想像するに余りある

skyteam様のところで見つけた記事です。3/28付産経イザより、

「虐待だ」患者家族に病院への過剰クレーム禁止

埼玉県春日部市の同市立病院に入院中の患者の家族が院内で過剰なクレームをつけたとして、市が患者の家族に医療妨害の禁止を求めた仮処分申し立てで、市は28日、さいたま地裁越谷支部(大野昭子裁判官)が仮処分を認める決定をしたと発表した。決定は25日付。市によると、患者側の医療妨害への仮処分命令は全国でも例がないという。

 市によると、同市の60代夫婦が、平成18年3月に入院した90代の母親の治療をめぐり、病院の廊下やナースセンターで「おむつがぬれていて虐待だ」「シャワーでやけどさせられた」と大声で怒鳴ったという。

 また、主治医や看護師に病状の説明を繰り返し求めて夜勤中に押しかけるなど業務に支障をきたし、他の患者からも苦情が寄せられたため、市は今年2月、仮処分を申し立てた。

 仮処分では、夫婦は医師や看護師を大声で畏怖(いふ)させ、虐待など虚偽の誹謗(ひぼう)中傷で診療行為を妨害してはならないとしている。

今風に言うとモンスター・ペーシェントですが私も経験があります。私だけではなく多くの医療関係者なら経験があると思うのですが、

    仮処分申請が行なわれ認められる
ここまでのものとなると想像するに余りあります。医師の意識の変化は急激ではありますが、市立病院がここまで過激な対応を取るほどのモンスターぶりはどれほどかと言う意味でです。病院はたとえ私立であっても体面を重んじ、こういう事を極力表面化させることを避けます。市立病院なんてなおさらで、職員が対応に疲れて辞める程度のことでは私の知る限り表面化させません。

たとえば去年話題になった大阪の患者公園置き去り事件での患者の態度は、

他の患者とトラブルを起こして6人部屋を独占し、暴言を恐れて辞めた看護師もいたという。

この時でも病院側は法的手段に訴える事無く、対策に困り果てた病院が患者を公園に置き去りにし、そこから救急車を呼ぶという非常手段を取っています。非常手段には轟々たる非難が寄せられましたが、それでも病院は法的手段より非常手段を選択するのが通常です。もっとも大阪では法的手段に訴えても現実的には裁判所も対応が難しいとの指摘もあり、取りたくても取れなかった事情があるかもしれないとありましたが、トラブルの表面化を嫌う体質が病院にはあります。

それでもそんな常識を乗り越えるぐらい「凄まじかった」と考えるのが妥当かと思います。短い記事なので推測を膨らませなければなりませんが、病院側にも小さな落ち度はあったのだと思います。落ち度までは言い過ぎとしても、医療はそのほとんどを人力で行ないますから、患者及び患者家族の意向に副えなかった事、些細な手違いによるケアの遅れなどは必然的に生じます。それに対して強めにクレームをつけられる患者もいます。ただしその程度は病院は十分な許容性を持っています。

おそらくですが、問題になった患者家族は些細な落ち度に対する病院側の対応に極度の不信感を抱いたか、それとも根っからのクレーマーで「ここぞ」とばかりに増長したかのどちらかと想像します。前者も後者も知っていますし、もちろんその複合型も知っています。それでもです。相当と言うか、強烈ぐらいでは病院は法的手段を通常取りません。その病院の強固な一線を踏み越えるぐらい激烈であったと考えます。

記事中にほんの少しですが実例が紹介されています。

  1. 病院の廊下やナースセンターで「おむつがぬれていて虐待だ」「シャワーでやけどさせられた」と大声で怒鳴ったという。
  2. 主治医や看護師に病状の説明を繰り返し求めて夜勤中に押しかける
1.も想像するにただの大声ではなく病棟中に響き渡るぐらいのもと考えます。それも一度や二度ではなく年中行事のように毎回繰り返されたと考えて良いと思います。と言うのもその程度の患者家族は確実に存在しますし、その頻度はある程度の年数を経た医療関係者なら誰でも経験しているからです。

2.も夜駈け朝討ちの世界で週に1回以上はあったと考えます。それも約束をして大人しく説明を聞くようなものではなく、突然押し寄せ「主治医を呼べ」から始まる大騒ぎであったとしても良いかと思います。夜勤中ですからすぐに主治医が出てくるわけではなく、まず来るのが遅い事にイチャモンをつけ、説明を聞くというより無理難題を吹っかけ「それは無理だ」と答えようものなら激怒して怒鳴りまくる世界が想像されます。だいたい時間にして1回3〜4時間ぐらいでしょうか。これも医療関係者なら誰しも経験があるものです。

実はそれでも通常は法的手段に訴える事はありません。おそらくこの記事に書かれている以外の行為もあったでしょうし、書かれている行為が私の想像を遥かに超えるものであるかもしれません。

ただ

仮処分では、夫婦は医師や看護師を大声で畏怖(いふ)させ、虐待など虚偽の誹謗(ひぼう)中傷で診療行為を妨害してはならないとしている。

これってどれぐらいの効力があるのでしょうか。処分申請に対する裁判所の判断としてはそんなものでしょうか、実効性に少し疑問を感じるところもあります。その辺は法律関係者にでも聞いてみないとよくわかりません。

いずれにしても医療関係者ですら想像を絶するモンスターであった事だけは良く分かる事件です。