仁義なき戦い

今朝は憶測と陰謀論の軽い話です。そのつもりでお読みください。

2/8付けYOMIURI ONLINE佐賀版より、

県医師会が抗議文…静岡の病院へ送付

看護師引き抜き文書

 県内の複数の病院に静岡県内の総合病院から、看護師の引き抜きの仲介を依頼する文書が届いていたことが分かった。深刻な看護師不足が背景にあるとみられ、県医師会は「倫理にもとる行為で、地域医療の崩壊につながる」として総合病院に抗議文を送った。

 文書は昨秋以降、分かっているだけで武雄市佐賀市の二つの病院の看護主任らあてに届いた。「(勤務すれば)報酬は(年収)380万〜700万円。(紹介者には)応分の紹介料を用意する」など、知人や後輩看護師の紹介を依頼する内容だった。二つの病院はともに、静岡県の病院とのつながりはなかった。

 事態を重く見た県医師会は、県内の病院に注意を喚起し、今年1月の理事会を経て、会長名でこの病院に抗議文を送った。県健康福祉本部にも、こうした問題を厚生労働省に伝えるよう要請した。

 2006年の診療報酬改定で、入院患者7人に対して看護師1人を配置すると入院基本料が上乗せされるようになり、各病院は看護師の確保に力を入れるようになった。県内でも待遇の良い県外の都市部への流出が問題になっている。井上洋一郎・県医師会常任理事は「地方の看護師不足はどこも同じ。厚労省の施策が誤っている」と指摘した。

(2008年2月8日 読売新聞)

少しだけ読み取り難かったのですが、事件は静岡県内の総合病院が起したようです。静岡の総合病院は看護師確保のために、佐賀県内の病院の看護主任などに、

  • 知人や後輩看護師の就職斡旋
  • 斡旋に成功すれば成功報酬
この2つを書いた文書を郵送したようです。おもしろいと思ったのは、本人を引き抜こうとしたのではなく、本人からの紹介で引き抜こうとした手口です。つまり文書を送られた本人は工作員として佐賀県内の病院に残り、引き続き静岡への引き抜き工作を続けてもらおうとの発想です。

本人をあざとい手口で引き抜けば今後のガードが固くなると考えて、引き抜き工作員は病院に残り、誰から引き抜かれたかが分からないようにし、なおかつ持続して引き抜きルートを確保しようとしたのではないかと考えます。

これを発覚したからチャチな方法と見てはいけないと思います。届け出た看護師がいたから事件は発覚しましたが、届け出ず工作に勤しんでいる看護師がいないとも限りません。またこの工作は佐賀にだけ行なわれていると考えるのは甘く、もっと広範囲に展開されている可能性も十分あります。佐賀ではたまたま表沙汰になった可能性です。

さらにです。日本中でこの手口を使っている病院が一つとは限らない事です。看護師確保に血眼になっている病院は数しれません。他にも幾十、幾百、幾千の病院が行なっている可能性があります。それもこんなすぐに発覚するような手口ではなく、もっと巧妙な手の込んだ手段で、工作員看護師を作り上げている可能性があります。穿って言えば、静岡の総合病院は手法が幼稚だったので、身の潔白をわざと証明するためにチクッた可能性さえ考えられます。

さらにさらにです。工作員看護師は何も一つの病院だけを義理堅く請け負う必要もないのです。複数の病院の引き抜き工作を請け負った方が、引き抜こうとする看護師の行き先が希望に近いものになりなすし、多方面に送り出せば引き抜き工作の露見を少しでも防げます。それと工作員看護師は引き抜き工作が露見して職場にいられなくなっても、自分の行き先には困りませんからリスクを低く出来ます。

看護師争奪戦の激しい裏舞台を垣間見るようです。

医師だって負けていません。これはBugsy様のコメントからです。

勤務医の現場負担を取るとなると 手っ取り早いのは同じ診療科の中堅勤務医を増やすことです。行政の政策なんぞ生半可で期待できません。
これには病院幹部も下っ端医師も皆異論がなく 本ブログで話題にはなっていませんが、病院どうしのヘッドハンティングも目立ってきました。
国内留学の名目で関西のとある超有名病院に行ったまま 説得されて帰ってこない。
「今度うちのオペを見学にいらしゃい。」と学会で親切に言われ 何回か見学に行くうちに先方の部長から「彼はうちの病院に移りたいそうです。」と拉致されたまま電話がかかってきたり。学会の懇親会で名刺を渡し、学会で東京に来た折 御飯を食べるとか。なりふりかまってられません。
やられたら倍にしてやりかえす。オイラたちだって他から医者をかどわかさなきゃ。前期臨床研修医が増えるよりも余程ましです。

学閥も関連病院のヘッタクレもありません。以前医師を派遣してくれた医局も医師を派遣してくれなくなったら「医師の切れ目が縁の切れ目、仁義の切れ目」です。臨床研修医制度は研修医の流動性を増加すると言われましたが、中堅医師も同様に動きやすくなったと感じます。敷居の高そうな他大学出身者じゃ採用してくれなそうだった有名病院も すでにこうなってるようです。
こういった人攫いの傾向はこれからも加速すると思いますよ。

これは現場そのものの声ですからさらに生々しいものがあります。紹介された医師攫いの手口は、

  • 国内留学生を取り込む
  • 病院見学に招待して取り込む
  • 学会の懇親会で取り込む
医師であっても「辞める」と言われれば事実上抵抗できませんし、急にやめることの退職金その他のデメリットも引き抜き先が支度金代わりに保証すれば痛くも痒くもありません。旧来はこういう不義理を行なえば、医局人事の枠内だけではなく、他の大学医局まで巻き込んでの村八分の制裁が待っていたのですが、医局の統制力の衰えと共に制裁は有名無実になってきています。

むしろ明日は我が身と考えますから、引き抜き、引き抜かれても「お互い様」状態で気にもしない時代が確実に訪れているという事です。大学医局と病院の関係もドライとなり、かつては有力病院といえども医局人字には指一本触れられなかったのですが、

    「医師の切れ目が縁の切れ目、仁義の切れ目」
大学医局は安定して医師供給が可能で、なおかつ他の医師供給ルートを事実上封じ込んでいたので威力を振るったのです。ところが安定して医師を供給できず、病院が独自ルートで確保可能で、さらに独自ルートを持つことに対する制裁力が無くなれば、有力病院にとって単なる医師供給ルートの一つに成り下がります。

看護師もさらには医師もですが、絶対数が足りない売り手市場は当分続くでしょうし、買い手のほうは病院経営のためになりふり構いません。綺麗事は表向きだけで、裏に回れば食うか食われるかの世界を展開しているようです。弱肉強食、優勝劣敗は市場原理の従うところになり、/8付け北海民友新聞社の記事のような、

 道立紋別病院が高度な2次医療を担うセンター病院となり、周辺の国保病院等(一次医療)をサテライト病院としてネットワーク体制をつくる。それにより医師の集約や、派遣の一元化を図る。センター病院およびサテライト病院の管理運営については、収益(医業収益や交付税措置等)から費用を差し引いた赤字分について各構成団体が応分の負担をする。センター病院やサテライト病院に関して建設整備にかかる経費が出た場合は、負担割合を協議決定する。広域連合以前の構成団体の病院事業における赤字分は、それぞれが処理する。

 センター病院の医療体制の目標としては、常勤医師数を25人(現在は12人) 、病床数は220(現在と同じ)とし、消化器病センター、循環器病センター、小児・週産期センターなどを備え、現在の道立紋別病院よりも充実させる。
 サテライト病院については、診療科は基本的に内科、外科に常勤医各1人として、小児科、整形外科は定期的にセンター病院から外来応援する。

 懸案の課題の医師確保については、広域連合が地域一体になった広域医療の先駆的な組織であることや、医師の給与や勤務条件の改善を行ない、その魅力をアピールする。

こういう弱点を見せる医療機関には、看護師引き抜き工作員が暗躍し、医師攫いが殺到する事になります。