ネタみたいな奈良関連の記事

11/14付Medifaxより、

最高裁判決、地域医療崩壊の引き金か  未払い残業費訴訟

 「私が恐れているのは最高裁判決。(判決は)早くには出ないでほしいと思っている」―。武末文男・前奈良県医療政策部長(現文部科学省放射線安全企画官)は10日、最高裁への上告から2年が経過した奈良県奈良病院の「未払い残業費請求訴訟」について、現在の心境を明かした。県立奈良病院産婦人科勤務医2人が県を相手に提起した訴訟の上告審。医師の宿日直を「時間外労働」と認める判決が示されれば、東日本大震災の被災地をはじめ、医師不足地域の医療機関では運営が立ち行かなくなる恐れがあると武末氏は指摘する。同日、東京大病院で開かれた公益財団法人生存科学研究所(創設者=故武見太郎氏)の医療政策研究会ワークショップで話した。

 奈良地裁は2009年4月の第一審判決で、県立奈良病院労働基準法違反を認め、宿日直を時間外労働と見なして割増賃金を支払うよう県に命じた。続く大阪高裁も一審判決を支持して控訴を棄却したため、県は10年11月に最高裁に上告した。上告から2年が経過したものの、最高裁によると判決を含む期日は指定されていない。

 武末氏は最高裁判決が全国の地域医療へもたらす影響を危惧し、「(県が敗訴した場合)間違いなく地域医療崩壊を招くことになる」と述べた。応召義務を果たせなくなる病院が出ると指摘し、特に震災被災地の病院では対応できなくなるとの強い懸念を示した。

●知事は「白黒つける覚悟」

 なぜ、県は原告に未払い金を支払い、和解決着に持ちこまなかったのか。武末氏によると、「医療に関わる人の問題であり、金の問題ではない」との信念から、荒井正吾知事は医療機関の労働問題に決着をつける覚悟で訴訟に対峙しているのだという。ただ、県が敗訴し判決が確定すれば、従来あいまいに扱われてきた医師の勤務時間が法令に基づいて制限される可能性がある。武末氏は「恐らく多くの公立病院では、毎月20日ごろになると医師の労働時間が尽き、夜間の外来診療はしないという状況になるだろう」と予測した。

 この日のワークショップでは、広島国際大医療経営学部の江原朗教授が自治体病院労基法違反の実態について報告。愛育病院(東京都)新生児科の加部一彦部長は同院が09年1月に受けた労基署の是正勧告への対応を振り返った。加部氏は、勧告に従って締結した「36協定」について、医師の組合員がいない労働組合との36協定締結はあまりに形式的ではないかと指摘した。

ある評価によるとMedifaxは「医療版東スポ」とも言われるそうです。ちなみにRisfaxは「製薬業界の東スポ」だそうです。そういう目で見ると「良く出来た記事」の評価が生れきそうな気がします。もっともRisfaxを非常に評価されている某有名識者もおられますから、人はそれぞれなのかもしれません。


な〜んか、手をつけるのももったいないような記事ですが、手をつけないと引用条件の問題が出ますから頑張ってみます。 記事にある「未払い残業費請求訴訟」は当ブログでは奈良産科医時間外訴訟と名付けて何回か扱っています。訴訟の経過は1審、2審とも奈良県側がほぼ完敗しており、一部の観測では1審時点で和解の方が傷は浅いの評もありましたが、奈良県側は最高裁まで上告して頑張っておられます。Medifax記事では

    なぜ、県は原告に未払い金を支払い、和解決着に持ちこまなかったのか。武末氏によると、「医療に関わる人の問題であり、金の問題ではない」との信念から、荒井正吾知事は医療機関の労働問題に決着をつける覚悟で訴訟に対峙しているのだという。
こうなっていますが、別の評価としてあえて最高裁判例を目指してくれる非常に有り難い行為だの声もあったぐらいです。それぐらい1審、2審とも判決結果は明瞭であったです。記事は現在の奈良県側の言い分を武末文男・前奈良県医療政策部長(現文部科学省放射線安全企画官)が代弁したものと推察しますが、引き合いに出されているのは東日本大震災です。
  • 医師の宿日直を「時間外労働」と認める判決が示されれば、東日本大震災の被災地をはじめ、医師不足地域の医療機関では運営が立ち行かなくなる恐れがあると武末氏は指摘する。
  • 武末氏は最高裁判決が全国の地域医療へもたらす影響を危惧し、「(県が敗訴した場合)間違いなく地域医療崩壊を招くことになる」と述べた。応召義務を果たせなくなる病院が出ると指摘し、特に震災被災地の病院では対応できなくなるとの強い懸念を示した。

なるほど震災の被災地で杓子定規に労基法を守っていたら医療が成立しないので、医師に労基法を適用するのはトンデモであると主張されています。反論するのも面倒なのですが、震災時は非常事態です。でもって奈良は平時です。同じ次元で論じても良いかの素直な疑問は当然出てきます。震災の影響の無い奈良で震災時並の労働環境を当たり前のように求めるのは無理がある気がします。

奈良が求めている医師の労働条件ですが記事には、

    武末氏は「恐らく多くの公立病院では、毎月20日ごろになると医師の労働時間が尽き、夜間の外来診療はしないという状況になるだろう」と予測した。
えらい脅しですが、奈良でも当然そうなるとの主張と私は受け取ります。ほいじゃ奈良の県立病院はどれほどの時間外労働を36協定として結んでいるかです。2010.8.27付タブ紙から、

 協定では、医師の年間の時間外労働は、奈良が1440時間▽三室が1440時間▽五條が1300時間を上限とし、「特別な事情」があれば協議のうえさらに360〜460時間延長できる。

 労基法は、時間外労働の上限を年間360時間としているが、労使双方が合意すればこれを超えて上限を決められる。3病院は、救急医らの勤務実態に基づいて上限を決めたという。しかし、「過労死ライン」とされる月の超過勤務80時間を超えており、労基署に届け出た際に縮減するよう指導を受けた。県立病院の担当者は「医師の確保など、縮減できるよう努力したい」と話す。

36協定による時間外勤務は一般的には労働省告示第154号の第3条に基づき、年間では360時間を上限とします。奈良の県立病院ではそれを鼻息で吹き飛ばす代物で、1300〜1440時間の上限のほかに「特別な事情」で通常の年間上限を超える「360〜460時間」の延長も可能としています。それでも

    毎月20日ごろになると医師の労働時間が尽き、夜間の外来診療はしないという状況になるだろう
いやぁ、どれほどの時間外労働を行えば足りるのか笑うほどです。そのうえ時間外手当の支給も渋り倒しているので訴訟が起されているわけです。これは法務業の末席様から頂いた事があるブラック企業の分類みたいなものですが、

法務業の末席様の分類
分類 三六協定 割増手当 法令違反の可能性
優良事業者 限度時間内で締結 全額支給 なし
まぁ優良事業者 限度時間を超えて締結 全額支給 安全配慮義務
問題事業者 未締結 全額支給 労基法32条、35条
悪逆非道事業者 未締結 理屈を捏ねて一部支給ないし不払い 労基法32条、35条、37条


もともとは「悪徳非道業者」に近かったわけです。そういう奈良県の主張ですから楽しいところです。もう一つ、
    ただ、県が敗訴し判決が確定すれば、従来あいまいに扱われてきた医師の勤務時間が法令に基づいて制限される可能性がある。
これも面白いところです。医師の勤務時間は法令に基づいて規制してはならないの主張である事は明白です。「従来あいまいに扱われてきた」が正しい扱いであり、法令に基づくなんて噴飯物だの主張と読めます。つまり奈良県が目指すのは、
    従来通り医師の勤務時間は「ぞんざい」に扱いたい
こりゃ、そのうち奈良県は医師の労働時間無法地帯特区でも申請しそうな気がします。認められるかどうかは知りませんけど


これも随分前に法務業の末席様から聞いたと思うのですが、労働訴訟は最高裁どころか一審でも判決まで争われる事は案外少ないとされます。労働訴訟は裁判になれば法令に厳格に解釈され使用者側に一般的に厳しいとされるからです。下手に判決が出るとその後の先例になり、労働環境に制限が増えるぐらいのところでしょうか。和解により訴訟の原告本人には少々美味しい目をさせても、それ以外の適用の拡大を食い止めるみたいな感じです。しかし今回の奈良県

    知事は「白黒つける覚悟」
その意気や良しです。知事なり奈良県行政の意図とは別に歴史的な判例を作った当事者として名を残されるかもしれません。そうなればやっと奈良県も医療問題でプラスの貢献を行うことになりそうな気がします。そうそうこれはソースは明かせませんが、この時の会に出席された方のお話では、主催者は会の内容をくれぐれも直に記事するなと報道陣に念押しされたそうです。しかし「医療版東スポ」相手には虚しい要請になったようで、その辺もネタ的なところと感じています。

もっともその程度の要請を袖にするのはMedifaxだけではなく「大手」とされるマスコミでも日常茶飯事なので、ネタ的ですが珍しくもないとさせて頂きます。