時限爆弾は炸裂していた

昨日のお話の簡単なまとめですが、平成17年12月に厚生労働省:第14回「医療計画に関する見直し等に関する研究会資料で救急告示病院の法改正が検討され、

  • 二次救急病院は「入院診療を要する救急患者の搬送依頼を全て受諾すること」
  • 三次救急病院は「重篤救急患者の搬送依頼を全て受諾すること」
こう改正する事が方針として示されております。作業工程表では平成18年夏ごろに法改正する予定だったようですが、それはなされていないのでとりあえず一安心していましたが、法改正はされずとも「通達」でもって地域医療計画に盛り込まれるんじゃないだろうかで昨日の話は終わりました。

通達なんて末端の町医者レベルですべて把握できないのですが、rijin様から衝撃のコメントを頂きました。

「疾病又は事業ごとの医療体制について」(平成19年7月20日医政指発第0720001号)(PDF,721KB)
http://wwwhourei.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/191113-j00.pdf

 別紙62頁からをご一読下さい。

いろいろと興味深い記述がテンコモリあるのですが、そこは我慢して爆弾部分に入ります。

救命救急医療機関(第三次救急医療)の機能【救命医療】

目標

  • 24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること
  • 傷病者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること

ここは「目標」ですが、「24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること」は確かに従来からそうなんですが、ココロとして「応需可能な時は」が不文律としてあります。ところが後の通達を読むと「非常に限られた応需不能の時」に変質しているように感じます。微妙な違いですが、従来は医師の心意気として「可能な限り」であったのが、この通達では「限定された条件の時のみ応需不能を許す」に変わっていると考えます。

医療機関に求められる事項

緊急性・専門性の高い脳卒中、急性心筋梗塞等や、重症外傷等の複数の診療科領域にわたる疾病等、幅広い疾患に対応して、高度な専門的医療を総合的に実施する。
その他の医療機関では対応できない重篤患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。
また救急救命士等へのメディカルコントロールや、救急医療従事者への教育を行う拠点となる。
なお、医療計画において救命救急医療機関として位置付けられたものを救命救急センターとする。

ここで分かる事としては三次救急病院が地域の救急拠点として、最終受け入れ先になるだけでなく、教育の拠点や、メディカルコントロールの中枢として働く事を求めているのがわかります。

続いて具体的な項目です。

  • 脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、原則として24時間365日必ず受け入れることが可能であること

  • 集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと

  • 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること(救急科専門医等)

  • メディカルコントロール協議会等との連携の上、実施可能な医療機能等を消防機関等に周知していること

  • 必要に応じ、ドクターヘリ、ドクターカーを用いた救命救急医療を提供すること

  • 救命救急に係る病床の確保のため、一般病棟の病床を含め、医療機関全体としてベッド調整を行う等の院内の連携がとられていること

  • 急性期のリハビリテーションを実施すること

  • 急性期を経た後も、いわゆる植物状態等の重度の後遺症がある患者、人工呼吸器による管理を必要とする患者等の、特別な管理が必要なため退院が困難な患者を、受け入れることができる医療機関等と連携していること

  • 地域のメディカルコントロール体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと

  • DMAT派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと

  • 救急医療情報センターを通じて、診療機能を住民・救急搬送機関等に周知していること

  • 医師、看護師等の医療従事者に対し、必要な研修を行う体制を有し、研修等を通じ、地域の救命救急医療の充実強化に協力していること

  • 救急救命士気管挿管・薬剤投与等の病院実習や、就業前研修、再教育などに協力していること

  • 「救急病院等を定める省令」によって定められる救急病院であること

通達の恐ろしさは今さら言うまでもなく、これらの事項は「そうする事」として義務づけられていると見なして良いかと思います。法制化からやや後退し「通達」になり「原則として」の文言はつきましたが、

  • 脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、原則として24時間365日必ず受け入れることが可能であること


  • 集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと

脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者を「必ず受け入れる」から、集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)が「常時」稼動しているのは当然でしょうが、「必ず受け入れる」からには「常時」空床が確保されていなければなりません。これはかなり厳しい条件かと考えます。三次医療機関は救急だけをやっているわけではなく、一般入院の重症患者の治療や手術も行ないます。一般入院の患者の治療にもICU、CCU、SCUは必要です。定期の手術を行ないながら、なおかつ救急患者のために「常時」空床を確保するのは相当な難題と感じます。

また「ベッドが満床」の言い訳を許さないためか、

  • 救命救急に係る病床の確保のため、一般病棟の病床を含め、医療機関全体としてベッド調整を行う等の院内の連携がとられていること


  • 急性期を経た後も、いわゆる植物状態等の重度の後遺症がある患者、人工呼吸器による管理を必要とする患者等の、特別な管理が必要なため退院が困難な患者を、受け入れることができる医療機関等と連携していること

院内の連携はまあ良いとして、他の医療機関との連携は三次救急病院の責任で行なわなければならないのが実に素晴らしいところです。「特別な管理が必要なため退院が困難な患者」の受け入れはどこだって一番難渋するところですし、急性期病床を持つところの最大の課題なんです。そういう受け入れ医療機関を自前で確保するのが三次救急病院の責務とされています。いくら通達で「そうせよ」と書かれても、そんな医療機関を右から左に確保できたら誰も苦労はしません。

この通達の恐ろしさは「ベッド確保」の責務を具体的に記した事で、ベッド確保に対する責務を果たさずに空床が確保できなければ通達違反とされる事です。重症患者が院内に溜まりベッドが確保できないとの言い訳を、ベッドを確保する責務を果たしていないから病院が悪いと転じる可能性を秘めています。「特別な管理が必要なため退院が困難な患者」であっても院内なり他の医療機関にドンドン移送して、救急用のベッドを確保する責務が明記されているからです。

他にも

  • 地域のメディカルコントロール体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと


  • 必要に応じ、ドクターヘリ、ドクターカーを用いた救命救急医療を提供すること


  • DMAT派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと


  • 医師、看護師等の医療従事者に対し、必要な研修を行う体制を有し、研修等を通じ、地域の救命救急医療の充実強化に協力していること

  • 救急救命士気管挿管・薬剤投与等の病院実習や、就業前研修、再教育などに協力していること

こういう事柄を三次救急機関が担う事を否定するわけではありませんが、読みながら「大変だな」と感じてしまいます。「大変だな」と感じる理由は、従来は「そうした方が望ましい」が「そうするのが責務」に転じていますから、「じゃ、やらない」にならないかです。

三次救急だけではなく一次や二次救急にも当てはまる事なんですが、救急を行なっている医療機関は正直なところ伊達や酔狂で従事していると考えています。経済諮問会議や規制改革会議やさらには財務省が口を酸っぱくして主張する「経営の効率化」とは対極の業務が救急です。「やらない」方が経営効率としては遥かに好都合です。責務で縛れば、認可された救急医療機関であることをやめ、余裕があるときだけ受け入れる「他の病院」になる選択枝が検討されます。認可から外れると補助金を失うデメリットが生じますが、補助金を失うデメリットを上回るメリットが現在の医療経営にはあります。

それとここまで通達で「責務」を増やす代わりの医療機関のメリットに何があるのでしょうか。そんな事は読む限りどこにも書いてありません。4月の地域医療計画が施行された時には、まだこの通達を守ろうと奔走するところがほとんどすべてでしょうが、「必ず受け入れる」でバッシングを受けたならば、真剣に三次救急機関の指定を受けているメリット、デメリットを考え直すところが出てきても不思議ありません。

とにかく時限爆弾は既に炸裂したようです。