毎日社説

4/19付毎日新聞社説より、

社説:高齢者医療 安心の仕組み 医療費の抑制はもう限界だ

 保険証があれば、いつでも、どこでも医者にかかることができる。しかも世界で最高水準の医療が、それほど大きくない負担で受けられる。日本の医療が世界から高い評価を受けてきたゆえんだ。

 しかし、誇りとしてきた安心の医療制度がいま、音を立てて崩れつつある。小泉純一郎内閣の「小さな政府」政策には功罪があるが、医療費抑制策によって医療制度は根幹から揺らぎ始めた。

 医療崩壊ともいえる現象が一気に噴き出したのだ。小児科や産科の医師が不足し、救急医療の現場では患者がたらい回しにされるケースが相次いでいる。病院経営の赤字が膨らみ、勤務医は過酷な仕事に疲れ果て、開業医をめざして病院から去っていく。少子化対策が声高に叫ばれるのに、現実には医療ミスの裁判を恐れて産科医が減っている。

 医療費の削減を狙った後期高齢者(長寿)医療制度は高齢者を落胆させ、強い怒りが広がった。高齢者の怒りは国の政策への痛烈な批判と受け止めなければならない。政府の説明不足もあるが、背景には「医療費カットは高齢者切り捨てだ」という不信感がある。政府は高齢者の不信や不安を取り除くためにも明確なメッセージを送るべきだ。

 高齢者の医療費は現役世代の5倍かかる。年間30兆円を超す医療費の3割以上は老人医療費が占める。高齢化が進めば、医療費が増えるのは自然の流れだ。一方、少子化によって現役世代が減るため世代間の仕送り方式で運営される社会保障制度の基盤が崩れるのは目に見えている。

 政府の医療費抑制策に国民は一定の理解を示したが、実行されてみると、さまざまな問題が表面化した。厚生労働省は診療報酬の見直しをテコに日本医師会の力をそごうとした。だが、診療報酬の配分を開業医から勤務医に移すための見直しは進まず、医療費抑制のしわ寄せは病院経営や勤務医にのしかかった。

 加速する医療崩壊の実情をみると、医療費抑制はもはや限界に達したと言わざるをえない。日本より早く同じ医療崩壊が起きた英国では医療費を増やす政策に転換し、危機を乗り越えつつある。こうした経験にも学ぶ必要がある。 

 国は医療費抑制の功罪を再点検し、医師不足・偏在対策など必要な所には増やすべきだ。検査漬けなどムダを省くことも重要だが、それ以上に抑制策によって疲弊した医療の立て直しが必要だ。早急な医師の増員や、地域に計画的に配置するための施策を取ることも急いでほしい。これは日本医師会をはじめ医師や医療機関の協力がなくてはできない。医師の団体は指導力を発揮して、医師不足・偏在対策に手を打ってもらいたい。

一応サラサラと書き流してありますが、天漢日乗様の批評を借りれば、

    この期に及んでまだ
     たらい回し
    という文言を棄てない、素晴らしい
     医療破壊の主導者たる毎日新聞論説委員の華麗な筆致
    を熟読玩味したいところですな。今更
     たらい回し
    って、この論説委員は何を見てきたんだか。論説委員って、新聞社では一番威張ってて、高給取りだと思ったが、c/pの悪い雇用形態だな、毎日新聞。だから週刊誌に「潰れそうな新聞社」とか、ことある事に書かれるんじゃないの。
    現在の救急医療の窮状は
     診たくても、人員不足で受け入れ不能
    というのが正しいと、何度言っても、表現が変わらないということは、頭の中身は豆腐かなんかなんだろう。ミジンコでももう少し記憶容量がありそうなものだ。

いゃ〜、実に手厳しい。では御期待応えて、

    熟読玩味したいところですな。
一丁やってみますか。

まずタイトルがお笑いです。

高齢者医療 安心の仕組み 医療費の抑制はもう限界だ

4月になって後期高齢者医療制度が「予想に反して」大不評なもので宗旨替えをした模様です。新聞社の貴重な鉄の購読層である高齢者に不評な政策は徹底批判しておかないと読者が減るとのお考えと受け取ってと良いと思います。なんと言っても前科はテンコモリの新聞社ですから。

 保険証があれば、いつでも、どこでも医者にかかることができる。しかも世界で最高水準の医療が、それほど大きくない負担で受けられる。日本の医療が世界から高い評価を受けてきたゆえんだ。

おっかしいな、グローバルスタンダードのアメリカ様の医療に較べて格段に落ちると力説していた気がするのですが、気のせいでしょうか。それとここには大きな嘘が含まれています。

    それほど大きくない負担で受けられる
まったくの嘘ではありませんが、誤解を招く記述です。日本の医療費と言うか料金設定はウルトラディスカウント価格で、元の価格が無茶苦茶であるから自己負担は「それほど大きく」ありません。ところが医療にかかる費用に対する自己負担率は決して低くありません。あくまでも元の金額が異常に安いから高い自己負担率にもかかわらず自己負担が大きく感じないイビツな料金体系になっています。

 しかし、誇りとしてきた安心の医療制度がいま、音を立てて崩れつつある。小泉純一郎内閣の「小さな政府」政策には功罪があるが、医療費抑制策によって医療制度は根幹から揺らぎ始めた。

冒頭以外の文章は是認しても良いですが、冒頭の

    誇りとしてきた
よくもまあ言えたものです。用語に御注意ください。「してきた」と表現したからには「ずっとそう考えてきた」になります。つまり、
    誇りとしてずっと思い続けてきた
こうなるわけです。「誇り」と思うものは通常の感覚ではこれを守ろうと考えます。守ろうともしないものを「誇り」とする理由がありません。とくに「誇り」とまで表現すればこれは積極的に守るという意味にも通じます。こういうセリフが書けるのは、それに対する実績を残していないと大嘘になります。一個人であればその業績が他人には見えなくとも全く支障がありませんが、新聞社は目に見える事業です。つまり真っ赤な嘘を書いている事になります。

 医療崩壊ともいえる現象が一気に噴き出したのだ。小児科や産科の医師が不足し、救急医療の現場では患者がたらい回しにされるケースが相次いでいる。病院経営の赤字が膨らみ、勤務医は過酷な仕事に疲れ果て、開業医をめざして病院から去っていく。少子化対策が声高に叫ばれるのに、現実には医療ミスの裁判を恐れて産科医が減っている。

新聞は言うまでもなくマスメディアです。それも毎日新聞といえば日本でも有数の大新聞社です。その大新聞社が情報を集めた結果が、

    医療崩壊ともいえる現象が一気に噴き出したのだ
自らの情報収集力がいかに貧弱なものか堂々と書かれています。恥しいという感覚はどこにもないようです。
    小児科や産科の医師が不足し
ここも情報収集力がいかに貧相なものかを力説しています。小児科も産科も医師不足ですが、そんな医師不足情報は何年前の話でしょうか。麻酔科は考えようによっては産科並みかそれ以上ですし、脳外科を始めとする外科系も不足や後継者不足は深刻ですし、内科でさえ循環器を筆頭に医師不足の影が深刻になりつつあります。医師不足といえば小児科、産科みたいなステレオタイプのカビの生えた情報しか集められない新聞社である事を自ら口にしております。
    救急医療の現場では患者がたらい回しにされるケースが相次いでいる
これについてはもう批評はしません。天漢日乗様の批評で十分です。私が補足すればそれで今日のエントリーが終わってしまいます。
    病院経営の赤字が膨らみ、勤務医は過酷な仕事に疲れ果て、開業医をめざして病院から去っていく
病院経営の赤字が膨らんでいるのは昨日今日の話ではありません。あえて今日的な話とすれば、私立病院でさえ黒字経営の維持が難しい時代になっているのです。公立病院に至っては公益のために維持するのが使命であるはずの赤字診療部門の維持も困難になり、経営のために切り捨てにされています。さらに切り捨てて経営が改善する事が善であると総務省辺りが強権を持って指導に励んでいます。

勤務医が過酷な勤務に疲れて開業医になる者は確かにいます。ただしこの記事では全部がそうであるように読めます。これもまた余りにも認識不足です。開業医になるものの比率はそれなりに増えているかもしれませんが、大部分は一線の過酷な病院から撤収しているだけです。さらに後段にも続くのですが、日本の医療は病院と開業医の両輪で成り立っています。病院が倒れれば開業医も共倒れになりますが、開業医が滅べば病院だけでは持ちこたえられません。開業医を敵視し、病院のみの存続を考えるような偏狭な視点で医療を語る愚を嘲笑します。

    少子化対策が声高に叫ばれるのに、現実には医療ミスの裁判を恐れて産科医が減っている
書くまでも無く毎日新聞が共犯から主役を演じている事を医師は決して忘れません。医師が忘れないという意味は死ぬまでの事であり、他の記事のように書き流して3ヶ月もすれば時効になることはありません。医師は奈良事件からの一連の報道を子々孫々にまで語り継いでいきます。

 医療費の削減を狙った後期高齢者(長寿)医療制度は高齢者を落胆させ、強い怒りが広がった。高齢者の怒りは国の政策への痛烈な批判と受け止めなければならない。政府の説明不足もあるが、背景には「医療費カットは高齢者切り捨てだ」という不信感がある。政府は高齢者の不信や不安を取り除くためにも明確なメッセージを送るべきだ。

    不信感がある
「不信」とは信じられないことであり、信用が置けなくなっていると言っても良いと思います。ところが「不信感」となると信じてよいのか迷うという事です。迷った上で信じてよいかの不安を表しています。社説は難しい事は言いません。予算が下がってサービスが上る事は絶対にありません。この世の鉄則です。下がった分は何かで穴埋めされます。レストランであれば、食材の質を下げる、シェフのランクを落とす、従業員の質を落とすなり、数を減らすで対応します。そんな事をすれば当然従来のサービスより質が下がり、満足なサービスを受けられません。さらにこの後期高齢者医療制度は、サービスの質を下げるだけではありません。料金を上げてサービスを低下させる政策です。

高齢者が怒っているのはこのダブルパンチが見えているからです。身に沁みて感じているからです。こんな仕打ちをされれば高齢者でなくとも怒ります。

    高齢者の不信や不安を取り除くためにも明確なメッセージ
社説子はどんなメッセージを想定しているというのでしょう。首相や厚労相がテレビの前で「大丈夫」とでも言うのを想定しているのでしょうか、それとも政府広報とやらで「安心プランですから信用してください」でしょうか。そんな小手先の子供だましで怒りが収まると考えているなら極楽トンボです。高齢者の中には悲しいかな年齢のために判断能力が衰え、そんな子供だましを信用してしまう人もいるかもしれません。ちょうど詐欺商法に引っかかるようにです。しかし人生の経験者を舐めたらあきません。ほとんどの人は真相をはっきり見抜いています。

 高齢者の医療費は現役世代の5倍かかる。年間30兆円を超す医療費の3割以上は老人医療費が占める。高齢化が進めば、医療費が増えるのは自然の流れだ。一方、少子化によって現役世代が減るため世代間の仕送り方式で運営される社会保障制度の基盤が崩れるのは目に見えている。

殴ったろうかと思います。高齢者に医療費が多くかかるのは誰だって知っています。団塊の世代が高齢者の仲間入りし、医療費が急騰するのも知っています。そんな事は遥か以前から確実に分かっている事です。だからどうするのかの対策を考えてきたのです。政府の取った対策はもっとも愚かで目先の事しか考えていないものです。

    増えたら大変だから押さえ込もう。この際だから押さえ込むだけではなく減らそう。
こんな机上の空案を考え無しに実行に移したのです。本当は増える分をどうやって賄おうであり、賄うためにはどこかの予算、たとえば公共投資を減らそうとかに進まなければならないのに、利権の塊には手をつけずに「ついでに減らしてしまえ」にした結果が今です。

 政府の医療費抑制策に国民は一定の理解を示したが、実行されてみると、さまざまな問題が表面化した。厚生労働省は診療報酬の見直しをテコに日本医師会の力をそごうとした。だが、診療報酬の配分を開業医から勤務医に移すための見直しは進まず、医療費抑制のしわ寄せは病院経営や勤務医にのしかかった。

どっかのトンデモ医療訴訟の判決文の論理構成を読むようですが、

    政府の医療費抑制策に国民は一定の理解を示したが、
だいたい医療費が減って悲しむ国民なんて25万人ぐらいしかいません。どんな費用であれ減れば単純に喜びます。そのうえ自己負担が増えた分の怒りはすべて医療機関に向かわせ、自己負担が増えた分だけ「医者は儲かっている」とひたすら思わせ続けてきたわけですから、「一定の理解」ぐらいするに決まってます。えらく唐突な文章ですが、何のために「そごう」としたのですか。それをはっきりさせない文章は駄文です。すべては「医療費抑制」のためです。一生懸命医師会の力をそいで、医療費を抑制した結果が今ではないですか。
    だが、診療報酬の配分を開業医から勤務医に移すための見直しは進まず、医療費抑制のしわ寄せは病院経営や勤務医にのしかかった。
まだ言うか!、「開業医は儲け過ぎ」神話を未だに使う愚かさは死ぬまで変わらないということのようです。医療費抑制のしわ寄せは開業医にも十分すぎるほどのしかかっています。開業医が儲かった時代は30年も40年も前に過ぎ去っています。儲かった時代に蓄積のある開業医は優雅ですが、現代の開業医は綱渡り経営にピーピー言ってます。かの聖典「医療経済実態調査」でも13%が赤字経営、1/3が月間の収支差50万円以下です。

 加速する医療崩壊の実情をみると、医療費抑制はもはや限界に達したと言わざるをえない。日本より早く同じ医療崩壊が起きた英国では医療費を増やす政策に転換し、危機を乗り越えつつある。こうした経験にも学ぶ必要がある。

アレアレ、前段で開業医からの「引き剥がし」をあれだけ力説しておいていきなり豹変ですか。前段から言えば開業医から「引き剥がし」さえすればすべて解決の論調でしたが、よくこんな続きにすると鉄面皮ぶりに驚嘆します。ちにみに英国は危機を脱したわけではなく、これ以上悪くならなくなっただけという事を付け加えてきます。

 国は医療費抑制の功罪を再点検し、医師不足・偏在対策など必要な所には増やすべきだ。検査漬けなどムダを省くことも重要だが、それ以上に抑制策によって疲弊した医療の立て直しが必要だ。早急な医師の増員や、地域に計画的に配置するための施策を取ることも急いでほしい。これは日本医師会をはじめ医師や医療機関の協力がなくてはできない。医師の団体は指導力を発揮して、医師不足・偏在対策に手を打ってもらいたい。

本当にコレ正気で書いているのでしょうか。社説なんてこんなエエ加減に字を並べたらOKの代物なんでしょうか。ま、朝日も産経も同じレベルで書いてますから、論説委員なる人物は新聞社の埋め草記事担当である事がよくわかります。

日本医師会厚生労働省を始め皆様努力の結果、十二分に力が削がれています。散々削いでおいて期待されたら困ります。それともともと日医は開業医の団体であり、強権を揮った時でさえ勤務医への影響力は微々たる物です。現在の日医は力が削がれた結果、勤務医からは完全にソッポを向かれ、開業医からも見放されつつあります。そんな団体に便利な脳内妄想です。さらに笑うのはそんな日医に
    医師不足・偏在対策に手を打ってもらいたい
こりゃ本当にお笑いだ。日医は医師になった人の任意団体です。日医が医師免許を発行しているわけではありません。日医が医師を作っているわけでもありません。どうやってそんな日医が医師不足に対処できるというのですか。強権を揮った神話時代でも無理な話です。偏在対策もそうです。日医には何の人事権もありません。一応支持者とされる開業医の場所ひとつ動かす事は出来ません。開業制限も不可能です。ましてや開業医している医師を呼びつけて「僻地病院に勤務せよ」なんて間違っても言えません。

それと日医以外の「医師の団体」ってなんでしょうか。弱小泡沫の団体ならありますが、実態は日医以下です。またこれは正式の団体ではありませんが、大学医局もあります。大学医局は確かに人事権を持ち、医師の偏在解消に魔力を発揮していました。しかしこれもまた厚労省が音頭を取り、大汗をかいて弱体化させたので、かつての神通力は失われ、さらにもうかつてのように復活する事もありえません。


今日はこんなもので如何でしょうか。どうでも良い事ですが、このレベルの記事を書かすために給料を払うとは新聞社は余ほど儲かっているのだと思います。とっととリストラして購読料でも下げた方がよほど読者が増えると思うのですがね・・・。