総合医ね〜

いつも愛読させていただいている東京日和様から引用させて頂きます。

厚労省・医政局長 「総合医」の制度化、今年度中に着手
日刊薬業2007/04/11


 厚生労働省の松谷有希雄医政局長は8日、大阪市で開かれた日本医学会総会の特別シンポジウムで、「総合的な能力を備えた医師の養成に本腰を入れて考える必要がある」と述べ、全人的な医療を提供する「総合医」を養成するための制度化に今年度中に着手する考えを明らかにした。

 求められる「総合的な能力」の内容については、「新しくドクターになった人とすでにドクターになっている人、それぞれ考えなければならない」と説明し、既存の医師と今後医師になる人とでは異なる枠組みを想定していることを示した。

 さらに、同じ総合医でも「地域での総合医」と「病院内での総合医」の2通りのとらえ方があると解説し、両面にわたって検討を進めたいとした。

 2008年度から始まる後期高齢者医療制度については、「患者が最初にかかりつけ医を受診することが義務付けられるとフリーアクセスが制限される」との会場からの指摘に対し、私見と前置きした上で「そう極端な話にはならない」とし、「総合医がこの制度の中でどのような役割を担うかはこれからの議論」と説明した。また、後期高齢者診療報酬もすべてが包括化されることはないだろうと見通した。

たしか新研修医制度導入の大きな狙いの一つとしても総合医的な考えが含まれていたかと思います。思想というか理想は理解できます。一人の医師がすべての診療科をカバーできたら医師不足は一挙に解消できます。ただし「できたら」です。この短い記事では医政局長が目指す総合医の定義というか目標はわかりませんから、厚生労働省の資料をもう少し読み込む必要があるのですが、今朝は時間が無いので思うところを書いてみます。

この記事では総合医育成の考え方として、

  • 新しくドクターになった人
  • すでにドクターになっている人
この2つに分類されています。新しくドクターになった人とは、現在の研修医制度を念頭に置いた考えと解釈するのが妥当でしょう。現在の研修制度で基本的にローテートする診療科は、内科、外科、小児科、産婦人科、救急だったはずです。となると総合医が求められるのはこの5つの診療科の技量という事になります。見ただけで眩暈のしそうな手強い診療科だと思うのですが、総合医はそれぞれの診療科のどの程度の技量を要求されるのでしょうか。

ここで記事は総合医の分類を二つに分けています。

ここで考えておきたいのは、日医が厚生労働省の尻馬に乗ってはしゃいでいる研修医の僻地診療義務化との兼ね合いです。あくまでも私個人の見解ですが、厚生労働省の「偏在による医師不足」に対する解決策として、研修医だけではなくすべての医師の僻地強制派遣構想が根底にあると考えています。厚生労働省は帳簿の上の医師数を満遍なく全国に配置さえすれば「偏在による医師不足」は解消するはずだの路線を堅持しています。そうしなければ長年続けてきた「医師は足りており、余剰に向かっている」との政策が大嘘になり責任を問われるからです。

とは言うものの医師には専門があります。専門外の治療は医師といえども出来ることは限られています。いくら偏在解消のための強制配置を行なっても、僻地病院に精神科と眼科と皮膚科、それと放射線科あたりの医師ばかりがいても機能しません。それだけの診療科では肝心の内科、外科、さらには小児科、産科の医療を必要最低限レベルでも維持することは至難の業です。

そこでいわゆるメジャー科の技量を、すべての医師が身につけておくことが必要と考えていると思っています。つまりメジャー科の技量は、すべての医師の基礎技量として求めているのが総合医の概念かと考えています。メジャー科の技量があるのですから、どんなマイナー科の医師であっても、僻地強制配置すれば立ちどころに内科医になり、外科医として活躍し、小児科医として化け、分娩を余裕でこなすわけです。

表現がわかりにくいので言い直すと、医師たるものはまず内科、外科、小児科、産婦人科、救急がどれもこなせる総合医であることが大前提になり、これらの診療科を十全にこなせた上で自らの専門があるのがこれからの医師という事になります。内科、外科、小児科、産婦人科、小児科、救急が十全にできる総合医ですから、全国どこに強制配置しても数合わせだけで医師不足はたちまち解消する寸法です。

机上のプランとしては医師の人権さえ無視すれば完璧です。ただし、内科、外科、小児科、産婦人科、救急のそれぞれの一通りの技量って身につけるのに何年かかるのでしょうか。

私は小児科医ですので小児科の話をしてみれば、患者の大部分を占める「かぜ」の治療は、極論すれば何もしなくても治ります。では総合医の小児科分野はすぐに修了できるかといえばそうは問屋は卸しません。小児科医に求められる能力は、何もしなくても治る大部分の軽症者の中から重症者を見つけ出す能力です。重症者を治療する能力は別格の経験と知識が必要ですから、総合医に求められる最低限の能力と技量は、重症者を見つけ出す嗅覚と考えます。

ではどの程度の嗅覚が求められるかですが、一生のうちに1回クラスは目を瞑るとしても、せめて数年に1回クラス、最低限でも年に1回クラスは見つけ出す能力は必要です。それを身につけるには実際にそういう患者を診察、診断する経験を積む以外に方法はありません。教科書を読んだり、講義を聴いても絶対に身につくものではありません。後は基本的手技である小児薬用量、点滴、採血、ルンバール、挿管あたりですが、これも身につけようと思えば、せめて半年ぐらい連日手技に追い回されないと難しいと思います。

小児科分野で最低限を求めてもせめてこれぐらいは必要かと考えます。これ以下では訴訟地雷で順番に吹っ飛ばされていきます。小児科がこの程度であっても総合医にはまだ内科、外科、産婦人科、救急が残っています。そうなると一人前の総合医になるために最低でも10年程度は必要となります。そんな事をこれからの若い医師に一律に行なっていたら、今度は日本の専門医療が壊滅します。医療は伝承技術であり、10年も弟子が来なかったら伝承技術は衰微し滅んでしまいます。

もっともそこまで真面目に厚生労働省総合医の育成に励むとは考えていません。せいぜい前記と後期と合わせて5年で、十全たる総合医ができたとして認定する算段と考えています。認定さえすれば出来ようができまいが「できる」と厚生省の帳簿に記入され員数に数えられる事になります。

ここまで書くとfalcon171様から「昔もありましたよ」のツッコミが入るでしょうから、後は残しておきます。