ソースは同じだな

まず1/20付の産経の論説です。

【主張】診療報酬改定 開業医も痛み分かち合え

産経ニュース 2008.1.20 02:53

http://sankei.jp.msn.com/life/welfare/080120/wlf0801200253000-n1.htm

 来年度の診療報酬改定の個別点数配分の議論が中央社会保険医療協議会中医協)で始まった。今回の改定の大きな課題は、過酷な労働を強いられている勤務医対策だ。医師不足が深刻化する産婦人科や小児科、救急医療などに手厚く配分することを求めたい。

 厚生労働省が開業医の再診料引き下げを提案した。再診料は、開業医(710円)が病院(570円)よりも140円高い。厚労省はこれが、病院の夜間外来に患者が集中する一因になっているとみている。開業医の引き下げで浮いた財源を、勤務医の待遇改善策に充てようというのだ。

 厚労省がまとめた医療経済実態調査によると、開業医の平均年収は2500万円で勤務医の1・8倍だ。限られた中でメリハリを付けるためにも、思い切った引き下げが必要である。

 厚労省は再診料引き下げと同時に、開業医の夜間報酬を上げることも提案している。夜間救急を開業医にも分担してもらい、勤務医の仕事を減らそうとの狙いだ。開業医は夜間診察をすれば、再診料の目減り分を補えるわけで、積極的に協力すべきであろう。

 ところが、日本医師会(日医)はこの提案に強く反対し、中医協の答申案骨子から「引き下げ」の文字が削除された。エゴむきだしの主張だ。今回は、日医が政府・与党に強く働きかけて、医師の技術料にあたる診療報酬本体部分が8年ぶりに0・38%のプラス改定となった。産婦人科や小児科など医師不足対策を理由としていたことを忘れてもらっては困る。

 しかも、診療報酬本体部分の引き上げは、結果的に健康保険組合がその財源を肩代わりする形で実現した。大企業のサラリーマンは平均年5000円の保険料アップになるという。

 医師不足対策はサラリーマンら国民に押し付けておいて、自分の身を切るのは嫌だというのでは、とても理解は得られまい。開業医も応分の痛みを分かち合うべきだ。

 ただ、勤務医に手厚くしようとしても診療報酬を受け取るのは病院だ。勤務医にどう配分するかは病院経営者の判断にかかっている。引き上げ分が勤務医の待遇改善にきちんと反映されるよう、国民がチェックできる仕組みの導入も必要である。

つづいて1/30付の朝日の記事です。

開業医再診料、引き下げ断念 医師会の反発受け 厚労省
2008年01月30日03時01分

 厚生労働省は29日、医療機関などに支払う診療報酬の08年度改定で、焦点となっていた開業医の再診料引き下げを断念する方針を固めた。この引き下げによって勤務医不足対策の財源の一部を捻出(ねんしゅつ)する計画だったが、開業医を中心とする日本医師会が強く反発。厚労省が最終的に押し切られた。勤務医不足対策には1500億円を盛り込むものの、開業医の既得権益への切り込み不足は否めず、「勤務医との格差是正が不十分」との批判が高まるのは必至だ。

 30日の中央社会保険医療協議会中医協厚労相の諮問機関)で、中立的な立場の公益委員が引き下げ見送りを提案、了承される見通しだ。

 外来の初診料は、前回06年度改定で開業医、勤務医とも2700円に統一された。だが、同じ病気での2回目以降の診察にかかる再診料は、勤務医570円(ベッド数200床未満)に対し、開業医は710円。患者は自己負担が少なくて済む病院を選ぶ傾向が強まり、勤務医の過重労働につながっているとの批判がある。

 厚労省は今回、病院の勤務医に比べ少ない労働時間で高い収入を得ているとの指摘もある開業医の再診料を引き下げ、その財源を勤務医不足が著しい産科・小児科などに重点配分する方針を打ち出していた。

 だが、医師会は「再診料は、地域医療を支える開業医の無形の技術を評価する重要な項目」として引き下げ案を拒否。次期総選挙を意識し、医師会の支持を取りつけたい与党も歩調を合わせた。

 厚労省は勤務医不足対策の必要財源を1500億円と試算。具体策として、リスクの高い出産、重症の子どもの治療への報酬引き上げや、勤務医の仕事を補助する事務職員の配置などを挙げている。

 財源については、「医師会と決裂するよりも、別の方策を検討した方が財源を確保しやすい」と、中医協の委員を説得。開業医の再診料下げを断念する代わりに(1)軽いやけどなど簡単な治療の診療報酬を廃止(2)再診時に検査などを行わなかった場合に再診料に上乗せ請求できる「外来管理加算」の見直しで400億円を調達。昨年末の改定率交渉で決まった医師の技術料など診療報酬の本体部分の引き上げ幅(医科で0.42%)1100億円と合わせ、1500億円を確保する方針だ。

 厚労省は、軽いやけどの治療など、再診料以外の部分で開業医向けの診療報酬を削って財源を確保した。だが、1500億円で勤務医不足を十分に緩和できるかどうかは未知数だ。効果が上がらなければ、再診料引き下げ見送りへの批判が改めて高まりそうだ。

記事への批評もしますが、それよりも非常に内容が似ている事に気がつきませんか。ついで言えば煽るような論調までそっくりです。同じ新聞社で似ていても不思議ありませんが、全く違う大手新聞社でこれほど似通った記事が出るのは興味深い事です。

元のソースは開業医の再診料の引き下げを正当化する説明であったと考えます。大義は勤務医の負担軽減がまず挙げられています。産経では、

今回の改定の大きな課題は、過酷な労働を強いられている勤務医対策だ。医師不足が深刻化する産婦人科や小児科、救急医療などに手厚く配分することを求めたい。

朝日では、

厚労省は今回、病院の勤務医に比べ少ない労働時間で高い収入を得ているとの指摘もある開業医の再診料を引き下げ、その財源を勤務医不足が著しい産科・小児科などに重点配分する方針を打ち出していた。

開業医の再診料を引き下げる理由として産経は、

厚労省がまとめた医療経済実態調査によると、開業医の平均年収は2500万円で勤務医の1・8倍だ。限られた中でメリハリを付けるためにも、思い切った引き下げが必要である。

朝日は

厚労省は今回、病院の勤務医に比べ少ない労働時間で高い収入を得ているとの指摘もある開業医の再診料を引き下げ、その財源を勤務医不足が著しい産科・小児科などに重点配分する方針を打ち出していた。

書き手の個性により差はありますが、同じ資料、同じ説明を聞いて書かれたことは明白です。その上で財源を開業医の再診料に求めています。ここで「開業医は楽して儲けすぎ」だけの説明ではまだ足りないと考えたようで、厚労省は140円理論を展開したようです。

まず産経が嘲笑を受けた部分ですが、

 厚生労働省が開業医の再診料引き下げを提案した。再診料は、開業医(710円)が病院(570円)よりも140円高い。厚労省はこれが、病院の夜間外来に患者が集中する一因になっているとみている。開業医の引き下げで浮いた財源を、勤務医の待遇改善策に充てようというのだ。

一方で朝日では、

 外来の初診料は、前回06年度改定で開業医、勤務医とも2700円に統一された。だが、同じ病気での2回目以降の診察にかかる再診料は、勤務医570円(ベッド数200床未満)に対し、開業医は710円。患者は自己負担が少なくて済む病院を選ぶ傾向が強まり、勤務医の過重労働につながっているとの批判がある。

金額の正確さでは朝日の方が後出しだけあって優っていますが、厚労省の元の説明は産経記事のニュアンスの方が近かったような感触があります。と言うか朝日は産経記事への批判を読んで修正した気配があります。修正したので金額関係は正確になりましたが、インパクトが落ちています。厚労省の説明に虚偽はなかったと思いますが、聞き手なり読み手に産経記事のような印象を抱かせる誘導を行なった可能性は十分あります。

この140円理論には意図的に伏せられている部分があります。診療機関による再診料ですが、


医療機関 再診料 診療所との差額
診療所 710円
200床以上の病院 700円 −10円
200床未満の病院 570円 −140円


このうち診療所と200床未満の病院の再診料の差である140円を強調してますが、200床以上の病院と診療所との再診料の差が10円である事は綺麗にスルーされています。おそらくですが厚労省の説明では200床で区分される病院の再診料は伏せられ、病院全般の再診料が診療所と140円も差があるから問題だとひたすら強調されたかと考えます。

聞き手の方は病院の再診料が病床数によって変わるなんて夢にも思わず、「140円が諸悪の根源だ!」と印象付けられたと推測します。さらにこれに関連して、勤務医の過酷な勤務状況を夜間診療を中心に強調されたために、産経の論説委員

    勤務医の夜間診療の過酷さ = 再診料140円理論
こう受け取って論説を展開したのではないかと考えます。

厚労省の誘導は新聞社には成功したのでしょうが、140円理論は200床以上の病院の再診料が診療所と10円しか差が無い事に大きな欠点があります。上の表を見てもらえればわかるように、140円理論が患者の動向に巨大な影響を及ぼすのなら、当然のように医療機関の多忙さは、

    200床未満の病院 >> 200床以上の病院
日本の患者は140円の差に極めて敏感に受診動向を変えるというのが140円理論ですから、140円が130円に変わっても影響力は変わらないと考えるのが妥当です。もう少し言えば、3割負担なら140円負担で50円(42円)、130円負担で40円(39円)です。診療報酬は10円単位で端数は切り上げられますから、再診料だけなら10円の差が出ますが、精算時は他の診察料とも合算されますから、最大で10円で、場合によっては差がないことになります。なんと言っても差は3円しかありませんから。

そうなると140円理論に従うと、日本で過重な勤務に苦しんでいるのは200床未満の病院であることになります。200床以上の病院は診療所と同様にラクしていなければなりません。その理論がいかに馬鹿げたものであるかは言うまでもありません。

それと140円理論で理解しにくいのは診療所の再診料を引き下げて勤務医の待遇改善にどれぐらいつながるかです。140円理論によれば、この差が200床未満の病院に患者が殺到する理由としています。当然ですがこれを解消すれば殺到しなくなり勤務医の負担は軽減されることにはなります。

ところが殺到がなくなるという事は、それだけ受診患者数が減ることになります。厚労省の140円理論では、200床未満の病院の再診料が上るわけではありませんから、受診患者数が減ればそれだけ収入が減少します。収入が減っても病院の人件費は変わるわけではありませんから、ただでも赤字が多数を占める病院経営はさらに苦しくなります。病院経営が苦しくなれば職員の待遇は低下します。患者数だけは減って、負担は軽減されるかもしれませんが、病院自体の経営の深刻化はより悲惨な物になるということです。

上の表を良く見て欲しいのですが、再診料自体は「儲けすぎ批判」が集中している診療所でもたったの710円であり、3割負担で220円に過ぎません。140円理論で診療所の再診料を引き下げるよりも、もっと単純に200床未満の病院の再診料を引き上げたら良いと思いませんか。再診料の差が無くなれば、140円理論はそもそも存在しなくなります。

さらに言えば勤務医の負担の軽減を本当に考えるのならば、病院全体の再診料をどんと引き上げるのが一番適切な方策であるとも考えます。140円理論で患者が動くのですから、逆に病院の再診料が140円以上、そうですね500円とか1000円ぐらい高ければ患者は診療所に完全にシフトします。患者が減る分は、再診料アップでカバーできれば、勤務医にとって患者数の負担が減り、病院の収入が増えるので、回りまわって待遇改善につながります。

朝日記事にある、

30日の中央社会保険医療協議会中医協厚労相の諮問機関)で、中立的な立場の公益委員が引き下げ見送りを提案、了承される見通しだ。

厚労省の140円理論があまりの杜撰なのにあきれられて見送られたと思います。こういう人を本当の有識者であると思います。間違っても同じく朝日記事にある、

「勤務医との格差是正が不十分」との批判が高まるのは必至だ

こう頑張る人は産経の論説委員程度の見識しかないという事でしょう。