初春の時限爆弾

厚生労働省:第14回「医療計画に関する見直し等に関する研究会資料に「救急医療提供体制の再構築に伴う救急告示制度の見直し」と題するものがあります。見直しの背景として問題点として挙げられているものに、

  1. 小児患者を含む救急患者の増加により地域において質の高い効率的な救急医療提供体制の再構築が求められていること
  2. 医療計画の見直しにより今後は救急医療に関しても、各医療機関が医療機能を明示して機能分化を図ることにより、地域の実情に応じた望ましい医療連携体制の構築が求められていること
  3. 救急医療に携わる医師の長時間労働の改善が求められていること

ここだけを読むと「フムフム」と思ってしまうのですが、見直し案の概略が書かれています。救急の分担は

名称がこんな感じに変わる計画のようです。名前が変わるに従って医療機関の性格付けというか具体的な内容が書かれています。




















* 救命救急センター 入院機能を有する救急医療機関 初期救急医療担当医療機関
人員
  • 一定期間(三年程度)以上の救急医療の臨床経験を有し、専門的な救急医療に精通している医師が常時診療に従事していること。
  • 院内の循環器、脳神経等を専門とする医師との連携があること。
  • 夜間・休日の診療について、交代して勤務ができる体制を導入していること。
一定期間(三年程度)以上の救急医療の臨床経験を有し、救急医療に精通している医師もしくはその指導下にある医師が病院内で常時診療に従事していること。 救急医療を担当する医師が夜間・休日を含めて診療に従事していること。
設備
  • 高度な救命救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
  • 重篤(重症で緊急度の高い)救急患者のために優先的に入院できる病床を有すること。
  • 救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
  • 傷病者のために優先的に入院できる病床を有すること。
救急医療を行うために必要な施設及び設備を有すること。
連携
  • 初期救急医療担当医療機関や入院機能を有する救急医療機関、消防機関との連携体制を構築し、医療計画上明示されていること。
  • メディカルコントロール協議会において中心的な役割を担っていること。
救命救急センターや入院機能を有する救急医療機関、消防機関との連携体制を構築し、医療計画上明示されていること。
研修
  • 臨床研修医を年間4人以上受け入れていること。
  • 救急隊員(救急救命士を含む)の臨床での研修を年間120人日以上受け入れていること。
救急隊員(救急救命士を含む)の臨床での研修を年間8人日以上受け入れることが可能であること。 *
搬送 重篤救急患者の搬送依頼を全て受諾すること。 入院診療を要する救急患者の搬送依頼を全て受諾すること。 *
治療 重篤救急患者を年間365名以上受け入れる能力とそれに見合う実績を有すること。 入院診療を要する救急患者を年間365名以上受け入れる能力とそれに見合う実績を有すること。

(地域における複数の医療機関が輪番制で実施している場合には、当該医療機関全体でそれに見合う実績を有すること。)
夜間・休日の救急患者を年間365人以上受け入れる能力とそれに見合う実績を有すること。


この14回会議は2005年12月9日に行なわれ、Webではこれが最終更新になっています。2年前の話ですが、相当な事が検討されているのがわかります。細かい点はいろいろありますが、二次救急施設では、
    入院診療を要する救急患者の搬送依頼を全て受諾すること
三次救急施設では、
    重篤救急患者の搬送依頼を全て受諾すること
どこかでと言うよりズバリ福島宣言の法制化ですが、これがその後どうなったかが問題です。考えられる事は2つで、ここまで会議が進んだが棚上げになって休眠状態なのか、会議で実質部分が決定したので実現に向かって水面下で調整中なのかです。

医療計画の検討は救急告示病院の法改正だけを議論していたわけではなく、もっと幅広く論議されていますから、全部がボツになったとは思いにくいところです。そんな事をすれば医療計画の改正自体が白紙になってしまいます。とはいえ2年間も空白があるのもまた謎です。その辺の事情を推測する手がかりとして今後のスケジュールについてなる資料があります。そこに平成20年度の新たな医療計画制度の施行に向けた国・都道府県・医療関係者のスケジュール案(作業工程表)がありますので引用します。


時期 都道府県 医療関係者
平成17年12月 モデル医療計画の公表
新しい医療計画作成ガイドラインの提示
平成18年4月以降 保健医療提供体制整備交付金の創設 交付金に基づく事業の実施
平成18年初夏目途 医療機能調査のための指標の提示
全国的な数値目標の提示
全国規模の医療機能調査の実施
医療機能調査の開始(平成18年内)
事業ごとの医療連携体制の構築に向けて圏域ごとに医療関係者等による協議開始(※)
医療機能調査への協力
事業ごとの医療連携体制の構築に向けて、圏域ごとに議論
法改正後 施行に向けた政省令改正
平成18年8月〜9月 法律改正後直ちに医療計画など関連の計画について都道府県の計画作成担当者の養成研修を開始(保健医療科学院) 保健医療科学院の養成研修に参加
平成19年初春目途 全国規模の医療機能調査結果とりまとめ 医療機能調査結果とりまとめ
過剰な医療機能や不足している医療機能の把握(医療機能の転換や不足している医療機能の充実などへの支援)
過剰な医療機能や不足している医療機能の把握(医療機能の転換や不足している医療機能の充実などへの支援)
平成19年初夏目途 全国の医療機能調査結果の公表 事業ごとの医療連携体制についての協議終了(圏域ごと)
平成19年初秋目途 医療計画に定める数値目標の設定及び達成方策の検討
平成20年初春目途 医療計画の見直し手続き
 ・ 都道府県医療審議会の諮問・答申
平成20年4月 新たな医療計画制度の実施


この作業工程表が実際にどこまで進んだかは不明です。それでもおそらくですが、平成20年診療報酬改定に合わせて新たな医療計画が実施される事はまず間違い無いかと考えます。しかしこの作業工程表を見る限り平成18年の8月までに「施行に向けた政省令改正」とありますが、これが行なわれた形跡がありません。もしあればその年の10月に起こった奈良事件のときに簡単に立件できますし、その後の「たらい回し」騒ぎでもゾロゾロと病院が立件されたでしょう。

では安心かといえばそうとは言えないのが厚労行政です。救急医療については厚労省サイドだけから見れば法改正について追い風が吹いています。マスコミが頑張ってくれたお蔭で「たらい回し許すまじ」「医師を死ぬほど働かせろ」の漠然とした世論構成が出来つつあります。今の時期なら

    搬送依頼を全て受諾すること
この提案は医師以外のすべての人間に諸手を挙げて歓迎されます。当然ですがマスコミも尻馬にのって大称賛するのは目に見えるようです。さらに現実に福島の先例が実践されています。これだけ条件がそろえば再び発動に向かって動き出しても何の不思議もありません。

政省令の改正は政治情勢が微妙でどうなるかは分かりませんが、厚労省にはもっとお手軽な方策があります。通達という奴です。これならいつでも出せますし、実質法改正と同様の重みを持ちます。通達を医療計画に上乗せして実行する可能性は十分あると考えます。その危険性を鼻で笑えるネット医師は殆んどいないと思います。

今年は平成20年です。作業工程表では初春に諮問案は出来上がるようです。どんなものが出てくるか、2年前の時限爆弾が炸裂すれば、いきなりの山場が来るかもしれません。