの出典開示の請求を行い、それに対する回答と解釈するのが妥当です。冒頭でも書いたように保団連はまともな組織であり、別の情報の開示請求を故意に誤って用いる必然性が認められないからです。そんな底の浅い虚偽を行なったところですぐに露見しますし、その行為により失う信用の大きさは計り知れないからです。つまり保団連は虚偽の根拠に基づいた声明を行う事により得られるメリットは何もないので、この声明の骨子は真実であろうと考えられます。

保団連が問題視している点は2つで、

  1. 「時間外診療に関する実態調査結果」では、公示診察時間数と外来患者数による単純な割り算の平均診療時間しか算出が出来ず、外来管理加算の「5分ルール」を決定する根拠としては不適切な調査である。
  2. 「時間外診療に関する実態調査結果」は「時間外診療」の診療報酬改定の検討資料にする目的で行なわれたものであり、外来管理加算の検討資料に持ちいる事は目的外使用に該当する。
1.については昨日のエントリーでも検討を加えましたが、今春の改定で加えられた5分ルールである、

医師が実際に概ね5分を超えて直接診察を行っている場合に算定できる。この場合において、診察を行っている時間とは、患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る。また、患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載する。併せて、外来管理加算の時間要件に該当する旨の記載をする。

これの根拠にするには不十分な資料である可能性が考えられます。

2.については「時間外診療に関する実態調査」ご協力のお願いに、

厚生労働省保険局医療課では、今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的に、「時間外診療に関する実態調査」を実施する事になりました。

これは非常に微妙な表現で、保団連が主張するように本来「時間外診療」の調査を「時間内診療」の調査として流用するのは「目的外」と主張するもの可能ですし、文章の表現として、

    今後の診療報酬改定の検討資料とすることを目的
こうあるので診療報酬改定にさえ用いれば「目的内」使用と主張することも不可能とは言えません。常識的感覚からすれば「時間外」診療の調査を「時間内」診療の決定的な資料として用いる事に違和感を感じますし、違和感について問い質す事は許される行為とも考えます。現在のところこの二つの点について保団連は、

なお本会は、今回の外来管理加算5分要件に係る調査データ不正流用問題に対する「質問状」を、6月10日、厚労省に送付した。

質問状に対する回答待ち状態が現在です。ところがアングラ情報が流れています。6/21にサンクチャリー様から頂いたコメントですが、

このコメントを読んだ時点では正直なところ「???」でしたがこれを補足するようにステトスコープ・チェロ・電鍵様の5分間ルールの根拠が不正なものであったこと に、

m3からの情報では、厚生労働省官僚から保険医団体連合会に抗議書を送ったと保険医団体連合会に電話があったそうだ。

どうもこの情報の元はm3のようですが、「ホンマかいな」と言いたい様なお話です。もちろん未確認情報なのでデマの可能性も少なからずありますが、デマにしては妙に信憑性があります。何故に信憑性があると考えるかと言うと、厚労省が抗議書を送るようなシチュエーションが通常なら思い浮かばないからです。

保団連が送付したとされる質問状はどんな形式であったか分かりませんが、厚労省としては黙殺する事は可能かと思われます。国会議員の質問主意書ではありませんから、必ず返答しなければならないものではないと考えられます。この問題についての関心の高まりは決して高いものではなく、黙殺により忘れ去られるのを待つ路線は選択枝と十分ありえます。

また返答したとしても資料の正当性を主張するだけの材料はあります。グラフ算出に対してどういう統計処理を行なったかは問題でしょうが、木で鼻を括るように「問題ない」として切り捨ててしまうのはよくある手法です。目的外使用についても「目的に診療報酬改定のためと明記している」で強弁するのも誰でも考えつく事です。そんな返答なら保団連は再質問状を出すでしょうが、時間が経過するうちに問題を矮小化させてしまうのもよくある手法です。

抗議書が本当ならかなりの強硬対応です。質問状に対する回答なら「疑問に答える」位置付けで穏やかなものですが、「抗議」となると全面否定の上、「あんたは間違っている」と指摘するような形になります。最初から喧嘩腰で全面対決みたいな対応を厚労省が取るのは意外の感触を私は持ちます。意外というのは抗議書で保団連の主張を粉微塵に粉砕できれば申し分はありませんが、そうでなければ全面対決の泥仕合になり、下手に騒ぎが拡大すれば現在の政治情勢からして議員に火の手が回ります。

そういう騒ぎになった時に現厚労大臣は官僚の庇護に全力投球してくれるかは大いに疑問で、情勢により今回の担当者の責任を問う方向に動く可能性さえあります。そういう方向に騒ぎが拡大するのを避けたいと考えるのが厚労官僚でしょうから、抗議書を出すなんて行動は予想を超える行動と考えます。

抗議書を出し、厚労省が保団連の主張を粉砕するにはグラフの作成の出典根拠が「時間外診療に関する実態調査」ではないとするぐらいの内容が必要かと考えます。そうしないと目的外使用はともかく、平均診療時間のグラフの信憑性の証明は辛そうに思います。また出典根拠は開示請求で出されたものですから、これをどう処理しているかに関心が寄せられます。

もちろん抗議書が本当に送付されたのか、本当に抗議書なのかは現時点では確認のしようの無い情報なので梅雨空の憶測の範囲の話とさせて頂きます。