年金のお話

どうせ年金なんてもらえそうに無いと思っているもので、熱心なウォッチャーでないのですが、ちょこっと政治絡みでエントリーにしてみます。

この時期に年金問題が急浮上した事自体が政治がらみなんでしょうが、現首相にとって非常に都合の悪い問題である事だけは間違いありません。なんに都合が悪いかと言えば、言うまでも無く来月に迫った参議院選挙への影響です。もし明日が投票日なら与党大敗必至ですからね。残されている時間も少ないので右往左往の様子が窺えます。

現首相にとっては降って湧いた災難ですが、見ようによってはこの難局を克服する事で、宰相としての資質を証明するチャンスとも言えます。真に優秀な政治家はこういう苦境を活かして、逆に支持を拡げる芸当を行ないます。現首相にとっては宰相の資質を試される試金石とも見て取れます。

難局への対処法ですが、現首相が行っているものも含めて幾つかの対処法があります。

  1. 責任転嫁論の主張
  2. 関心回避法の展開
  3. その場しのぎの問題先送り
  4. 正攻法で問題に正面から立ち向かう
D.が最高であるのはもちろんですが、現首相の判断はD.ではどうも問題処理が困難であるとの判断があるようで、そのためまず行なわれたのがA.です。

A.の責任転嫁先として挙げられたのが菅氏です。菅氏が厚生相時代に年金一元化法案が可決され、その時の責任者であるという主張です。パンフレットまで印刷したそうですが、この手法には大きな批判が身内の党内にも巻き起こります。菅氏が厚生相のの時代に法案は可決されましたが、実際の作業は小泉氏が厚生相時代に本格化したからとの指摘です。菅氏を批判すれば返す刀で小泉批判につながり、手法として宜しくないとの事で、責任転嫁論は今のところお蔵入りの様子です。

B.として使われたのがコムスン事件であるとの観測があります。マンション偽装事件が政界に飛び火しそうになった時に、ホリエモン逮捕で世間の関心をそらしたのと同様の手法との意見です。これについては当ブログのコメント欄でも議論がありますが、ホリエモン逮捕に較べるとインパクトは弱く、私は効果不十分と見ています。下手すると介護行政全体の問題点が浮上する動きさえあり、最悪選挙の争点が「年金、介護、医療」の三点セットに肥大化する懸念さえ出ています。

A.もB.も手詰まり感が出れば、C.ないしD.で取り組まざるを得ません。C.もD.も表裏一体の部分があり、本音はC.であっても限りなくD.に見えるようでなければ厳しい批判がでてきます。ですので二つを同じように扱います。

正攻法で取り組むためのアピール点は迅速、正確、公平が重要です。公平については年金の時効を取り消す特例法案をとりあえず成立させたようですが、これだけでは大した評価になっていません。残りは迅速、正確です。迅速の前に立ち塞がる壁が処理件数の膨大さです。熱心なウォッチャーではないので初期報道の数に依りますが、5000万件はどうにも手強い数です。

5000万件を単に入力するだけでも相当な手間ひまがかかりますが、今回は1件、1件、元台帳と照らし合わせてのチェックが要求されます。すべて手作業の人力仕事とならざるを得ません。簡単に照合できるものもあるでしょうが、調査に時間がかかるものも当然多数含まれていると考えるのが妥当です。またこのチェックでまた杜撰振りが出てくれば政権はひとたまりもありませんので、ここで正確さは高く要求されるのは必然です。国民の要求としては「完璧」を求めていると言えます。

迅速の期間については現首相はもう何度も強力に主張しています。期間は1年であるということです。1年で5000万件の処理を考えると、1年は365日ですから、1日13万7000件、1日は24時間ですから、1時間5700件、1時間は60分ですから、1分95件、1分は60秒ですから、1秒1.6件になります。24時間365日連続で作業してもそれだけの処理件数がありますから、相当な人手が必要である事は明らかです。

処理費用についての概算を灰色のベンチ氏が行なっています。

社保庁の知人に給与体系を聞いて、

残業代の算出法もある程度聞いたので、

簡単に概算を出してみた。。(あくまで人件費だけ) 

【条件】再度のミスを無くす為、30代から40代の経験豊富な

職員を一日100人ずつ、業務終了の5時から終電の11時まで

働かせ、土日は100人が9時から11時まで休憩を

取りながらフル稼働した場合。。期間は公約通り1年間。

【答え】 11億と376万

灰色のベンチ氏の職員動員の条件は100人となっています。この作業は日常業務と別に行なわざるを得ないとの前提として、作業時間を平日6時間、休日13時間(昼休憩1時間を除く)の残業としています。休日は日曜、土曜あわせて年間約100日、休日が年末年始をあわせて20日、おおよそ年間120日あります。

そうなると平日が245日、休日が120日、平日の作業時間がのべ245×6=1470(時間)、休日の作業時間がのべ120×13=1560(時間)、あわせて3030時間になります。そうなると1時間あたりの処理件数が1万6500件、1分あたりで275件、職員が100人いますから一人当たり1時間165件、1分当たり2.75件になります。

職員100人ではまず無理な数字です。どれぐらいが必要かといえば、10倍の1000人でも1時間当たり16.5件となります。1件あたりの処理時間が1000人でやっても6分になります。もちろん正規の日常業務時間内でもある程度行なわれるでしょうから、その分を見込めば1件当たり10分ぐらいになる可能性は有ります。

せめて1000人の人員が必要という事になれば、人件費の概算は単純に10倍となり113億3760万円になる事になります。迅速、正確の二つを1年で追い求めるとこれが最低条件ではないかと考えます。また批判が噴出しそうな額なんですが、これについて現首相は先手を打っています。6月12日付のロイターからですが、

年金問題対応費用、補正予算は考えていない=首相

 [東京 12日 ロイター] 安倍晋三首相は12日夕、官邸内で記者団に対し、尾身幸次財務相年金問題対応費用について必要があれば補正予算で対応すると発言したことに関して「尾身大臣はできることをすべてやろうという気持ちでおっしゃったのだろうと思うが、補正予算はまったく考えていない。予算の範囲内ですべてできると考えている」と語った。

 尾身財務相は12日、閣議後の記者会見で「必要があれば、予備費とか補正予算でしっかり対応して、少なくとも年金の解明作業に、そのための経費がないから解明作業が遅れたという状態には絶対にしない」と発言していた。

現首相は「金は出さん」と言明している事になります。もちろん「金を出す」と言ったら袋叩きになる政治計算である事はもちろんです。「金は出さん」と言うほうが世間受けは良いでしょうが、それで済む問題かどうかです。責任は一義に社会保険庁の杜撰な体質にあるのはもちろんですが、末端の職員については正直迷惑なお話です。目の眩むような膨大な作業を、休日無しの体制で1年間行なうわけですから、目的である「迅速、正確」を達成できるかどうかに疑問符がつくことになります。

金を出さずに低いモチベーションでチェック作業を行い、これが再び杜撰なものであった場合には、来月の参議院選挙への影響は回避できても、その次の衆議院選挙に再び政権のアキレス腱として襲いかかります。

どうにも現政権は年金問題にいつまでも祟られる宿命にあるようです。