正直なところもうウンザリですし、「付き合うな!」の声もあることを百も承知ですが、反論しないのは「黙認」とする風潮が強いですから、お付き合いください。2/2付朝日新聞社説より、
再診料下げ―見送りは既得権の温存だ
診療報酬の改定を進めている厚生労働省が、開業医の再診料の引き下げを見送った。日本医師会から強く反対されたからだ。
いま医療の現場で深刻なのは、病院で働く医師が過酷な仕事に耐えかねて、やめていくことだ。これに歯止めをかけるには、勤務医の待遇を良くしたり、人数を増やしたりする必要がある。
その具体策の一つとして考えられたのが、病院よりも高い開業医の再診料を引き下げ、その財源を勤務医に回そうというものだ。厚労省はそれを中央社会保険医療協議会に提案していた。腰砕けは残念というほかない。
初診料は開業医も病院も同じだが、2回目からの診察にかかる再診料は開業医が710円、病院が570円だ。
医師会が再診料の引き下げに反対した理由は、「開業医が疲弊すれば、地域医療は崩壊する」というものだ。地域医療を担っているのは開業医だから、優遇されて当然という理屈だろう。
しかし、これはおかしい。地域医療は病院も同じように担っている。開業医といっても様々で、都心のビルで昼間しか診療しない開業医もいる。
医療の財政が苦しいなか、医師会がいつまでも既得権にこだわるのは理解に苦しむ。
厚労省は再診料引き下げを断念した代わりに、再診時に上乗せする「外来管理加算」などを見直し、開業医の収入から400億円余りを引きはがした。昨年末に決まった診療報酬全体の引き上げ分約1000億円余りと合わせ、産科や小児科を中心とした病院の勤務医対策にあてる。
確かに、病院側は総額1500億円の勤務医対策で一息つける。しかし、大都市の病院ですら医師不足は深刻で、この程度の対策で勤務医不足が解消するとはとても思えない。
開業医の再診料に手をつけていれば、もっと多くの財源をひねり出すことができた。それを突破口に、開業医と勤務医の役割分担やそれぞれの待遇のあり方を改めて論議することもできたはずだ。
もちろん、やみくもに開業医の報酬を削れと言っているのではない。夜間・休日診療や往診をして地域の医療を支えている開業医には、もっと手厚く配慮した方がいい。開業医の中でもメリハリをつける必要がある。
一連の動きの中で見逃せないのは、医師会が自民党を動かし、自民党が厚労省に働きかけるという旧態依然たる構図が見えたことだ。
再診料の引き下げをのめば、医師会の執行部は会員の支持を失うと危機感を持ったのだろう。一方、解散・総選挙を控え、自民党は医師会の支持をつなぎとめておきたいと計算したに違いない。
だが、こんなことでは福田首相も自民党も、国民に信頼されない。本気で医療の立て直しに取り組むなら、医師会の既得権に踏み込むことが避けられない。
ここのところ朝日がワンパターンで繰り返しているゴリ押しの主張です。ごく簡単に要旨を抜き出せば、
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せっかく勤務医待遇改善のために、開業医の再診料を引き下げて財源を捻出しようとしたのに、医師会の反対で潰された
よほど再診料引き下げが撤回されたのが悔しかったのか、再診料引き下げ撤回の代わりに医師会が無理やり飲まされた外来管理加算引き下げについては、
開業医の収入から400億円余りを引きはがした
「引きはがした」とは凄まじい表現です。社説を書いた論説委員は、金満の権化である開業医から「これだけしか」引きはがせなかったと残念至極の状態を言い表したのでしょうが、立場が変われば、高利貸しが借金のカタに布団なり、衣服を引きはがして、
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「今日はこれで勘弁してやるが、次までに耳をそろえて用意していなかったら、娘を連れて行くぜ」
ここまで意気高々に開業医を金満の権化としているのは、医療経済実態調査の厚労省や財務省の説明だけを何も考えずに鵜呑みしているためかと考えます。医療経済実態調査事態もその調査方法に問題を含んでいると考えますが、調査事態はかなり詳細を極めたものです。その詳細なデータの中で論説委員が理解しているのはただの一点だけです。
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開業医の黒字は平均228万円
医療経済実態調査は詳細なデータがあるとしましたが、このうち開業医の収支差の分布があります。既出ですが、これをグラフに直したものをもう一度見てもらいます。
- 赤字診療所が136件、約13%ある。
- 平均収支差の1/4である50万円以下の診療所が283件、約27%ある。
- 平均収支差の半分のである100万円以下の診療所が454件、約43%ある。
- 平均収支差の200万円以下の診療所が658件、約65%ある。
ひょっとするとこれでもまだ難解かもしれませんので、グラフを組み替えて見てもらいます。
3.16%の引き下げがどれほどの影響があるかですが、計算方法は既述していますから今日は省略しますが、収支差の単に3.16%が減るのではなく、その約4倍が減ります。さらに収支差の減り方は、収支差の少ないところほど影響が大きく、多いところほど小さいと言う逆進性の高いものです。
結果として何をもたらかすかと言えば、論説委員以外の方なら容易に理解できると思いますが、赤字診療所や収支差の低い診療所の割合が間違い無く増えます。平成17年調査で約14%ある収支差50万円以下のグループの半数が赤字転落してもおかしくありませんし、100万円以下のグループの約16%のうちの半分が50万円以下になっても驚きません。
もちろんそこまで単純ではありませんが、経営の苦しい診療所が増えこそすれ、減る道理がありません。赤字も含めた収支差50万円以下の診療所が1/3になっていると考えても、考えすぎとは言えないと考えます。また収支差50万円と言っても、開業資金の返済を行なっている診療所では、元本返済分はこれに含まれません。収支差50万円以下グループには実質赤字のものも少なくないでしょうし、手許にどれだけ残るかは想像がつくと思います。
念を押しておきますが、医療経済実態調査は3.16%削減前の調査であり、削減後の調査は行なわれていません。削減前の調査を基に診療報酬を策定したり、これを論じる事のおかしさを誰も気がつかないのが不思議です。もちろん論説委員には何の期待もしておりませんから御安心ください。
簡単に済まそうと思ったら、えらい寄り道になりましたが、だいたい新聞社に、
既得権の温存だ
こんな事を言われる筋合いはありません。新聞社は二つの既得権益を死守しています。
- 再販制
- 特殊指定
ある商品の生産者または供給者が卸・小売業者に対し商品の再販売価格を指示し、それを遵守させる行為。
最近商品カタログを見ても「定価」なるものが消滅し、せいぜい「希望小売価格」となり、さらには「フリープライス」になっているのは、通常の商品には再販制が行なえないからです。一方で新聞社は再販制の保護の下、ヌクヌクと定価販売を行なっています。しかし再販制だけなら新聞社間の競争はありえるはずなのですが、事実上無きに等しいのは周知の通りです。
その秘密は特殊指定です。正式には公正取引委員会告示「新聞業における特定の不公正な取引方法」では、次のように定めています。
押し紙が公然の秘密である点は今日はさておいて、これだけでは再販制度の違いがよく分かりません。もう少し具体的に言うと、
再販制だけなら割引き販売の余地が生じるのですが、特殊指定が乗っかるとほとんど競争の余地が無くなります。法の例外規定を拡大解釈して使って無理やり値引きをするより、胡坐をかいて定価販売するほうが利益が上がるのですから、当然と言えば当然です。
さらに特殊指定は新聞社が新聞販売店に対しテリトリー制や専売店制を強要することを可能にしているとの考えがあり、事実上そうなっています。理由は、
この解釈には違法性が強いとされていますが、まかり通っていると見なしてよいでしょう。
再販制ももちろんですし、特殊指定なんか尚のことで、周期的に見直しの動きが出ます。その度に狂気のように擁護に走ります。各紙一斉に再販制や特殊指定の意義を滔々と書き連ね、この既得権益を死守するのに汲々とします。もちろん自社の利益のためですから、守って悪いとは言いませんし、理屈の中には理のあるところもまったく無いとは言いません。
同じことを診療報酬改定に当り医師会は行なっているだけです。医師会の主張の理由は全く報道されず、主張のみが報道されるため、中医協であっても医師会代表がひたすら「再診料引き下げ阻止」のみをお題目のように唱えている印象がありますが、それだけで主張が通るほど世の中甘くありません。数字を挙げ、データを示し、合理的理由を説明し尽くした上での主張です。
全く同じことを新聞社は再販制維持と特殊指定維持のために繰り返し行なっています。こういうのを「自分の事を棚に上げる」と世間では言います。
再販制維持と特殊指定維持での最大の大義は全国一律の宅配制度の維持です。宅配制度の維持に意味はまったく無いとは思いませんが、特殊指定が無くなれば必ず宅配制度が無くなるかについては、牽強附会、我田引水の主張と私は感じます。地域により高くなるところがあるかもしれませんが、安くなって恩恵を受ける人数の方が多いとも考えられます。これは2/2の社説ではなく1/28の社説からですが、医療費ついてこう主張しています。
中小企業のサラリーマンが入る政府管掌健康保険は全国一本だったが、これも10月から県ごとに運営される。市町村の国民健康保険や小さな健保組合も、県単位への統合を進めている。
したがって、医療の負担と給付を決めるのも県の仕事にするのが自然だ。
新聞にあてはめれば、
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これまでは新聞料金は全国一律であったが、これも○○月がら県ごとに適用が変わり運営される。地方紙もまたそうなる。
したがって、新聞料金は県ごとに決められるのが自然だ。
またこれは2/2からですが、
もちろん、やみくもに開業医の報酬を削れと言っているのではない。夜間・休日診療や往診をして地域の医療を支えている開業医には、もっと手厚く配慮した方がいい。開業医の中でもメリハリをつける必要がある。
これもまた新聞に置き換えられます。
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もちろん、やみくもに新聞料金を下げろと言っているのではない。配達困難地域を支えている地域の販売所には、もっと手厚い料金設定を配慮した方がいい。販売所にもメリハリをつける必要がある。
医師会が再診料の引き下げに反対した理由は、「開業医が疲弊すれば、地域医療は崩壊する」というものだ。地域医療を担っているのは開業医だから、優遇されて当然という理屈だろう。
これはもうそのままに近いのですが、
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新聞社が再販制度や特殊指定の解除に反対している理由は、「新聞社が疲弊すれば、国民の知る権利が崩壊する」というものだ。国民の知る権利を担っているは新聞社だから、優遇されて当然という理屈だろう。