画期的な発言

2007/06/11付神戸新聞WEB NEWSより、

過去半年に休診が要件 国が医師派遣で新制度

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 厚生労働省は11日、政府、与党が乗り出した医師不足対策の一環として、医師派遣の具体的なルールを盛り込んだ新たな制度「緊急臨時的医師派遣システム」を決めた。

 医師派遣を要請できる病院の要件は「過去6カ月以内に休診に追い込まれた診療科がある」などで、人材は全国規模の病院グループに提供を求めたり、医療機関の退職者から公募したりして集める。12日以降、新制度に基づいて都道府県から派遣要請を受け付ける。

 医師派遣先の要件は(1)2次医療圏内の中核病院(2)過去6カ月以内に休診に追い込まれた診療科がある(3)大学に派遣を依頼しても医師を確保できない-など。

 これらの要件について都道府県が検討し、派遣が必要と判断した場合に厚労省に要請。同省などがあらためて必要性や優先順位を検討する。

内容の杜撰さについては論客の皆様が既に舐め尽くす様にされているのでもういいでしょう。それよりもこの発表の中で厚生労働省が画期的とも言える発言があるのに驚かされました。それは医師派遣の供給元の明示です。そんなものは示して当たり前だろうと思われるかもしれませんが、実は超がつくほど画期的と感じています。

政府の姿勢が「医師不足」に傾く中でも、厚生労働省の鉄の姿勢である「医師は足りている、偏在が問題だ」は基本的に変わっていません。この偏在発言については国会質疑で、「偏在で不足地域が生じていると言うのなら、過剰地域を示せ」の質問に、柳沢大臣が立ち往生した事は記憶に新しいところです。厚生労働省にとっては医師過剰地域の存在は、大臣にも知らせられず、国会質疑にも答えられない超機密事項であったわけです。

そんな超機密事項であった過剰地域の場所をついに明言した事になります。具体的には、

この二つが医師過剰部分であった事になります。確かにこの二つの偏在部分は地域ではありませんから、国会質疑で「医師過剰地域を答えよ」と言われても返答できなかった事が理解できますし、厚生労働省が過剰地域がどこかについての返答をしなかった事とも見事に整合性が取れます。これまでは質問の仕方が悪かった事になります。

ではもう少し具体的にという事になりますが、全国規模の病院グループとはどこを指すのでしょうか。国立病院機構はつい先日のニュースで医師派遣事業が出来なくなったと報道されており、少なくとも国立病院機構ではないことになります。そうなるとそれ以外で思いつくのは、日赤、済生会、労災などの準公的病院や徳洲会ぐらいしか思いつきませんが、制度が動き始めればはっきりするでしょう。もっとも私が挙げた病院グループも、知る限り医師が余っているとは聞きませんので、私が知らない全国規模の病院グループに偏在しているのかもしれません。

もう一つの医療機関の退職者は言われて納得です。とくに公立の病院の定年は60歳ぐらいが多いかと思います。60歳で定年となり、一線の医療から医師が身を引くのが偏在の原因であると言われれば、そうかもしれません。日本の医師の戦力計算は医師の需給に関する検討会報告書で明記されている通り年齢に上限はありません。年齢に上限は無いという前提で計算されている以上、60歳定年で一線から身を引いてもらっては「偏在」が生じる事になります。

少し古いですが平成14年の施設の種別・年齢階級別にみた医療施設に従事する医師数によると、60歳以上の医師の割合は約20%に達します。この20%がバリバリ働いてこそ日本の医師は充足するのであり、定年で一線を引いたり、ましてや医療から身を引いたりすることは許されない所業になります。これは全国規模の病院グループに偏在するよりも遥かに由々しい問題かもしれません。

偏在の原因の退職医師を一線に再動員し「偏在」を解消するのは、厚生省の聖典である医師の需給に関する検討会報告書に則る限り完璧な解決策になります。あまりにも見事に理屈の辻褄が合っているので昨日は感動してしまいした。

そういえば聖典の奥義書である医師の需給推計について(研究総括中間報告)には、この再動員により起こることも予言されています。奥義書には70歳以上の医師の数が2040年まで予測されています。これによると2002年に医師全体の11.6%、28922人いたものが、2010年には7000人に減ると予言されています。2002年から2010年の間に70歳に達するはずの医師の数は18000人であり、全員生きていたら47000人になるはずですが、なんとそのうち40000人が死亡するとなっています。

異常なほどに高率な医師の死亡数ですし、この8年間にこれほど70歳以上の医師が死亡する理由は記載されていなかったのですが、その理由も良く分かりました。退職者の一線再投入による激しい消耗を計算にいれていたのです。70歳どころか60歳代での激しい消耗がこの結果をもたらす事がはっきりと予言されています。おそらく奥義書を作成した長谷川敏彦氏も結果は冷徹に示さなければならないと考えたのでしょうが、その理由を書くに忍びなかったのではないかと思います。

医療機関の退職者を活用しての偏在解消策は、その死亡率まで計算されて既に決定済みの計画のようです。まさに厚生労働省おそるべしです。これからの医師へのスローガンは、

    撃チテシ止マム、斃レテ後休ム