厚生労働白書の骨子案

2007.5.24付Ashahi.comより

「医療費抑制は限界」予防重視へ転換図る 厚労白書案

 07年の「厚生労働白書」の骨子案が23日、明らかになった。「医療構造改革」をテーマに掲げ、少子高齢化の進展に伴い、ベッド数の抑制や患者の自己負担の引き上げなど従来の医療費抑制策は限界に達していると指摘。生活習慣病対策など「予防重視」に政策を転換し、予防から終末期に至るまでの総合的なビジョンを作成し、医療費適正化を目指す。

 白書は今夏までにまとめ、公表する。骨子案では、現状の問題点として(1)地域や診療科ごとの医師の偏在に伴い、急性期医療が弱体化(2)医療に関する情報不足(3)時間外や夜間、休日診療の不足(4)健康状態を総合的に診察する医師の不足――を挙げた。

 医療構造改革の目指す方向として、入院から在宅まで切れ目のない医療の提供や、開業医に時間外診療を求めるなど医療機関の役割分担の推進、個人の健康情報のIT化などが必要としている。

 1人あたりの医療費で1.5〜2倍、生活習慣病の受診率で2倍近くに達するなど都道府県間で生じている「医療格差」の要因についても、都道府県をいくつかのグループに分けて本格的に分析。各地域が特性に合った有効な対策を打ち出す必要性があるとした。

白書の骨子案を記者が聞いたか読んだものの、さらに記事なのでどれだけ内容が正しいか不明ですが、記事自体にあまり感情が入っていないので、厚生労働省の配布資料みたいなものを丸写ししたと考えて分析してみます。

冒頭部分のエッセンスの解説から、

  • ベッド数の抑制は限界


      療養病床38万床を15万床に削減した後の一般病床90万床の削減を断念したと言う意味と考えます。療養病床の削減は政策決定され、一旦決定されたものは変更されないのが政策ですし、朝令暮改お家芸厚生労働省もなぜかこういう決定だけは墨守します。


  • 患者の自己負担は限界


      3割負担を広げる余地がもう無いとの判断かと考えます。3割を越える負担となれば、厚生労働省が絶対に維持したい公的負担制度の破綻の懸念が出てきます。つまり4割や5割の負担を若年層から中年層に拡大すれば、罹患率の低いこの年代は私的保険と自由診療市場に流れてしまう可能性が高くなるからです。高齢者の医療費を負担している若年から中年層が公的保険から抜けられると保険制度が維持できなくなります。


  • 予防重視に政策を転換


      これはお題目でしょう。予防重視はこれまで数限りなく唱えられてきましたが、実効性があった験しがありません。本気で予防するには、個人の克己が必要です。生活を送る上での楽しみの相当部分を健康のために我慢し続ける克己心の持続です。出来る人は昔からやっていますし、出来ない人は馬の耳に念仏で意味がありません。予防でなくとも治療として必要な節制すら守れない人が多いのが現実ですから、並べておいて予算確保に使おうぐらいが狙いと考えます。予防という言葉はそういう時に便利ですからね。


  • 予防から終末期に至るまでの総合的なビジョンの作成


      これは言うまでもなく在宅医療促進の事です。療養病床を大幅削減した後、その受け皿として在宅医療の整備が進まないと鉄面皮の厚生労働省でも責任問題が浮上します。総合科やら、24時間365日いつでも往診体制やら、昼間だけしか働かない開業医は怠け者だとかの政策の裏付けと考えるのが妥当です。
次に列挙されているのは現状の医療の問題点と考えれば良さそうです
  1. 地域や診療科ごとの医師の偏在に伴い、急性期医療が弱体化


      厚生労働省の金言である偏在が筆頭に掲げられています。もう何回もこの言葉の問題点については言及したのでホドホドにしておきますが、偏在という言葉の意味を辞書でも引いて学習していただきたいと思います。偏在とは偏って存在する事であり、偏りがあるが故に過剰部分と不足部分が存在する状態のことです。現在の医療において不足地域、不足部分は幾らでも上げられますが、過剰地域は国会質疑でも厚生労働大臣が立ち往生しています。

      厚生労働省が漠然と過剰地域として指す都市部ですが、都市部の筆頭である東京では医師が過剰で溢れているんでしょうか。限定された情報しか当ブログでは集められませんが、東京で医師が余っているという話は聞きません。むしろ東京でも不足している情報なら頻々と寄せられます。東京でも足りないのなら、どこに医師が過剰に偏在しているか。こんな単純な質問を国会質疑でやって欲しいですね。


  2. 医療に関する情報不足


      短い記事では「何の」情報が不足しているかわかりませんが、推測するに最近熱心な医師及び医療機関のランク付けではないかと考えます。ランク付の最大の問題点は、厚生労働省的発想のランク付けでは恣意的に作られた優良医療機関が粗製濫造されることです。それぐらい情報操作が容易であり、それによる最大のデメリットを蒙るのは患者であり、引き換えのメリットは非常に小さい事です。


  3. 時間外や夜間、休日診療の不足


      何度も算数をやりましたが、24時間365日コンビニ診療をやる余力は日本には全くありません。総ざらえしても全然医師が足りません。物理的に足り無いと言う事です。今の需要を賄うだけでも遥かに限界を超えた労働を強いられているのに、これ以上中途半端な机上の時間外体制で需要を喚起されたら吹き飛びます。おそらく吹き飛ばないと分からないのでしょうがね。


  4. 健康状態を総合的に診察する医師の不足


      だから総合医なんでしょうが、総合医幻想もここまでくれば害毒です。老人から子供までなんでも診察できてしまう総合医を作ると白書に書けば、そんなスーパーマン医師が大量生産されると考えている人間がおめでたいものです。質にはかなりムラがあるのは認めますが、開業の内科医は成人の総合医的役割を果たしています。開業の小児科医は子供の総合医的役割を果たしています。開業医は専門医でございと門戸を狭くしていたのでは食っていけないからです。

      それでも最低限、成人と子供ぐらいは分けたいところです。それを至極簡単に老人から子供まで総合せよとは、内科も小児科も舐められたものです。よほど馬鹿でもできる診療科と思われているのでしょう。小児科だって難しいのだぞって書いておきます。
次に方向性が3点です。
  • 入院から在宅まで切れ目のない医療の提供
  • 開業医に時間外診療を求める
  • 個人の健康情報のIT化
最後に
    1人あたりの医療費で1.5〜2倍、生活習慣病の受診率で2倍近くに達するなど都道府県間で生じている「医療格差」
分析に少しくたびれました。要するに目新しい事は何も書かれていませんし、現状の医療が改善するような現実的な施策はゼロという事です。とどのつまりが医療費削減ですから、どう書き繕っても医師の負担の増大と収入の低下です。負担増も収入減もPONRは越えていますし、それでもなんとか負担しようとする医師の意識のPONRも当の昔に通り過ぎています。

この現状の中で医師がどうしたらよいかのお話は、また機会がありましたら日を改めてしてみたいと思います。テーマだけは決めていまして「PONRを渡った医師にルビコン河はあるか?」です。書けなかったらゴメンナサイ。