雑談で〜す♪

他にもっと良質のネタもあるのですが、準備不足で質の悪い話で今日はお茶を濁します。ローテーションの谷間用の雑談ネタですから、お気軽にお読みください。

久坂部羊氏は産経新聞でコラムを担当されているようですが、先日話題になったのが3/27付けで、

【断 久坂部羊】医師に労基法はそぐわない

 先日、ある新聞の1面に「救命医宿直7割『違法』」という記事が出た。救命救急センターの当直が労基法に違反しているとの内容である。医師の激務の実態を報じるのはいいが、そこに労基法など持ち出しては百害あって一利なしだ。

 記事には、労基法上、残業などの時間外労働は原則、月45時間までとか、労基法に違反すると、労働基準監督署が改善指導し、従わない場合は書類送検することも、などとある。医療にそんな建前が通用するわけがないではないか。それとも、治療を求める患者を前に、医師が労基法をたてにして、病院に権利主張ができるとでもいうのか。

 医師に労基法を適用して、臨床研修制度が大きな矛盾を抱えたことは記憶に新しい。研修医に30万円程度の給料を保障したため、指導医のほうが安月給になったり、週末や当直明けを休みにしたため、研修医の一部が、医師のありようを学ぶ前に、休暇の権利を覚えたりするようになった。

 医師の勤務が労基法に違反している云々(うんぬん)などは、現場の医師にとっては寝言に等しい。医師の激務や待遇の改善は必要だが、今さら労基法を当てにする者など、まずいないだろう。万一、医師が労基法の適用を求めだしたら、現場はたいへんな混乱になる。

 患者の治療よりも、労基法の遵守を優先すべきだとまで主張するならいいが、そうでなければ、表面的に「違法」をあげつらうのは、単なる絵空事にすぎない。(医師・作家)

これについては三六協定のお勉強でみっちり意見させて頂きました。ごく簡単に要約すると「勉強不足」です。この程度の労働基準法理解で医師の勤務を語って欲しくないと言うことです。

たぶんと言うか絶対なんですが久坂部羊氏はネットは見られないようで、新たなコラムを4/20付けで出されております。

【断 久坂部羊】診療報酬改定が招く危機

 平成20年度の診療報酬改定が発表された。私は在宅医療専門のクリニックに勤めているので、その関連の項目に着目したが、改定の内容を見て驚いた。

 在宅医療には、24時間対応を含む総合的な診療の費用として、「総合管理料」という項目がある。いわば1カ月分の基本料である。それが有料老人ホームなどの施設に入っている高齢者の場合、これまでの4200点(4万2000円)から3000点(3万円)に下がっているのだ。

 同様に、特定施設に入所している患者への訪問診療も、1回830点(8300円)から一挙に200点(2000円)に下がっている。こんなバカな値下げ幅があるだろうか。これまでと同じように往診しても、4分の1以下の診療報酬になるのだ。

 政府は社会的入院による医療費削減のため、施設入所者を含む在宅医療の導入を進めてきた。そのため在宅医療が優遇されてきたのは事実だ。しかし、今回のような極端な切り下げをすれば、せっかく根づきかけた在宅医療が、立ち消えになりはしないか。

 今回の切り下げは、施設の入所者が対象で、自宅で在宅医療を受ける患者は除外される。施設の高齢者を多く診ている医師の撤退が危ぶまれる。理由の説明もなく、いきなり診療費を大幅にカットされて、それでも患者を見捨てない立派な医師は、どれだけいるだろうか。

 医師として使命感は失うまいと思いつつも、現場にいる者の無力さを痛感せざるを得ない。(医師・作家)

二つのコラムを読み比べてみると良く分かるのですが、本当に久坂部羊氏は日本の医療を分かっていません。二つのコラムから久坂部羊氏の考え方が浮かび上がります。

  1. 日本の医師は長時間労働は受容せよ。
  2. 日本の医師は診療報酬引き下げには耐えられない。
1.はともかく2.は間違っていないと言えますが、これって純粋に開業医の視点じゃないですか。3/27付のコラムは救命救急センターの勤務医の労働基準法を完全に無視した長時間労働の話題であり、4/20付のコラムは開業医の診療報酬改定に関する話題です。現在の医療を語るにはどちらも同じ比重の話です。どっちが軽くて、どっちが重いと差をつけられような話ではありません。しかし二つを並べて読むと重点の置き方がまったく違う事が誰でも分かります。

勤務医の過重労働については、

  • 医療にそんな建前が通用するわけがないではない
  • 治療を求める患者を前に、医師が労基法をたてにして、病院に権利主張ができるとでもいうのか
  • 研修医の一部が、医師のありようを学ぶ前に、休暇の権利を覚えたりするようになった
  • 医師の勤務が労基法に違反している云々(うんぬん)などは、現場の医師にとっては寝言に等しい
大変勇ましいお言葉が連ねられています。つまり文句を言わずに「黙って働け」と叱咤している内容です。

一方で開業医については、

  • 今回のような極端な切り下げをすれば、せっかく根づきかけた在宅医療が、立ち消えになりはしないか
  • 理由の説明もなく、いきなり診療費を大幅にカットされて、それでも患者を見捨てない立派な医師は、どれだけいるだろうか
  • 医師として使命感は失うまいと思いつつも、現場にいる者の無力さを痛感せざるを得ない
とても同情的なお言葉が連ねられています。つまり今回の診療報酬の切り下げにより、医師は患者を見捨てて立ち去っても仕方がないと論じています。

久坂部羊氏の医師観というのは、勤務医については古いステレオタイプのものです。古いと言っても5年も10年も前ではなく、2年前でも該当するとは言えます。しかしそのたった2年の間に勤務医の意識は劇変しています。卑しくも作家であり、そのうえ医師とまで名乗っているのですから、2年とは言えその間に何が起こったかを調べていないのは怠慢です。ネット普及以前はそういう医師の本音を調べるのは大変な手間がかかりましたが、今なら1ヶ月もあれば完全に把握できます。

医療政策の動向についても余りに無知です。嬉々として指摘している

    せっかく根づきかけた在宅医療
この在宅医療が推進される意味合いをどれだけ調査し考察したか大いに疑問です。厚労省及び国が目指している医療をどれだけ見えているかといえば、ネット医が侮蔑語として用いる「爺医」そのものの発言です。本当に目の前に見えている現象しか見えていない医者であると言うことです。その程度のレベルで安易に医療を論じる浅墓さに苦笑せざるを得なくなります。

ついでに

    改定の内容を見て驚いた。
驚く事は認めます。それだけ減れば誰でも驚くのですが、久坂部羊氏が驚くレベルと久坂部羊氏が勤めているクリニックの院長が驚くレベルは質が違います。久坂部羊氏の驚きは「寝耳に水」の驚きですが、クリニックの院長の驚きはそうではありません。「今回に来たか、結構大きかったな」です。厚労省の梯子外しはそれぐらい日常茶飯事であり、「やられたな」ぐらいの驚きです。今回が初めての暴挙ではなく2年ごとに行なわれる「いつも」の出来事なんです。そんな事も踏まえず目に見えたことだけで右往左往するレベルで金をもらえるとは羨ましい限りです。

医療ブログも増えましたが、久坂部羊氏レベルで論じるブログは完全な辺境ブログであり、辺境過ぎて時に大炎上する代物としてよいと思います。論じているレベルは周回遅れ程度ではなく前時代と言うか大時代的なものです。それでもブログであれば無視されるか大批判されるだけで害は少ないですが、新聞社のコラムとなれば余計な反応が出て医師として大迷惑な存在です。

ま、産経新聞に相応しいレベルといえばそれまでですが、久坂部羊氏も政府の珍重する「有識者」になるでしょうから、そうなれば余計に被害が拡大します。もっとも計算づくで政府御用達の有識者の座を「狙っている」なら大した玉です。

これは蛇足ですが【断 ○○】は複数のライターが関っているらしく、潮匡人氏担当の回には、

 朝日新聞投書欄のごとき駄文が新年度早々、当欄に掲載された。「戦争放棄は世界に誇れる条文」(4月6日付)。憲法9条を掲げ、自衛隊を「オトナの嘘(うそ)」と誹謗(ひぼう)した。「こんなウソがまかり通っていては」と非難する相手は自衛隊ではなく憲法9条であろう。

言うまでもなく4/6付は久坂部羊氏担当です。かなり手厳しい批評ですが、潮匡人氏がどんな人物か「まったく」知りませんので、この評価が的を射ているかどうかは控えておきます。ただ医師と名乗って、まるで医師を代表する意見のように振舞うのは、余計な誤解を招くので自粛して頂きたいと望むだけです。