こんな記事も書けるんだ

社説の酷さにはウンザリさせられた朝日ですが、こんな記事も掲載されています。

2/4付Asahi.comより、

救命センター14%窮地、医師が不足 本社全国調査
2008年02月04日03時01分

 重篤な救急患者を受け入れる全国205カ所の救命救急センターのうち、少なくとも全体の14%にあたる28施設で、一部診療科の患者を受け入れられなくなったり、中核を担う救急科の専門医が不在になったりしていることが、朝日新聞の調査でわかった。深刻な医師不足を背景に、退職後の補充ができない例が目立つ。地域医療の中心となっている「2次救急病院」の減少傾向が加速する中、「最後の砦(とりで)」とされる救命センターさえも機能不全に陥りつつある現状が浮かび上がった。

 「3次救急病院」に位置づけられている救命救急センターは、大半が大規模な総合病院や大学病院に併設されている。厚生労働省が定める運営方針では、原則として重症者や複数の診療科にまたがる患者をすべて受け入れ、必要に応じて専門医が確保できる態勢が求められている。調査は、全センターを対象に医療態勢の実情を尋ね、187施設(91%)から回答を得た。

 北海道室蘭市の日鋼記念病院が医師の相次ぐ退職でセンター休止に追い込まれているほか、16施設で一部の診療科や疾患について受け入れ不能となっていた。慢性的な医師不足産婦人科が6カ所と最も多く、小児科と心臓血管外科、泌尿器科も2カ所ずつあった。

 中には、「麻酔科医が辞め、一般内科・外科の受け入れが不可」(兵庫県立姫路循環器病センター)、「常勤医が退職した整形外科が休診中で、交通事故の負傷者が受け入れられない」(愛媛県新居浜病院)など、深刻なケースもある。関西医科大付属滝井病院(大阪府守口市)では、心臓血管外科医3人がすべて他施設に移り、大動脈瘤(りゅう)破裂の処置が困難になっている。

 一方で、緊急事態に対処し、危機的な症状を食い止める救急科専門医がゼロになったセンターも13カ所あった。多くが配置を望んでいるが、絶対数の不足から早期の確保が困難となっている。

 都道府県別でみると、一部患者の受け入れができなかったり、救急科専門医が不在になったりしているセンターは、北海道で3施設、茨城、新潟、愛知、広島で2施設。滋賀、大阪、兵庫、奈良、和歌山、島根、愛媛などが1施設だった。

まずちゃんと調査しているのが取材の基本を踏んでいます。全部で205施設の救命救急センターに対し、

調査は、全センターを対象に医療態勢の実情を尋ね、187施設(91%)から回答を得た。

どういう取材方法であったかはわかりませんが、回答率91%になる調査は評価できるのではないでしょうか。

救命救急センターはいわゆる三次救急であり、ここの機能不全になれば、

地域医療の中心となっている「2次救急病院」の減少傾向が加速する中、「最後の砦(とりで)」とされる救命センターさえも機能不全に陥りつつある現状が浮かび上がった。

この記事の書く通りであり、救急医療の危機が深刻と言うより破滅に近い状態であることを示します。朝日の調査で機能不全がある事がわかったのは、

少なくとも全体の14%にあたる28施設

14%の母数は全体の205施設と考えられ、7施設に1つは機能不全になりつつあると警鐘を鳴らしています。調査に返答しなかった残り13施設はどうなのかも気になるところです。

機能不全の代表例もきちんと挙げられており、

  • 日鋼記念病院が医師の相次ぐ退職でセンター休止
  • 麻酔科医が辞め、一般内科・外科の受け入れが不可」(兵庫県立姫路循環器病センター)
  • 「常勤医が退職した整形外科が休診中で、交通事故の負傷者が受け入れられない」(愛媛県新居浜病院)
  • 関西医科大付属滝井病院(大阪府守口市)では、心臓血管外科医3人がすべて他施設に移り、大動脈瘤(りゅう)破裂の処置が困難になっている
どの例を読んでも深刻さが伝わります。

機能不全のおおまかな分析も行なっており、

  • 16施設で一部の診療科や疾患について受け入れ不能となっていた
  • 緊急事態に対処し、危機的な症状を食い止める救急科専門医がゼロになったセンターも13カ所あった
救命救急センターの表の看板である救命医の不在が13施設、診療科のスペシャリストが欠けているのが16施設は深刻です。両方を足せば29施設になるので、重複しているところもあると考えられます。

28施設が機能不全を抱えた結果、

一部患者の受け入れができなかったり、救急科専門医が不在になったりしているセンターは、北海道で3施設、茨城、新潟、愛知、広島で2施設。滋賀、大阪、兵庫、奈良、和歌山、島根、愛媛などが1施設だった。

ここに挙げられている施設は18ヶ所なんですが、ちょっと待ってください。もう一度データを整理してみます。

  • 機能不全が生じている施設が28ヶ所
  • 診療科による受入制限が16ヶ所
  • 救命医がゼロが13ヶ所
  • 一部患者の受け入れができなかったり、救急科専門医が不在になったりしているセンターが18ヶ所
18施設のうち16施設は診療科による受入不能です。そうなると残り2施設は救急医不在病院になります。なおかつ救命医がゼロの病院はまだ11施設あることになります。この11施設は重複する事になり、
    救急医がゼロで、なおかつ診療科による受入不能があるのが11施設
もうひとつ、この18施設以外の10施設は医師不足がありながらもなんとか踏ん張っているところと考えれば良いようです。救急医がゼロでないところと言っても、1人でもいればゼロでない事になりますからね。

28施設以外の救命救急センターが余裕綽々とは思えませんが、記事としては調査した事実を淡々と書き並べ、妙な感情を垂れ流していない点は評価できる記事だと感じます。社説の後ですから、別の新聞社の記事かと思うぐらいです。こういう方にこそ論説委員をしてもらいたいものです。


既述ですが補足してみたいと思います。今春に改定される地域医療計画で三次救急である救命救急センターの「目標」とされる、

  • 24時間365日、救急搬送の受け入れに応じること
  • 傷病者の状態に応じた適切な救急医療を提供すること

これの達成のためには救命救急センターの機能が十全である事が前提です。さらに「求められ事項」として書かれている、

緊急性・専門性の高い脳卒中、急性心筋梗塞等や、重症外傷等の複数の診療科領域にわたる疾病等、幅広い疾患に対応して、高度な専門的医療を総合的に実施する。

その他の医療機関では対応できない重篤患者への医療を担当し、地域の救急患者を最終的に受け入れる役割を果たす。

また救急救命士等へのメディカルコントロールや、救急医療従事者への教育を行う拠点となる。

なお、医療計画において救命救急医療機関として位置付けられたものを救命救急センターとする。

これも機能不全が起こっている救命救急センターでは無理ないし難しくなります。さらに求められる事項としての具体例として挙げられている、

  • 脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、原則として24時間365日必ず受け入れることが可能であること


  • 集中治療室(ICU)、心臓病専用病室(CCU)、脳卒中専用病室(SCU)等を備え、常時、重篤な患者に対し高度な治療が可能なこと


  • 救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること(救急科専門医等)


  • メディカルコントロール協議会等との連携の上、実施可能な医療機能等を消防機関等に周知していること


  • 必要に応じ、ドクターヘリ、ドクターカーを用いた救命救急医療を提供すること


  • 救命救急に係る病床の確保のため、一般病棟の病床を含め、医療機関全体としてベッド調整を行う等の院内の連携がとられていること


  • 急性期のリハビリテーションを実施すること


  • 急性期を経た後も、いわゆる植物状態等の重度の後遺症がある患者、人工呼吸器による管理を必要とする患者等の、特別な管理が必要なため退院が困難な患者を、受け入れることができる医療機関等と連携していること


  • 地域のメディカルコントロール体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと


  • DMAT派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと


  • 救急医療情報センターを通じて、診療機能を住民・救急搬送機関等に周知していること


  • 医師、看護師等の医療従事者に対し、必要な研修を行う体制を有し、研修等を通じ、地域の救命救急医療の充実強化に協力していること


  • 救急救命士気管挿管・薬剤投与等の病院実習や、就業前研修、再教育などに協力していること


  • 「救急病院等を定める省令」によって定められる救急病院であること

どれもこれも人手を要する事項が多いのですが、たとえば、

脳卒中、急性心筋梗塞、重症外傷等の患者や、複数の診療科にわたる重篤な救急患者を、原則として24時間365日必ず受け入れることが可能であること

    これは受入不能の診療科にもよりますが、16施設でこの条件を満たしていません。

救急医療について相当の知識及び経験を有する医師が常時診療に従事していること(救急科専門医等)

    これだけでも13施設で脱落しています。また「常時診療」という基準になればさらにその数は増えると考えます。

DMAT派遣機能を持つ等により、災害に備えて積極的な役割を果たすこと

    日常診療にも機能不全を起している28施設がDMATとして派遣すれば、留守中の病院はさらに機能不全が悪化することになります。

地域のメディカルコントロール体制の充実に当たり積極的な役割を果たすこと

    機能不全を起している施設としては、「地域のメディカルコントロール体制の充実」よりも自施設の充実が優先され、とても「積極的な役割」と言える状態では無い様な気がします。

これは朝日の責任にする訳ではありませんが、朝日の調査で浮かび上がっている救命救急センターの危機はまだ氷山の一角であると考えられます。実態はさらに深刻であると考えるのが妥当でしょう。字に書いただけの地域医療計画が文字通り、机上の空案として計画倒れになる事は十分予想されます。

それにしても「まさか」と思うのですが、この記事にも巧妙な情報操作が仕組まれていたら怖いのですが・・・