新聞社が入る弊害

11/28付の元は産経の記事です。

【経世一言】診療報酬 納税者もモノ申す

 来年度が改定時期の診療報酬をめぐり日本医師会財務省がバトルを展開している。引き下げを目指す財務省に対し、医師会の主張は5.7%という大幅な引き上げだ。

 その理屈は「地域医療を支える」「国民の安心を守る」「医療の質を確保する」の3つ。まあ、立派な理屈ではある。だが、これを金額換算すると、税、保険料などで何と約2兆円の国民負担増になるから、放ってはおけない。

 確かに医師会が言うように、一部地方や産婦人科などで深刻な医師不足が存在する。医師会の主張はその原因を先進国に比べて医療費が少ないとか、近年の2回の診療報酬引き下げに求めている。

 果たしてそうだろうか。例えば、保険料や税で負担している公的医療費は、GDP(国内総生産)比で経済協力開発機構OECD)の平均を上回っている。医師数も毎年、3500〜4000人も増えている。

 診療報酬だって安くない。公務員に適用される人事院勧告や物価と比較して、まだ下げ幅に大きな乖離(かいり)がある。つまり、下げ足りないのだ。医師会は公務員との比較を筋違いとするが、税金が投入されている以上、その論法こそ筋違いだろう。

 薬価もそうなのだが、税金が投入されているという事実認識が医師には希薄なのではないか。いや、納税者はこの事実をほとんど知らない。

 医療費の財源は保険料が半分と最大だが、国、地方を合わせた税負担が36%も占めている。残りが患者の自己負担である。では、その使い道はどうかというと、半分は医師などの人件費、つまり診療報酬なのだ。公務員ほどではないが、医師も公費で養っている。

 不思議なのは医師数、診療報酬とも十分なのに、なぜ地方や産婦人科、小児科の医師不足、そして勤務医の激務が問題になるのかだ。財政制度等審議会の建議が、これにひとつの解を示している。医局制度の問題や開業医を厚遇する診療報酬体系である。

 建議は言う。診療報酬が引き下げられても開業医の利益は増えており、年収は勤務医の1.8倍だ。なのに従業時間は少なく、ほとんどが休日・時間外診療をしておらず、週休2.5日制である。

 かつては深夜まで往診してくれ、それが医師への尊敬の念となっていたが、いまや往診はないに等しい。それでいて、再診料など診療報酬点数は病院より高い。こうした優遇を既得権益と言わずして何と言おう。

 これでは都市部の開業医になる医師が増えるはずだ。若い女性が選ぶ結婚相手の人気職業で、IT(情報技術)成り金と肩を並べるのもうなずける。だが、納税者はこんないびつな状態を放置して、さらに2兆円も負担するほどお人よしではあるまい。

 開業医の診療報酬を大幅に減らし、不足する分野に重点配分すれば、指摘されている問題の多くは解決に向かうのではないか。それは税や保険料の負担軽減にもつながる。

 なのに、その配分を決める中央社会保険医療協議会中医協)は何をしているのか。今回の改定の議論でも医師会代表だけでなく、産業界や中立の委員まで引き下げを求める声がほとんどないという。開業医減点の議論もさっぱりだ。

 つまり、議論は医療村の中だけで進み、肝心の納税者が蚊帳の外に置かれている。ここは納税者が声をあげるときだ。でないと、増税は際限がなくなる。(論説副委員長)

この記事に対する反発は医療系ブロガーで非常に強いものがあります。私も同じです。いちいち詳細に分析して論破するのは技術的に容易ですが、論点が短い文章にテンコモリ状態なので、今朝は記事そのものにツッコミは控えます。あまりにも時間がかかりすぎます。ですので、今日は記事内容がトンデモなのは既知の事として、記事が生まれた背景を考えてみたいと思います。

この記事のネタ元は財政制度等審議会財政構造改革部会における財務省のプレゼンです。プレゼンの一部は昨日のエントリーでも紹介しましたが、議事録の冒頭部の主計局の資料説明からほとんど引用されています。これも引用すると長くなるのでリンク先を御確認ください。プレゼンに使った提出資料も合わせて読んでいただければ、分かりやすくなります。

財政構造改革部会とは現在の政治で跳梁跋扈する有識者会議の一つですが、この会議は財務省主催です。当然のことですが、財務省が誘導したい結論を論議するに相応しい「有識者」が多数派を占めるように選ばれています。これは財務省主催の有識者会議だけではなく、すべての有識者会議の鉄則です。委員の名前は名簿が公開されていますので御確認ください。この委員の肩書きを読めば分かるように財界人が多数を占めています。その他は御用学者と天下り役人とおぼしき委員で大多数を占めていると見なしてよいと考えます。

そういう委員の前で財務省主計局がプレゼンを行なったのですが、この手の有識者会議の常として「結論ありき」です。極論すれば会議を行なおうが、行なおまいが、出てくる結論は変わりません。また委員のうちでとくに財界人は財務省に頼まれた単なる御用委員ではないと考えます。財界人が省庁の中で一番怖いのはどこかと言えば財務省でしょう。財務省の意向一つで一つの産業の興廃が左右されると言っても過言ではありません。つまり

この力関係が明瞭にあります。財務省主催の有識者会議で財務省の主張に異を唱え、反感を買うような行為に出るとは絶対に思えません。反感を買って陰湿な妨害を受ければ自分の会社に大きな不利益を蒙ります。これは財界人が根性無し言うより、小市民としての当たり前の防衛反応と考えます。

それと財務省のプレゼンの内容がどんなものかはこのブログでも幾つか紹介しましたが、その内容がどうであれ、委員はその提案を討議の末「賛成」しているのです。財務省が欲しいのは提案に対する賛成だけですが、賛成したからにはその後の言動にも目を光らせているはずです。会議で賛成しておいて、その後にひっくり返すような言動を行う事は財務省の機嫌を損ないます。そういう行為も財界人は慎むはずです。わざわざそんな面従腹背行為をして不興を買う必要は全く無いからです。

とくに医療問題如きでです。

ここで会議のメンバーを改めて確認しておきたいと思います。とくにマスコミ関係です。

【委員】

岩崎 慶市 (株)産業経済新聞社論説副委員長
玉置 和宏 (株)毎日新聞社特別顧問(論説担当)

【臨時委員】

榧野  信治 (株)読売新聞東京本社論説委員
長谷川 幸洋 東京新聞中日新聞論説委員

【専門委員】

五十畑 隆 (株)産業経済新聞社客員論説委員
田中 豊蔵 元(株)朝日新聞社論説主幹
渡辺 恒雄 (株)読売新聞グループ本社代表取締役会長・主筆

委員、臨時委員、専門委員の力関係、議決権の有無はわかりませんが、彼らは財務省の提案に賛成した事は間違いありません。財務省と言う怖い機関の提案に賛成したのですから、この結論に対する反論は財務省に直接矢を向けるものとして解釈されます。つまりは反逆行為みたいなものです。そう考えると冒頭の記事を書いた岩崎慶市(株)産業経済新聞社論説副委員長の行動は理解しやすくなります。飼い犬がご主人様に懸命に尻尾を振っている健気な態度です。どれだけ財務省の意向に忠実であるかの証明みたいなものです。

そこまで考えると財務省のプレゼンが本当は誰に対して行なわれたかが分かります。ネットで議事録が公開される時代ですから、財務省の提案もそれなりに説得力があるものが求められます。会議の結論はどうとでも誘導できますが、あまりに杜撰な経緯であるなら、うるさい奴がからんできます。つまり財務省は国民に向かってあのプレゼンを行なったわけです。会議の結論はちゃんとした根拠があるぞとのパフォーマンスです。産経論説委員の記事の発信する方向もまた、読者である国民でなく財務省に対する愛のメッセージです。どれだけ産経が財務省の意向に忠実であるかの証です。

産経以外のマスコミ参加は上記した通りです。彼らもまた財務省提案に直接賛成していますから、彼ら及び彼らが属する新聞社は財務省の鉄のくびきが架せられていると見れます。つまり会議に参加した新聞社はそのまま財務省業界紙に成り下がっているわけです。いやはや権力とはかくも巧妙に立ち回るのかと感心します。さすがは政府の中の政府である財務省ですからマスコミ対策も万全と言うわけです。