首相のメルマガ

参議院選挙結果がどうだったかは今さら説明するまでもありませんが、自民党史上2番目の大敗です。前回の大敗の時の首相は宇野宗佑氏。竹下内閣が消費税問題とリクルート事件で総辞職し、後継選出に難航した挙句、瓢箪から駒みたいに首相に選出された経過があります。

宇野氏は有力な派閥基盤を持たず、さらに急造内閣であり、さらにさらに竹下内閣の崩壊の原因の消費税問題、リクルート事件を抱え込み、その上に農産物自由化問題まで加わって、3点セットの状態で参議院選挙に臨まざるを得なくなっています。駄目押しは宇野氏自身の女性スキャンダルが政権発足時から付きまとっています。これで勝てたらアッパレ名宰相なんですが、コテンパンに大敗して退陣しています。

時代が違うので現首相の今回の条件と単純比較をするのはあまり意味が無いかもしれませんが、現首相は前首相が円満退陣した後、ほぼ満場一致に近い状態で選出され、宇野氏時代より派閥の力は落ちているとは言え、最大派閥のバックアップがあります。政権発足時にも格差問題とかはありましたが、宇野氏の消費税問題、リクルート事件ほどの政治課題は無く、順風満帆の政権スタートであったと言えます。

現首相が政権発足時から最大の課題であった先の参議院選挙に対しては、ほぼ何も問題が無いところからスタートし、政権が積み上げた実績のほぼ純粋な評価を行ったものと見ることが出来ます。宇野氏が政権発足時から消費税問題、リクルート事件で集中砲火を浴びながらスタートしたのとはかなり条件が違うと言っても良いとおもいます。

それでも現首相は宇野氏なみの大敗を喫しています。わずかに宇野氏の大敗を1議席上回っただけです。当然ですが進退の問題が浮上するわけですが、開票当日から現首相は続投を明言しています。さすがに与党内からもこの続投宣言を問題視する声があるようですが、現首相の参議院選挙への総括みたいな声が出されています。これは天漢日乗様のところより、8/2付で出された首相のメルマガですが順次引用しながら読んでみます。書き出しは「こんにちは、安倍晋三です」となっており、メルマガのタイトルは「覚悟を決めて」となっています。

こんにちは、安倍晋三です。

 先日の参議院議員選挙の結果は、極めて厳しいものでした。

 年金記録問題を引き起こした政府への怒り。相次ぐ閣僚の不適切な発言や政治資金の問題に対する、いい加減にしろ、との怒り。

 こうした国民のみなさんの怒りや不信が、今回の結果につながったことを厳粛に受け止め、こうした厳しい声に真摯にこたえていかねばならないと痛感しています

たんなる補足説明ですが、年金問題は少なくとも2月には首相の知るところであったとされます。首相はこの問題を重視せず放置し、民主党議員の執念深い掘り返し作業により表面化し、表面化したときには身動き取れないぐらいの重大問題と化しています。政治資金問題は、個々の閣僚の自己責任と言えばそれまでですが、問題発覚後の対応に強い批判が出ています。現政権のアキレス腱みたいになった二人の農林水産大臣ですが、両者とも疑惑について納得の行く説明を行なえませんでした。

これについては議論もあり、マスコミや野党の要求通りに政治資金規正法を越えての報告をする必要は無いとの意見もあります。政治資金規正法以上の報告をする必要は義務ではありませんが、してはならないの規則ではありません。詳細な収支報告無しで疑惑を晴らせるのなら、公開する必要はありませんが、それで納得が得られないのなら、法の規定を超えて報告公開するのも政治ではないかと考えます。

ところが法の規定を超えての報告公開はあくまでも拒み、首相もその姿勢をひたすら擁護する方針を取りました。首相の決定ですから、閣僚はそれに従わなければなりませんが、参議院選挙という政権の命運を左右する重要な選挙への対策としての是非は選挙前から囁かれ、選挙後も囁かれ続けています。

それでも、そういう事が敗因であったと認識されているのは潔い事です。

私自身の進退も含め、いろいろとご批判があります。しかし、改革への流れをここで止めるわけにはいきません。

 教育再生公務員制度改革、新成長戦略の推進、地域の活性化・再生、地球環境問題の解決に向けたイニシアティブ、アジア外交の再構築、憲法改正に向けた取組み。

 先週号のメルマガでお伝えした、私の改革への決意に対して、力強い応援メールをたくさんいただき、御礼を申し上げたいと思いますが、この決意は、今でもまったくゆらいでいません。

 改革の中身について、これまで十分に説明できず、政策論争を深めることができなかった点は、率直に認めなければなりませんが、私が進めつつある改革の方向性が、今回の結果によって否定されたとは思えないのです。

 今、政治の空白をつくることは許されません。ましてや、政治が混迷したために改革が遅れた、あの90年代の低迷期に後戻りさせるわけにはいかない。今後とも新たな国づくりを進めていくことが、私の使命であり、責任であると考えています。

選挙は何が焦点だったかの見解の問題のように感じます。首相が書かれている「教育再生公務員制度改革、新成長戦略の推進、地域の活性化・再生、地球環境問題の解決に向けたイニシアティブ、アジア外交の再構築、憲法改正に向けた取組み」については一定の評価が選挙後もあることは知っています。また首相は本来こういう事を選挙の争点の中心に据えて戦いたかった事も、各種報道から窺えます。

しかし選挙ではそうなりませんでした。争点どころかほとんど触れられなかったと言っても良いでしょう。争点になったのは首相も前段で書かれている通り、年金、政治と金、閣僚の不適切発言です。首相が政権発足以来積み上げ、選挙の争点にしたかった実績はまったくと言って良いほど無視された選挙になってしまったのです。首相にすれば不本意な選挙であったとは思いますが、首相が争点にしたかったことが争点にならずに負けたから、首相は退陣する必要が無いという理屈は強弁の様な印象を受けます。

一言付け加えれば、首相は自分が退陣すれば「政治的空白」ができるので退陣しないとしていますが、いかに日本の政界が人材難であるとは言え、首相の代わりは幾らでもいます。また参議院で歴史的大敗を喫した内閣が求心力を高めるとは思えず、自民党公明党なんかに較べてはるかに雑多の集合体ですから、自民党内での反首相派の動きによる政治的混迷化は必須でしょう。

つまり首相が代わったら現首相が懸念する政治的空白化が起こるかもしれませんが、首相が続投しても政治的空白化が起こらないと言えないんじゃないかと言うことです。これも首相の政治的情勢分析の判断なんですが、難しい問題です。

 「政府や政治に向けられた不信すら一掃できないようでは、新しい国づくりなんてできないぞ。」これが、今回の結果によって示された、国民の強い声だと受け止めています。

 人心を一新します。改革をさらに前進させることができ、国民からも信頼される体制へと、内閣の陣容を改めていきます。

 政治資金の透明化をさらに高めます。政治家自身がまず襟を正し、あらぬ疑惑をもたれることのないよう、オープンな仕組みをつくらねばなりません。

この部分は政治と金の問題でいかに手痛い目にあったかの首相の正直な感想かと思います。この問題を軽視するとどれだけの反応をするかの学習を今回の選挙で首相は授業料を払ったということでしょう。首相は「やっとわかった」のニュアンスみたいですが、与党、とくに今回落選した候補者にとっては怨念が出そうな認識です。

 そして、今回の選挙で示されたもう一つの声、すなわち、改革の痛みを感じている地方の声にも、改革の果実をさらに地方の実感へとつなげる努力を尽くすことで、こたえていかねばならないと思っています。

 まさに、今回の厳しい審判を、信頼される政治、真に改革を進める体制づくりを行うきっかけにしなければならないとの思いを強くしています。

 私は、ここで逃げることなく、自らが先頭に立ち、国民の厳しい声に正面からこたえていく覚悟です。そして、ゼロから出直す気持ちで、新しい国づくりに向けた信念を貫いていきたいと思います。(晋)

一人区の惨敗がよほど身に沁みたようです。一人区の惨敗は衆議院小選挙区の帰趨にもつながりかねませんから、よほど深刻に受け止めたようです。でも地方に住む人間からすれば、「今まで知らなかったのか」の声はあがりそうな発言です。つまり今回の選挙でもホドホドの敗北なら、地方への関心は首相にとって無に等しいとの発言だからです。

とにもかくにも首相は続投すると繰り返し明言し、続投路線は現時点では決定しています。しかし首相が作った参議院での負の遺産は最低限3年間は続きます。これを引きずりながらの政権運営は誰が行なっても難しいものですが、首相はそれでも火中の栗を拾うとの意気込みを見せています。この判断が良かったか、悪かったかは今後の首相の努力と歴史が証明するでしょう。