IT業界侮辱と女性蔑視

岩崎慶市(株)産業経済新聞社論説副委員長の問題の記事ですが、全文は昨日のエントリーに引用しましたので御参照ください。この記事を努力して冷静に批評すれば、ある状況(今回は医療問題)に対する分析と意見提示です。医師にすれば相当偏った見解と感じざるを得ませんが、この日本は自由に意見を述べられる国です。もちろん見解の相違に対し反論や異論を唱える自由もあり、現実に行なわれています。記事中の語句の使い方に違和感を強く感じますが、意見を主張すると言う範疇で許容範囲と出来ると考えます。

ただし次の一節は非常に問題を含んだ表現かと感じます。

若い女性が選ぶ結婚相手の人気職業で、IT(情報技術)成り金と肩を並べるのもうなずける。

文中の枝葉末節に対しての批判は品の良いものではないかもしれませんが、枝葉末節であっても度が過ぎれば問題となります。記事の主張は「医者は儲けすぎ」であり、この一節は儲け過ぎの程度の比喩として用いられています。表現法として比喩を持ちいる事は何の問題もありませんし、馴染みの薄いテーマの解説には非常に有用な事がしばしばあります。上手に比喩を使う事は文章を書く上で欠かすことのできないテクニックです。

全体を読めばわかるように、ここでの比喩の使われ方は、「医師は儲けすぎている。まるで○○のように。」です。記事全体が強い医師儲けすぎ批判である事は誰でもわかりますから、医師が儲けぶりは○○と同じぐらい問題だの表現としてよいかと思います。つまりここの比喩に用いられる○○は、この記事が強く批判している医師と同等の批判を受けている事になります。その○○にあたるのが「IT(情報技術)成り金」です。非常に簡潔な表現であり、他に誤解の余地が生じようが無いほどです。

ここでの問題点はIT関係者を医師と同等の批判の対象にしただけではなく、IT関係者を「成り金」としている事です。「成り金」の表現は誰もが非常に侮蔑的に感じる言葉です。「成り金」だと面と向かって新聞に名指しされて喜ぶ人種はいないかと思います。IT業界も内実は大変なところで、デスマーチなる言葉が業界用語として定着し、「IT土方」なる言葉も広く流通しているところです。成長産業かどうかはIT関係者は様々な考え方があるようですが、新技術の開発により一躍巨万の富を築く事が可能なところであるのは確かでしょう。

巨万の富を築ける可能性はありますが、一方で技術革新の速度は日進月歩どころではないところでもあります。そういう激烈な競争を勝ち抜いた者が成功者として名を馳せるところです。どこの業界でもそうですが、成功者として名を馳せるためには尋常でない努力を重ね、その上に稀なる才能と幸運に恵まれたものがスポット浴びる世界です。IT業界は進歩が早いだけに一時の成功を勝ち得ても、それだけで終わらず、常に努力を重ねる事が必要とされる厳しいところであるともいえます。

そういう成功者も含めてIT関係者を「成り金」とはどういう神経で言葉を選んでいるのか頗る疑問です。この短い文章ではITの成功者はすべて「成り金」であると受け取れます。つまり産経新聞はIT業界の成功者はすべて「成り金」であると全国に発信している事になります。それも論説副委員長が直筆でです。IT業界は産経新聞にそこまで侮辱されて当然の業界と言うのでしょうか。


もう一つの問題箇所は、女性の結婚相手の選択です。だいたい結婚相手に女性がどんな男性を選ぼうが完全な「自己責任」です。男性も右に同じです。産経新聞に結婚相手の選び方を批判する権利があるかどうかがまず大きな疑問です。女性が結婚相手を選ぶ条件の一つに男性の経済力を考えても何の問題もありません。逆に経済力の無い男性を選んでも完全に自己責任です。

ここで女性がIT業界の成功者を配偶者に選んだとしても、その理由が「成り金」だけだからと言うのでしょうか。これは女性に対する信じられない侮辱です。経済力も魅力の一つであったかもしれませんが、男性の人間としての魅力に惹かれても何の不思議もありません。成功者はどんな業界であっても魅力的な人物が少なくなく、異性だけではなく同性も大きな魅力を感じることが多々あります。そういう魅力に惹かれて結婚する事は罪なのでしょうか。

女性の配偶者選択能力を「成り金」で転ぶ連中と書くのは、女性蔑視の考えが濃厚に論説副委員長にあると見なされても当然ではないかと思われます。女性の考えなんてそんな物だとの思想です。さらに深刻なのは既に配偶者になられている方への直接的な侮辱が行なわれています。IT業界のある程度の成功者と結婚した配偶者(今回は女性を指します)は「成り金」に目が眩んで結婚したと産経は全国に発信しています。


この簡潔な一節はIT業界を侮辱し、女性蔑視の思想があると解釈させるのに十分な表現力があると考えます。


もう一度念を押しておきますが、論説副委員長が筆を取り、産経新聞に麗々しく掲載されているのです。産経に限らず大新聞社は「社会の木鐸」「社会の公器」であると常々自負し公言しています。三流のゴシップ紙とは一線どころでないものを画していたかと思います。さらに記事は事件の速報を伝えるのに混乱した状態で大急ぎで書かれたものでないのは明らかです。ある程度十分な時間の下、推敲を重ねた上で掲載されたものです。

ちなみに論説委員とは大辞林によると

報道機関で、その社の立場を明らかにする論説を担当する人。

つまり岩崎慶市(株)産業経済新聞社論説副委員長は産経新聞社の立場を明らかにして論説を書いたわけであり、この場合の論説は社説ないしそれに近い存在のものを指します。

産経新聞社に対し

  • 貴社はIT業界の成功者を「成り金」と侮辱して当然と考えているか。
  • 貴社は女性が配偶者としてIT関係者(とくに成功者)を選んだ時、選択理由を「成り金」であるからとの女性蔑視発言を容認するか。

この2点についての納得がいく説明を要求します。