首相の退陣カード

なんとか他の話題を紡ぎたかったのですが、こんな時に限って、格好の他のネタは目に付かず、遺憾ですが政治の話にさせて頂きます。あんだけ大騒ぎしての鳩菅覚書なるものは、これは6/2付読売新聞ですが、

  • 民主党を壊さないこと
  • 自民党政権に逆戻りさせないこと
  • 大震災の復興並びに被災者の救済に責任を持つこと


    1. 復興基本法案の成立
    2. 第2次補正予算の早期編成のめどをつけること

この鳩菅覚書を踏まえての首相の発言を報道機関でまとめておくと、

報道機関 発言内容
読売記事 この大震災への取り組みに一定のメドがついた段階で、私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代に色々な責任を引き継いでいただきたいと考えている。この大震災、原発事故に一定のメドがつくまで、ぜひとも私にその責任を果たさせていただきたい。
朝日記事 「(東日本)大震災に一定のめどがついた段階で、若い世代の皆さんに色々な責任を引き継いでいただきたい」と語り、震災復興と東京電力福島第一原発事故対応に一定のめどがついた段階で辞任する考えを表明した。
タブ記事 「大震災に取り組むことが一定のめどがついた段階で、若い世代の皆さんにいろいろな責任を引き継いでいきたい」と述べ、退陣の意向を表明した。
産経記事 震災対応に「一定のめどがついた段階で、若い世代に責任を引き継いでいきたい」と述べて、退陣する意向を表明した。
時事通信 東日本大震災や福島第1原発事故に触れ「一定のめどが付き、役割を果たした段階で若い世代に責任を引き継いでほしい」と述べ、対応にめどが付いた段階で辞任する意向を表明した。
共同通信
(東京新聞版)
「私がやるべき一定の役割が果たせた段階で、若い世代の皆さんに責任を引き継いでいただきたい」と表明した。


鳩菅覚書と民主党代議士会の首相発言で、これを首相の「退陣表明」と解釈するのだそうです。日本語と言うか政治用語は難しいと思います。とりあえず前回の総選挙は2009年8月に行なわれていますから、現在の衆議院議員の任期は後2年少しです。2年経てばどんなに頑張っても総選挙はあるわけで、最近の選挙動向から言えば、与党が勝つのは大変難しいのは周知の事です。

今回だって「総選挙をやればお前ら(与党議員)は大量失業するぞ」が首相側の脅し文句であったわけであり、そんな難しい総選挙で勝とうものなら覚え書やこの程度の首相発言なんて跡形もなく消え去ります。

また今回の震災被害は超弩級であり、これの復旧の目途がそうそう簡単には付かないのは誰でも判ります。阪神大震災も被害は大きかったですが、まだバブル景気の余韻が残る時期でしたし、神戸を始めとする阪神間は人口も多く、経済活動の盛んな地域です。それでも目途がいつであったかと言われると、2年で間に合ったかは記憶が定かではありません。

それと「目途」は被災者が実感として感じるものではなく、あくまでも行政側の判断と言うか宣言みたいなものです。言い換えれば行政側が「まだまだ道は遠い」とする限り、目途の時期はいつにでも変更可能と言う事です。

今回の被災地は阪神の時より条件が宜しくないのは一致した見方としてよいでしょう。そうなると、現在の衆議院議員の任期ぐらいは首相を続投する表明と受け取るほうが自然の様な気がします。鳩菅覚書と民主党代議士会の首相発言で首相が早期退陣を表明したと受け取るのは、どんなものかと思います。


あえて解釈すれば、政治の世界で、どんな形であれ首相が退陣と受け取られるニュアンスの発言を行うこと自体がビッグ・ニュースであり、その趣旨を汲み取って反主流派が鉾を収めたと取れない事はありません。ただし外野からは大変判り難い決着です。あくまでも一般論ですが、一国の首相が辞める意志を出すと言う事だけで本来は大問題のはずです。

首相の責任は途轍もなく重く、姿勢としては常に前向きでなければならないと思っています。口が裂けても「ボチボチ辞める」なんて言ってはならないはずです。どんなに痛烈な批判を受けても「オレが引っ張っていく」である事を求め続けられるのが首相の役割であり、そうである事を国民は求めているはずです。

党内紛争を宥める策として退陣カードをもてあそぶなんて、あってはならない事と私は思います。それぐらいなら、不信任案を可決させて、解散総選挙で対決するのが首相たるものの基本姿勢である様に考えています。


もっとも今回は安易に解散総選挙を行えない状況にありますから、あえて「忍び難きを忍び、耐え難きえを耐え」で非常手段の退陣カードをあえて使ったと受け取っておきます。

この後の首相に期待するのは、今度こそ震災対策・原発対策を政争から切り離して、必要な法案、予算措置を成立させる事です。震災対策・原発対策を政争から切り離せる機運は震災直後に一度ありました。しかし首相はその機会をつかみ損なっています。政治家なんて小異を立てるのが仕事みたいなところがありますから、退陣カードを今度こそ活用して欲しいところです。

震災対策・原発対策を政争から切り離すために捨て身の退陣カードをあえて切ったのなら、私は評価します。そうでなく、政権延命のための政治的小道具に使っただけなら、いくら今の国会で不信任案を二度と使えなくとも、それに対する評価は辛辣に下るものと思われていた方が良いと思います。会期は無限に延ばせるものではありませんし、どんなに頑張っても2年先には総選挙もあると言う事です。

もう党内抗争は堪能する程されたでしょうから、そろそろ眼前の大問題に全力投球して頂きたいと殆んどの国民は心から願っています。野党の皆様もよろしくお願いします。