医療経済実態調査の診療所収支差を追ってみる

医療経済実態調査は実施毎に調査項目が変わります。今日は診療所の話なんですが、診療所の分類も変わっています。有床・無床、介護保険収入のあるなし、前回からは医療法人か個人立かみたいなわけ方です。そのため経年変化を追うのは難しいものになっています。唯一追えるのはそういう分類をすべてひっくるめた「全体」です。

医療経済実態調査が中医協での診療所の診療報酬削減の理由に使われるのは風物詩ですが、その影響を一貫して追えるのは「全体」ぐらいしかありません。「全体」の収支差をウェブで拾える第13回から表にしてみます。

実態調査 収支差(万円) 診療所数 一人医療法人数 法人化率
13回(2001) 240.8 94019 27504 29.3%
14回(2003) 206.1 96050 30331 31.6%
15回(2005) 201.3 97442 33057 33.9%
16回(2007) 165.4 99532 36979 37.1%
17回(2009) 128.3 99727 37878 38.0%
18回(2011) 118.0 99750 39102 39.2%


これまでの実態調査の使われ方からして、2001年に240.8万円あった収支差が、10年後の2011年には118.0万円に半減したと結論しても粗過ぎる分析とは言えないとは思いますが、それでは厚労省のデータ利用と同じレベルなので注釈だけつけておきます。


医療法人

個人診療所の医療法人は一人医療法人と見なして良いかと考えます。100%とは言いませんが、一人医療法人以外は誤差の範囲ぐらいの数になるはずです。この医療法人の収支差の支出には院長給が含まれます。法人では院長も法人の社員であり、法人から決まった月給をもらう事になるからです。つまり医療法人の収支差とは院長給が差し引かれた残りの金額になります。簡単には個人立より院長給が差し引かれている分だけ収支差は小さくなります。

診療所の医療法人は個人立からスタートして、医療法人を取得する形態になります。これも診療所であればどこでも取得できるかと言うとそうでもはなく、経営実績が必要になります。ここも簡単にはある程度の黒字経営を続けている事が医療法人を取得するための必要条件になります。非常に粗い類型化ですが、

    ツブクリ・・・医療法人を取得したくても現実的には無理
    フツクリ・・・取得できるがメリット・デメリットは微妙な時が多い
    ウハクリ・・・とくに税金面で有利で取得する事が多い
これもまた簡単には医療法人はフツクリとウハクリで占められているです。例外もまたありますが、大雑把にはそんな感じで、蛇足ですが個人立は逆にツブクリとフツクリで占められているとしても、そんなに間違いではありません。


記事

10/15付ロハスメディカル「「わが国の医療費の水準と診療報酬」 ─ 中医協・遠藤会長の講演 (2)」からですが、

 ただし、これは会計のやり方が違うわけでありまして、施設の院長の収入が利益の中に含まれているわけです。(医科診療所の)「その他」には、ここ(スライドの注釈)に書きましたように、病院の収支率と単純比較はできない。

 ですから、「医科診療所が多いじゃないか」ということは言えない。これは誰もが認めるところです。では、どうすればちゃんと比較できるのかというと、1つ考えられることは医療法人の診療所と病院を比較すること。

・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・

 実は、今回の「医療経済実態調査」では、医科診療所に関して無床、有床それぞれに、「その他」ではなくて、「医療法人」という枠を別途つくりました。従いまして、そこから出てくるデータを見れば、同じような会計基準ですので、診療所と病院の収支率の差が明らかになる。

 ただ、設置者の給与をうんと増やせば、収支率は下がりますので、当然、給与も見なければならないということになります。「医療経済実態調査」では、病院と診療所の給与調査をしていますので、医療法人の医科診療所の院長先生の収入も今回は調べています。

遠藤会長は診療所と病院の経営比較をするのに、会計手法が基本的に同じである医療法人の診療所の結果を用いると明言されています。診療所の経営実態は医療法人の結果で判断すると解釈できます。もう一つ2011/11/3付日本経済新聞朝刊より、

 厚生労働省が2日まとめた医療経済実態調査で、開業医の月収が大幅に増えている実態が明らかになった。病院の収支も大幅に改善した。小宮山洋子厚労相医療機関に払う公定価格である診療報酬を来年度改定で引き上げる方針を示しているが、実態調査は報酬引き下げが妥当と読める結果で、論拠は揺らいだ。それでも政権「公約」である引き上げを強行するのか。結論は年内に出る。

 実態調査は2年に一度、診療報酬の改定幅を決めるための基礎資料。調査によると、今年6月の月収は2年前と比べて開業医で9.9%、民間病院の勤務医で4.9%増えた。開業医の月収は231万円で勤務医の約1.7倍に上る。デフレで会社員や公務員の給与が下がり続けるなか、医師だけは例外の状況だ。

これも診療所の経営状況は医療法人の経営結果を代表値として判断するとしていると解釈します。この前提のためには経営状況が、

    個人立診療所 = 医療法人診療所
こうである必要があります。


チェリーピッキング

個人立診療所の平均収支差は183.2万円です。ここから院長の取り分が生まれるわけです。また個人立診療所は全体の6割を占めます。しかし診療所の経営実態として個人立診療所は排除されています。判断材料は残りの4割の医療法人診療所からするとしています。大雑把な表現ですが、同じ業種の優良企業の結果で全体を判断していくとしているわけです。

ま、診療所の役割は医療では軽視されていますし、6割の個人立診療所がバタバタ倒産しても病院の勤務医が増えるぐらいと考えているとも見れます。受難の時代だと感じています。どうやってサバイバルするか、私も頭が痛いところです。