情報公開日本一を目指されているそうです

さいたま市のホームページには、

こういうバナーがあり、これをクリックすると、

情報公開日本一への取組み
 

 さいたま市では、市民と市が行政情報を共有することにより、市民の市政への参加と市民と行政との協働を促進するため、「しあわせ倍増プラン2009」(平成21年11月策定)において、「情報公開日本一」の実現を掲げ、市が目指すこと、重点施策、経営情報などが市民に正確に伝わり理解されるよう、市民の目線に立った総合的な情報公開の推進に積極的に取り組んできました。

 今後、一層の情報公開を推進するために、「行財政改革推進プラン2010」(平成22年12月策定)では、「見える改革」を基本目標として、市政情報の見える化に取り組んでいきます。

でもって埼玉の「たらい回し」事件の検証の結果について、tadano-ry様が報道資料を発掘して頂きました。この報道資料なんですが、

新聞社 内容
7/15付MSN産経

市消防局は15日、検証結果を公表した。
7/16付東京新聞 市消防局は十五日、検証結果を発表
7/16付朝日新聞

市消防局は15日、11カ所の病院に受け入れを拒否され、救急車の到着から搬送まで2時間以上かかったことが死亡の可能性を高めたとする検証結果を発表した。
7/16付タブ

同市消防局は15日「収容先を迅速に決める体制が不十分」などとする検証結果を公表した


こういう風に報じられているので、てっきり、さいたま市消防局の消防局のお知らせに出るか、さいたま市トピックスに出るかと考えていましたが、さにあらず、
    トップページ > 市について > さいたま市の広報記者への情報提供 > レクチャー資料 > レクチャー資料(23年度)
こういう深いところに存在していました。それでもって内容なんですが、

医療機関収容に時間を要した救急事案の検証をしました

〜埼玉県中央地域メディカルコントロール協議会の検証結果及び本市の対応〜

1 埼玉県中央地域メディカルコントロール協議会の検証結果

  1. 地域の医療機関で受け入れる体制、あるいは迅速に収容先を決める体制の構築が不十分であった。
  2. 傷病者本人が観察・搬送を拒否されていたので、充分な身体状況の把握ができず、医療機関への情報提供にも影響が生じるという活動の障害が起こり、その事がさらに時間を要し、搬送が遅れたことの一因にもなっている。
  3. 医療機関搬送に時間を要したことにより、死亡する可能性が高まったと考えられる。
2 本市における今後の対応
  1. 迅速な救急搬送体制が確保できるよう、救急隊、指令課、医師との連携強化に努め、より一層のメディカルコントロール体制の充実強化を図る。
  2. 市内24ヶ所の救急告示医療機関に対して、迅速な収容体制の協力を依頼する。
  3. 市内及び県の関係機関と調整し、救急医療体制の円滑な運営を図る。

全部でこれだけです。では公開された情報がこれだけかと言うとそうではありません。この公開資料にない搬送状況や死亡した女性の状況が報道されています。幾つかピックアップしてみますが、









新聞社 内容
7/15付MSN産経

  • 市によると、女性は計11病院に搬送を断られたため、事故現場を出発したのは救急隊の到着から2時間12分後。女性は病院に到着してから約13時間後に、骨盤骨折による出血性ショックで死亡した。
  • 受け入れ先の医療機関の専門科目が細分化されており、臨機応変な受け入れができなかった
  • 指令センターなどと連携せず現場の救急隊だけで受け入れ先を選んだ
7/16付東京新聞
  • さいたま市は今後、救急搬送時に手間取った際の手順を明文化。市内二十四カ所の二次救急医療機関に対しては、専門外でも一時的に収容してもらうよう依頼する方針。
  • 女性は手足と頭にけがをし、受け入れる医療機関側も整形外科か脳外科か、二次救急か三次救急かどちらで診察すべきか迷ったという。女性は最終的に、三次救急医療機関のさいたま赤十字病院さいたま市中央区)に収容されたが死亡した。
7/16付朝日新聞

  • 救急隊が現場に着いたのは6月29日午後10時25分ごろ。星野さん自身は搬送を拒否したが、左頭部がはれ、腰の痛みを訴えたという。隊員は電話で病院を探したが「当直医は耳鼻科」などと断られ続けた。星野さんは最終的に、一度拒否された市内の救急指定の総合病院に運ばれたが、30日午後2時ごろ、外傷性くも膜下出血などで死亡した。
7/16付タブ

  • 報告書によると、救急隊は、女性に意識のあったものの頭と腰を負傷していたことから入院が必要な「中等症」と判断
  • 女性は病院到着直後、意識不明に陥り出血性ショックで死亡した


どこにもそんな事は公開された資料には書かれていません。では公開できない情報かと言えば、ほぼ間違い無く記者会見で担当者はペラペラと話しています。つうか、担当者が話さないと記者も記事にしようがありません(いくらなんでも高度の創作はしないでしょう)。記者会見で配布された資料は公開されていますが、記者会見で公表されたらしい報告書の内容については「なぜか」公開されていません。

記者会見の内容まで公表するのは大変でしょうが、記者会見で公表した報告書の内容は「情報公開日本一」を目指すのなら公表すべきだと考えます。そもそも報告書の本体自体が公表さていないのが私には不思議です。もちろん死亡した女性の個人情報も含まれるでしょうが、そこは伏せ字にすれば可能と考えますし、そういう作業も容易になっているのが時代です。

たとえば資料にある、

    傷病者本人が観察・搬送を拒否されていたので、充分な身体状況の把握ができず、医療機関への情報提供にも影響が生じるという活動の障害が起こり、その事がさらに時間を要し、搬送が遅れたことの一因にもなっている。
ここについても、具体的に救急隊が死亡した女性の身体状況をどう判断し、その判断に基いて「どこの病院」に搬送しようか考えたの情報が検証には必要です。報道から漏れ聞く女性の状況は、結果としては重症で、それこそスムーズに搬送できても救命可能かどうかも危ぶまれそうな状況です。漏れ聞く情報から医療関係者の多くの意見として、直ちに三次救急に搬送すべしです。

二次救急クラスでは到底手に負えない状態であったと判断するしかありません。「死因、死因」と騒がれていますが、仮に救急隊が適当にサッサと二次救急に搬送していたら救命できたとの検証結果が出ているのでしょうか。

あくまでもどうやらですが、三次救急のさいたま赤十字病院に一度は受け入れ不能とされた後に、もう一度搬送要請して受け入れが可能になったようです。このさいたま赤十字に救急隊は何ヶ所目に照会を行ったかも不明です。結果から言えば、真っ先に照会すべきところですが、さいたま赤十字までに何ヶ所の「無駄打ち」を行ったかが不明です。


救急ではなく、救命と言う見地に立てば、公表資料にある、

    医療機関搬送に時間を要したことにより、死亡する可能性が高まったと考えられる
そりゃ早ければ救命の確率は高まったでしょうが、これは早くに「どこでも良いから」の医療機関に搬送する事ではなく、女性を救命できる医療機関に早くに搬送すればになります。ここも女性の重傷度について報道情報しかありませんから、推測にならざるを得ないのですが、「死亡する可能性が高まった」も間違いとは言いませんが、その辺の二次救急にトットと搬送できていれば救命できていたかの検証が不明です。

しかし導かれる対策として、

  • 市内二十四カ所の二次救急医療機関に対しては、専門外でも一時的に収容してもらうよう依頼する方針
  • まず医師による診察のみを受けさせ、その後、別の搬送先を探す仕組みを強化
こういうものでは結果はさして変わらないと考えます。女性が救命できた可能性は、救急隊が女性の負傷状況を正確に把握し、一目散に三次救急を目指した時だけと現在の情報量からは判断できます。ところが検証結果として記者会見をマスコミ・バイアスで通り抜けた情報は、相も変わらず「どこかに押し込む方針」しか出てきません。本当にメディカル・コントロール協議会がそういう結論を出したのか、そうでないのかの情報公開が求められます。


平成22年12月付の埼玉県の傷病者の搬送及び受入れの実施に関する基準には、緊急性として多発外傷があげられています。多発外傷の受傷機転として、

  • 車に轢かれた
  • 自動車が歩行者、自転車に衝突
  • 5m以上跳ね飛ばされた

少なくともこういう基準が明記されています。これらの基準を救急隊がどう判断したかも知りたいところです。救急隊は医師ではありませんから、明瞭な基準が設けられ、それに従って搬送の緊急度を判断しているはずです。まさか負傷者が「大丈夫」と言ったので軽視したとあれば、これはこれで問題です。この真相がどうかも現在の情報公開量ではまったく不明です。

今回の事例に限って言えば、発端は救急隊の負傷状況把握が不十分であった事に尽きます。すぐに命にかかわる重傷と判断できなったが故に、無駄打ちが行われ、この日は無駄打ちが一発も当たらなかったとしてもよいと思っています。仮に無駄打ちが当たったら救命できたかと言われれば、これは大いに疑問です。しかしこの疑問に答える情報はありません。


真に検証すべき事は、なぜに救急隊が正確な状況判断が出来なかったになります。上述したように救急隊には重傷度、緊急度を判定するマニュアルが作成されています。しかし結果として判定を誤っています。判定を誤った原因として、

  1. 判断マニュアルに忠実であったのか
  2. 判断マニュアルに忠実であったのに判定を誤ったのか
  3. 判断マニュアルに忠実あったのに判定を誤ったのなら、マニュアルに改善の余地はあるか
この点についての報道資料は、
    傷病者本人が観察・搬送を拒否されていたので、充分な身体状況の把握ができず
こういう状況ではどうするかのマニュアルの設定が、どうかは検討されたのでしょうか。これについても不明です。



検証結果が「どこかに放り込む」体制の強化しか導き出せないのであれば、ますます救急医療の弱体化は進むとしか言い様がありません。正直なところ、マスコミ記者の関心は「何ヶ所のたらいが回ったか」「何時間かかったか」にしか興味がなく、次に「たらいを回さない、放り込み体制強化」ばかりしか報道しませんから、全然情報が足りません。

本当にそんな検証結果をさいたま市は出したのか、それともそうでないのかの「日本一」の情報公開を強く求めます。なんとなくなんですが搬送基準にある、

(ウ)緊急時の定員超過入院等の対応

 厚生労働省医政局総務課長・指導課長・保険局医療課長通知「救急患者の受入れに係る医療法施行規則第10条等の取扱いについて」(※1)のとおり、緊急時の対応として救急患者を入院させるときは、医療法施行規則第10条ただし書きの規定が適用されるものであり、定員超過入院等を行うことができる。医療機関等においては、当該規定により緊急時には救急患者の受入れに努めるものとする。

(※1) 平成21年7月21日付け医政総発0721第1号、医政指発0721第1号、保医発0721第1号

これの強化にのみにひた走りそうな悪寒がしています。県医師会長もそんな感じでしたし・・・。