後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子(案)(たたき台)

社会保障審議会の医療保険部会の第27回資料にたたき台検討状況があります。正直なところ報道で騒ぐほどの事は、何も書いていないに等しいのですが、これまでの審議の流れを把握するぐらいの役に立つかと思います。

まず検討状況の方に医療保険部会のメンバーが示されています。9人のメンバーが記されていますが、彼ら及び彼女らがユダになるのか、怒れる人々になるのか、もっと言えばシナリオはもう決まっていて、単なるピエロに過ぎないかは答申が出ればはっきりするでしょう。

ちなみに部会長は糠谷真平氏となっています。

まずたたき台の前文として、

今般、平成20年4月に新たに創設される後期高齢者医療の診療報酬体系の骨子について、次のように取りまとめた。この趣旨を十分に踏まえた上で、今後、中央社会保険医療協議会において、具体的な診療報酬案の検討が進められることを希望する。

たたき台では具体的な診療報酬の額については記されていない事がわかります。

次に後期高齢者医療にふさわしい医療としての基本的事項が挙げられています。

  • 後期高齢者の生活を重視した医療


      一般に、療養生活が長引くことなどから、後期高齢者の医療は、高齢者の生活を支える柱の一つとして提供されることが重要である。そのためには、どのような介護・福祉サービスを受けているかを含め、本人の生活や家庭の状況等を踏まえた上での医療が求められる。


  • 後期高齢者の尊厳に配慮した医療


      自らの意思が明らかな場合には、これを出来る限り尊重することは言うまでもないが、認知症等により自らの意思が明らかでない場合にも、個人として尊重され、人間らしさが保たれた環境においてその人らしい生活が送れるように配慮した医療が求められる。


  • 後期高齢者及びその家族が安心・納得できる医療


      いずれ誰もが迎える死を前に、安らかで充実した生活が送れるように、安心して生命を預けられる信頼感のある医療が求められる。

別に大した事は書いていないのは読んでの通りです。それでもってこの項目の締めは、

後期高齢者にふさわしい医療は、若年者、高齢者を通じた医療全般のあるべき姿を見据えつつ、先に述べた後期高齢者の特性や基本的な視点を十分踏まえて、構築していくべきである。

次からやっときな臭そうなところに入ります。「後期高齢者医療の診療報酬に反映すべき事項」と題されており、中医協でここを重視せよと申し送る事項かと思います。この項目の趣旨として、

後期高齢者医療制度の施行に伴う新たな診療報酬体系の構築に当たっては、診療報酬全体の在り方に係る検討を着実に進めながら、高齢者医療の現状を踏まえ、このような老人診療報酬の取組を更に進めるとともに、診療報酬全体の評価体系に加え、1.に述べた後期高齢者にふさわしい医療が提供されるよう、次に述べる方針を基本とするべきである。

1.とは上記した基本事項を踏まえる事です。それでもってまず外来医療について書かれています。ここはさらに幾つかの小項目に分かれているのですが、「後期高齢者を総合的に診る取組の推進」なるものがトップになっています。最近流行の「総合的」がしっかり記入されているのが目に付きます。内容は、

前述の後期高齢者の心身の特性等を踏まえれば、外来医療においては、主治医は次のような役割を担うことが求められている。

  • 患者の病歴、受診歴や服薬状況、他の医療機関の受診状況等を一元的に把握すること。
  • 基本的な日常生活の能力や認知機能、意欲等について総合的な評価を行い、結果を療養や生活指導で活用すること。
  • 専門的な治療が必要な場合には、適切な医療機関に紹介し、治療内容を共有すること。

これらの項目を推進する事が重用しており、その結果として、

主治医がこのような取組を進めるための診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

えらく簡潔なので読み飛ばしてしまいそうになるのですが、重要なところなので「診療報酬上の評価の在り方」という観点で各項目を読み直しています。

  • 患者の病歴、受診歴や服薬状況、他の医療機関の受診状況等を一元的に把握すること。
  • 専門的な治療が必要な場合には、適切な医療機関に紹介し、治療内容を共有すること。


      この二つは重複する内容かと考えます。ここがいわゆる「かかりつけ医」ないし「外来主治医制」に関連するところかと考えます。求められる事は「他の医療機関の受診状況等を一元的に把握」であると考えれば良いかと思います。一元的に把握するためには、患者はすべて「かかりつけ医」の許可が無いと他の医療機関は受診できず、なおかつ他の医療機関を受診後は速やかに診療内容、投薬内容を「かかりつけ医」に報告する必要があります。

      では誰が報告するかですが、患者か他の医療機関の医師ですが、ありそうなのは「かかりつけ医」以外の医療機関を受診するたびに、詳細な診療内容を記した報告書が義務づけられそうな気がします。それをFaxででも送るぐらいがまず考えられます。ここには書いていませんが、検査結果も同様の扱いになると考えるのが自然でしょう。

      でもって診療報酬にどう反映されるかですが、ごく普通に考えれば診療情報提供料が高くなるとか、一元的に管理する情報の管理料が算定されるとかがありそうなんですが、それよりもこういう管理を行なうのを条件として医療機関を認定し、それに対する診療報酬の設定が可能性が高そうです。このたたき台には上述したとおり具体的な診療報酬設定は書いてありません。


  • 基本的な日常生活の能力や認知機能、意欲等について総合的な評価を行い、結果を療養や生活指導で活用すること。


      えらく漠然とした表現なのですが、いわゆる介護福祉との連携の事かと理解します。もちろん診療報酬への反映ですから精神問題ではありません。具体的に目に見えるもので結果を出す事が要求されると考えられます。ありそうなのはケアマネとかとの定期会議とその報告書の作成とか、患者に対しての定期的な生活指導プランの作成とかです。そういう書類を提出する事により、なんらかの診療報酬上の特典を考える話ではないかと考えます。
残りは補足説明のようですが、薬歴管理です。服薬状況を一元的に管理するのですから当然出てくるのですが、

外来医療を受ける後期高齢者は、服薬している薬の種類数が多いこと、入退院も少なくなく服薬に関わる医療関係者も多くなると考えられることから、薬の相互作用や重複投薬を防ぐ必要がある。このため、医療関係者(医師、歯科医師、薬剤師及び看護師)や患者自身が、服用している医薬品の情報を確認できるような方策を進めるための診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

厚生労働省後謹製のお薬手帳が出てきそうな感じのお話です。これに投薬内容を記入する事を義務づけ、記入により診療報酬が上るのかもしれませんが、記入しなかったら大きな減点があるような制度の様な気がします。もちろんIT業者の暗躍も十分ありえます。

その次は「関係者、患者・家族との情報共有と連携」となっています。これも生活指導の項目の補足と考えれば良いかと思います。

 外来医療を受ける後期高齢者は、他の医療や介護・福祉サービスが必要な場合や、現に受けている場合も少なくない。後期高齢者の生活を支えるためには、受診歴、病歴、投薬歴などの情報や前述の総合的な評価の結果について、医療従事者間の情報の共有を進めるほか、介護・福祉サービスとの連携を進めるため、主治医等とケアマネジャーを中心として、相互の情報共有を進める必要がある。また、医療や介護・福祉サービスについて、患者や家族の選択等に資するために、患者や家族に対する情報共有を進める必要がある。

必要なカンファレンスの実施等も含め、このような情報の共有と連携が進められるよう、診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

はっきりと主治医、ケママネ、家族の定期的なカンファレンスの義務付けを書いてあると理解します。さぞ大変な報告書が必要でしょう。

これで外来は終わりで次は入院医療になっています。まず冒頭に、

後期高齢者の入院時から、地域の主治医との適切な連携の下、退院後にどのような生活を送るかということを念頭に置いた医療を行う必要がある。

退院後の療養生活に円滑に移行するためには、個々人の状況に応じ、退院後の生活を見越した診療計画が策定され、それに基づく入院医療が提供されることが重要であり、このための診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

今気が付いたのですが、たたき台では、「かかりつけ医」ではなくはっきり「主治医」と言う表現になっています。この用語はどうも決定のようです。

でもって入院も主治医と病院が密接に連携して行なうように書かれています。別に悪い話ではないのですが、この評価は早期に受け皿を作って退院させることを念頭に置いた文章のように見えます。受け皿を作って退院させてもなんら悪い事はないのですが、どうも退院させることが出来ないとペナルティが生じるような診療報酬上の評価に読めて仕方ありません。穿ちすぎでしょうか。

残りの2項目もこの項目の説明のようなもので、「入院中の評価とその結果の共有」では、

退院後の後期高齢者の生活を支えるには、入院中に行われた総合的な評価の情報が、在宅生活を支えることとなる医療関係者や介護・福祉関係者に共有されることが重要である。この入院中の評価の実施や、ケアカンファレンス等を通じ、評価結果について在宅を支える関係者との共有が進むよう、診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

入院中から退院後の事をケアカンファレンスを定期的に行なって、計画書を出さなければならないようです。おそらく病院も少しでも入院が長引けば診療報酬の大幅削減が課せられるでしょうから、非常に厳しい対応が迫られる可能性があります。厳しい対応とは医学的にもそうですが、この際、少しでも長く入院していて欲しい家族との軋轢が多発する事が予想されます。

「退院前後の支援」としては

患者は退院直後が最も不安となる場合が多いとの指摘があるが、このようなケースについては、退院直後の時期をまず重点的に支えることにより、円滑に在宅生活に移行することができるようにすることが重要である。このため、関係職種が連携して必要な退院調整や退院前の指導等に取り組むことができるような診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

私も読みながらヒネてきましたが、退院してから不満を公的機関に訴えたり、再入院とかの事態が起これば、診療報酬上に反映させるぞとの脅しに読めます。成功報酬もあるかもしれませんが、ペナルティも十分予想される方針です。

これで入院治療は終わりで「在宅医療」に移ります。ここも冒頭は、

後期高齢者の生活を支えるには、医療関係者のみならず、介護・福祉関係者との相互の情報の共有や連携を行う必要がある。主治医等とケアマネジャーが中心となって、カンファレンス等を通じて、主治医による総合的な評価を含めた情報の共有や連携が図られるような診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

ここもまた会議を開いて報告書や計画書を出す事で診療報酬を評価すると読めば良いんじゃないでしょうか。

項目として「病院等による後方支援」となっていますが、

また、病状の急変時等入院が必要となった場合に、円滑に入院できるようにするとともに、在宅での診療内容や患者の意向を踏まえた診療が入院先の医療機関においても引き続き提供されるようにするべきである。このような医療機関間の連携が強化されるための診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

これも読みようなんですが、

  • 後方病院は円滑に入院させる事で評価
  • 主治医は入院後も治療に参加、病院は主治医の意見を聞かなければならない
そうなると満床で入院不能は減点となり、外来主治医は入院しても病院で治療参加する必要があります。病院も登録制の「主治病院」となるのかもしれません。外来主治医の治療参加も精神ではありませんから、しっかりとした記録が残るものが必要です。このへんはカンファレンスの開催記録と関連すると考えられます。

「在宅歯科診療」、「在宅療養における服薬支援」、「訪問看護」、「居住系施設等における医療」については重複する部分が多いのでエントリーでは省略します。

最後は終末期の医療です

患者が望み、かつ、患者にとって最もよい終末期医療が行われるよう、本人から書面等で示された終末期に希望する診療内容等について、医療関係者等で共有するとともに、終末期の病状や緊急時の対応等について、あらかじめ家族等に情報提供等を行うことが重要であり、これらの診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

また、在宅患者の看取りについて、訪問看護が果たしている役割を踏まえて、その診療報酬上の評価の在り方について検討するべきである。

具体的な診療報酬は中医協にて行なうとなっていますので、たたき台(骨子)には定額医療は明記されていません。このたたき台の医療報酬の評価がが定額制として反映されるのなら、書いてある事は要求義務事項となり、これらの条件を満たす医療を行なったところには満額の報酬となり、満たせなかった項目があれば減点主義で減額すると考えるのが妥当でしょう。

私は小児科医なので高齢者医療の実態に疎いのですが、何をするのにも会議と報告書、計画書がつきまとう医療になりそうだと感じます。それをする事が「評価」とあれだけ繰り返して書かれれば嫌でもそう感じざるを得ません。また後期高齢者者医療制度の医療費は最初から総量がかなり厳格に定められており、さらにその総額を高齢者が急増するのに反して計画的に減らすことが奨励されています。

定められた医療費で患者が急増するのなら、定額制が運用上便利でしょうが、そうなれば一人当たりの医療費は確実に先細りです。この分野に積極的に参加される医師は、導入時はともかく、後になるほどザクザクと診療報酬が機械的に削減されるのが、音まで聞こえそうな気がします。

しかし10/5付のasahi.comの記事にある

主治医としての診療報酬は、患者が何回受診しても同額となる「定額制」を導入する見通しだ

これはどこから出てきたんでしょうね。出てきたとしたら報道発表の担当者からなんですが、たたき台(骨子)には何も書いてありません。ちなみにDr.Pooh様には、骨子とりまとめの記者会見で原医療課長がこう発言したとなっています。


昔の外総診(老人慢性疾患外来総合診療料)みたいにしたい。主治医が複数になる場合は“早い者勝ち”ということになるだろう。そこの問題は、まさしく“IT化”で解決すべきではないか。
どうもこの辺が記事の定額制のネタ元ではないかと見れます。この発言もどうでも良いですが、後半部分の「主治医が複数になる場合」の解決法が「IT化」とは判じ物のようで笑えました。