疑問点

今春の診療報酬改定で物議を醸した「5分ルール」ですが、中医協で原徳壽医療課長がこの件について熱弁を揮ったのが平成19年12月7日の中医協の診療報酬基本問題小委員会です。

 それから、宿題事項の3番目でございます。外来管理加算でございます。前回、何もしない、何もしないと言うのは変ですけれども、要するに、処置や検査等を行わない、専ら診察・指導をやる場合に外来管理加算がとれるということになっているわけですが、これについて受診する患者の側から見ると、検査や処置をしてくれないときに高くなるのは何か腑に落ちないというような意見が従来からあったわけであります。そこで、そういう丁寧な説明や、あるいは医学管理をしっかり計画的にやってもらうということから、時間の目安を設けてはどうかということを前回御提案いたしました。それに対しまして、やはり、いやそうではなくて、技術料なのだから時間ではかるのには反対だとか、御意見がさまざまございました。

 そこで、実際問題として、どれぐらいの時間が診療に当てられているかということを少し見てみました。2ページ目をごらんいただきたいと思います。「内科診療所における医師一人あたりの、患者一人あたり平均診療時間の分布」でございます。この時間は、1カ月間の表示をしてあります診療時間と、それからその1月間の患者さん、これの割合をとる。それから診療する医師が1人以上の場合もありますので、医師の人数で割る。そういう形でもって1人当たりの診療時間の分布を見た。そうしますと、一番右端で30分以上のところが非常に多くなっていますが、これは逆に言うと、時間を患者で割りますので、患者さんがある程度少ない診療所ということで、患者さんをしっかり診ておられるところもあるかもわかりませんけれども、患者さんを診てしばらく時間があいて患者さんが来る、こういうような場合が多く考えられます。比較的患者さんが少ないところがここに出てきますので、必ずしもストレートに診療時間とまでは言えません。ただ、左のほうに行きまして、5分とか7分とか10分とか、あるいは1分未満というところもございます。あるいは3分未満のところも少しあります。このようなところは、患者数と実際の開業時間ですので、それが延長して当然やっておられますから、現実的にどうだということはこれだけではわかるわけではありませんけれども、それにしてもやはり非常に短時間しか割けないのではないかと見られるようなところもある。そういう中で患者さんに十分な説明をしていただいているのだろうかというようなこともありますので、おおむね5分以上は普通はかけておられるだろうということから、今回は、1ページ目に戻りまして、大体5分以上の医療機関が9割ぐらいでありますので、そういうあたりを目安に、やはり時間の目安を今回設けてはどうかということを再度御提案申し上げたいと思います。

この説明に使われたグラフが、

この診療時間の算出方法は「あるデータ」から、
  1. この時間は、1カ月間の表示をしてあります診療時間と、それからその1月間の患者さん、これの割合をとる。
  2. それから診療する医師が1人以上の場合もありますので、医師の人数で割る。
こういう手法で算出したと明言しております。つまり
    1ヶ月間の総正規診療時間 ÷ (時間内患者数 ÷ 外来担当医数) = 患者1人当りの診療時間
つまり至極単純な割り算で算出している事がわかります。つまり実際の診療時間の調査を行ったわけではない事がはっきりわかります。その点について原徳壽医療課長は認識しており、

患者さんがある程度少ない診療所ということで、患者さんをしっかり診ておられるところもあるかもわかりませんけれども、患者さんを診てしばらく時間があいて患者さんが来る、こういうような場合が多く考えられます。

ここを読めばわかるように提示したグラフの数字が、実診察時間と同じでない事を十分承知のデータである事をわかってのものである事は明らかです。それでもグラフの1割程度の診療所は

それにしてもやはり非常に短時間しか割けないのではないかと見られるようなところもある。

つまりこの1割程度から外来加算料を召し上げるべきだとの提案です。この5分ルールについて2/28付け医療維新のインタビューで原徳壽医療課長は、

 ――医師による診察の前に、看護師さんなどが問診する場合もありますが、診察時間に含めていいのでしょうか。

  いえ、あくまで医師の診察時間です。ただ、点数は患者1人当たり52点、1時間で12人診察した場合、6000円強です。点数的に十分かどうかは議論があるところですが、「医師の時間を占有する」、その対価という考え方になります。

読めばわかるように、根拠が単純割り算であった診療時間を「医師の時間を占有する」と言う概念にすり替えています。どう変わったかと言えば、改定された再診料の規定には、

医師が実際に概ね5分を超えて直接診察を行っている場合に算定できる。この場合において、診察を行っている時間とは、患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間とし、その間一貫して医師が患者に対して問診、身体診察、療養上の指導を行っている場合の時間に限る。また、患者からの聴取事項や診察所見の要点を診療録に記載する。併せて、外来管理加算の時間要件に該当する旨の記載をする。

たとえば1時間に12人の患者を診察した場合、原徳壽医療課長が中医協でデータとした計算方法では、患者1人に5分となります。ところが改定された再診料の規定では、

    患者が診察室に入室した時点を診察開始時間、退室した時点を診察終了時間
つまり実診察時間でもって「5分」にしています。ここで中医協で原徳壽医療課長が主張した5分は、

そういう中で患者さんに十分な説明をしていただいているのだろうかというようなこともありますので、おおむね5分以上は普通はかけておられるだろうということ

ここでの5分の説明はあくまでも単純割り算に基づくデータでの5分ですから、かなり内容が変わっている事がわかります。中医協説明段階での単純割り算の5分が、診療報酬改定時には「実診察時間」の5分に変わっている事がわかります。現在の運用は医師でも藪の中の部分ですが、開業医として知りえる情報として、

    診察時間数 × 12人
これ以内であれば問題としていないと聞いています。もちろん審査基準は地方により異なりますし、私の聞いた情報もあくまでも「らしい」の話ですから、信用するかどうかは自己責任でお願いします。ただし運用は厳しくできる余地を十分に残しています。当然ですが単純割り算の5分と実診察時間の5分では長さが違います。今後に実診察時間5分を保証するために、1時間あたりの診察数の基準を変更したり、実際の診療時間を記載する方向性に変わることは幾らでも予想できます。いつもの手口ですけどね。


ところで5分ルールの決め手になったともいえるグラフが作られた「あるデータ」ですが、6/13エントリーでも触れたように時間外診察に関する実態調査から算出されていたことが判明しています。時間外診察の調査から時間内診察のデータを算出すのは目的外使用の批判もありますが、そこは前もやったのでおいておきます。

今日は長崎保険医協会5分ルール−捏造の方程式から引用しながらとある疑問点を見てみます。まず「時間外診察に関する実態調査」で時間内診察の算出に用いられた項目をまず引用します。

問9の診察時間の調査

問12の医師の人数
問13の1ヶ月の延べ診察人数と時間外患者数
確かにこの3つのデータがあれば時間内診察の平均診療時間を単純な割り算で算出可能です。計算式をもう一度書いておけば、
    診療時間数 ÷ (患者数 ÷ 担当医師数) = 診療時間数 ÷ 患者数 × 担当医師数
診療所なので複数の医師がいる診療所は少数派なのですが、親子であるとか夫婦で診療所経営を行なっているところはあり、また週に何度か非常勤の医師の診察を行なっているところもあります。長崎保険医協会は時間外診療実態調査のデータを持っているようで、
  • 常勤医師数平均:1.19(標準偏差0.56、標本数3223、最大値11)
  • 非常勤医師数平均:0.70(標準偏差1.33、標本数3223、最大値16)
こうなっています。ここで問題なのは医師が複数いるとしてもどういう形態で外来診療を行っているかになります。これは一般診療所の調査なので、医師が複数いても必ずしも二診が立っているとは言えません。むしろ一診を交代制で行なっているケースの方が少なくない推測されますし、とくに「大先生」「若先生」体制なら大先生の年齢によっては週に数コマであっても格別不思議とは言えません。また内科診療所のデータとなっていますから、一人は外来、もう一人は訪問診療というスタイルも多いと考えられます。

非常勤医師もどれほど外来に従事しているかは不明です。週に1度なのか2度なのか、午前診だけなのか午後診もなのかも不明です。場合によっては訪問診療に専念も無いとは言えません。つまり非常勤も含めて複数の医師が在籍していても常に外来診療を行っているかどうかは分からないと言うことです。ここで一般診療所なので大雑把に一診で診察していると見なすのもアリかとは思うのですが、原徳壽医療課長は中医協でわざわざ、

それから診療する医師が1人以上の場合もありますので、医師の人数で割る

そうなると外来担当医の外来診療従事時間のデータが必要となります。調査票の全質問項目は京都府医師会の集計の10ページ目以降にありますが、常勤・非常勤も含めた医師の実働時間はこの調査では判明しない事がわかりますし、二診立てているかどうかも判別できない調査です。無理もないことで元々は時間外診療の実態調査ですから、一般診療所の時間外診察で二診も立っているケースを考える方が全国的にも稀であり、たとえ稀なケースが存在しても統計誤差として調査の必要は無いとしたと考えられます。

しかし日勤帯の診察の平均診療時間を単純計算ででも算出しようとすれば、在籍医師一人一人の総外来診療時間数のデータが必要です。例えば二人の医師が二診を立て平等に患者が来たとして1時間に12人なら、

    60(診療時間) ÷ 12(患者数) × 2(担当医)= 10(分)
こうなりますが、一診を午前午後とか曜日によって分担している場合には、
    60(診療時間) ÷ 12(患者数) × 1(担当医)= 5(分)
常勤医の平均は1.19人ですが、0.19人分が必ずしも外来診療での担当医数に該当しない可能性が高くなります。常勤医での最大誤差はそれでも19%ですが、非常勤医をどう計算したかは問題です。非常勤医の平均は0.70人です。案外多いのに驚きましたが、非常勤医の勤務形態はそれこそ千差万別です。まさかと思いますが外来担当医数を、
    常勤医1.19人 + 非常勤医 0.70人 = 1.89人
こうしてないかの疑問です。なんと言っても原徳壽医療課長は中医協でわざわざ、
    それから診療する医師が1人以上の場合もありますので、医師の人数で割る
こう明言されているわけです。しかしグラフを作成した元のデータには複数の医師が在籍していても二診で二人が外来に常に従事しているかどうかのデータも無く、非常勤医がどれだけ外来に従事しているかのデータも無いわけです。そういうデータが無いにも関らず
    医師の人数で割る
この数値計算を行なっています。これはそもそも不可能な計算であり、データを出すにはそれに適切な調査が必要です。時間外診療の実態調査は診療所あたりの日勤の患者数、総診察時間数から「診療所あたり」の単純計算による平均診療時間数の算出は可能です。しかし複数の医師が在籍していたとしても個々の医師の診療時間数は無く「医師一人あたり」の平均診療時間数の算出は出来ません。そこまでは時間外診療の実態調査ですから行われていないという事です。

正確なデータが出しようが無い外来従事医師数を厚労省は「作った」事になります。「作った」だけではなくこの数値で異論もあった中医協を説き伏せ、診療報酬改定の大きなポイントにしています。作れるデータの幅は1.01人〜1.89人の間であり、どこであっても明確な根拠はなく任意の数字である事になります。この差おおよそ2倍弱程度の誤差が生じる可能性を含み、このような誤差な大きな数値を基に物事を決める事に大きな疑問点が生じます。

1.01〜1.89人でどれほどの差が生じるかですが、計算の基になったと考えられる他の数値も長崎保険医協会は掲載しています。

  • 1週間の総診療時間数:30.74時間
  • 1ヶ月の外来患者総数:1360.93人
そうなると患者あたりの平均診療時間は、
    医師1.01人の場合

    30.74×60/(1360.93×7/30)×1.01=5.9(分)

    医師1.89人の場合

    30.74×60/(1360.93×7/30)×1.89=11.0(分)
平均で5.9分と考えて5分ルールを設定するのと、平均で11.0分と考えて5分ルールを設定するのでは大きな差があるように感じられます。また中医協で資料として用いられたグラフはどう見ても平均5.9分で計算されたものとは思えず、どちらかと言うと平均11.0分に近いように感じます。

さらに原徳壽医療課長は医療維新のインタビューで、

 ――「5分を診療時間の目安とする」という要件を問題視する声が多いのですが、通知に要件として明記するのでしょうか。

  そこは、なかなか難しいところですが、やはり「5分」ですね。なぜ「5分」にこだわっているか。一つには、財源の問題があります。改定時には、外来管理加算がどのくらい算定されるかを計算していますから、「5分」は崩せません。

この数値を基に綿密な財源計算を行なったと語っていますし、「崩せません」まで断言している根拠がこの程度という事になります。最後に無能な土木役人様のコメントを引用しますが、

 まあ、役人の出すデータというのは都合のいい部分だけというのは、よくある話でして、捏造はやりませんが、自分に都合のいいデータをいかにうまく加工するかというのも腕の見せ所ですね。

個々の担当医師の診療時間は「時間外診療の実態調査」からは正確にはわかりません。当然推定という事になり、これぐらいの推定は「加工」の範囲に入るのでしょうか。残念ながらそういう役人の常識には疎い方でして、疑問点として頭を捻るばかりです。