rijin様の卓見

Dr.Pooh様の見えざる脅威に寄せられたrijin様のコメントに唸ってしまいした。Dr.Pooh様の元のエントリーは社会保障国民会議についてのもので、これも秀逸な論評なので御一読頂きたいのですが、ごく簡単にだけ紹介しておきます。

紹介と言っても引用記事を並べるだけなのですが、まず2/26付毎日新聞が、

 政府の社会保障国民会議吉川洋座長(東京大大学院教授)は26日の同会議分科会で、患者の自己負担分も含めた国民医療費(05年度33兆円)が今後も伸びていくことは認める一方、保険料と税で負担する公的医療費(同28兆円)については「範囲をどう見極めるか議論しなくてはいけない」と述べた。今後の医療費の増加分は民間保険などでまかない、公的保険の適用対象を大きくは広げない意向を示唆したものだ。

 吉川氏は医療技術の進歩が高齢化を促し、医療費を押し上げていると指摘。公的医療費でカバーする範囲については「国民のコンセンサス」としながらも、持続可能な制度にする必要があるとの認識を示した。

 委員からは保険診療保険外診療を併用する混合診療の解禁を求める意見も出た。吉川氏の姿勢は保険外診療の拡大を求める側を後押しする可能性もある。

まあ毎日ですからこんなものですが、吉川洋座長が公的医療費を縮小する意向を持っている事を報じています。続いて2/26付NIKKEI.NETから首相の意向として、

 福田康夫首相は26日の衆院予算委員会で、高齢化に伴い自然増が続く社会保障費について「今まで歳出改革の対象にせざるを得なかったが、ずっと続けるのは実際難しい。社会保障の質を下げることになるのでおのずと限界はある」との認識を示した。民主党前原誠司副代表が社会保障費について「無理に削るのが医療崩壊を加速させている。見直すべき時期だ」と指摘したことへの答弁。

 政府は「骨太方針2006」で、社会保障費の自然増について、5年間で1兆1000億円圧縮すると明記。08年度予算案でも薬価引き下げなどにより2200億円抑制していた。首相発言は直ちに目標を修正する意向を示したものではないとみられるが、今後の財政運営に影響を及ぼす可能性がある。

 首相は歳出削減の必要性を指摘しつつ「切りすぎであれば増やす方のきめ細かい点検も必要だ」「なかなか難しい段階に来ている認識は持っている」などと表明。年金制度のあり方を検討する政府の社会保障国民会議に対しても「そういう観点の議論もしてもらおうと思う」と語った。

首相は、社会保障費を削り続けるのは無理がありそうとの考えであることを窺わせます。その意向の上で、

    「切りすぎであれば増やす方のきめ細かい点検も必要だ」「なかなか難しい段階に来ている認識は持っている」
こう語り、社会保障会議の会議も、
    「そういう観点の議論もしてもらおうと思う」
はっきり物を言わない首相ですが、記事情報を信じれば首相が社会保障会議にどういう結論を望んでいるかが良く分かります。もちろん首相発言は様々な政治的意図が込められており額面通り必ずしも受け取れない部分もあります。それでも医療を含めた社会保障政策が選挙の動向に大きな影響力が出ている事は知っているはずですし、現政権の命運が次期総選挙にあるのは間違いありませんから、「骨太方針2006」のままでは危ないと考えても不思議ありません。

ここで話題となっている社会保障会議ですが、言うまでも無く御用会議です。首相が望む結論を出してくれるメンバーが首相の意向のみで集められます。とくに社会保障会議は首相が創設するもので、前々首相が作って暴走し始めている他の会議より意向がダイレクトに反映されます。

簡単にと言いながら長くなってしまいしたが、とくに首相の意向をとらえてのrijin様のコメントを紹介します。

 小泉政権の5年間で、医療・介護を含めた社会保障に詳しい与党、特に自民党代議士のほとんどが影響力を失っています。

 しかしながら、団塊の世代が2012年に65歳以上の退職年齢に突入し始め、投票行動は大きく変わってくることが避けられません。

 政権を失いたくなければ大きな政策変更…というか、自民党にとっては回帰に過ぎないわけですが…が必要で、安倍政権が短命に終わったのも、その文脈で読む必要があるかと思います。

 冷や飯喰わせている人材の中にいる社会保障通の影響力をどう回復させるのかが、党にとって現在最も重要な問題です。

 まだ参議院で済んでいる間に何とかすれば、政党再編成を含めてエスタブリッシュメントの生き残り策はまだまだあると思いますが、下手に固執すると、基盤ごと倒れることになりかねません。

 現政権が国民会議に期待したことは、そういうわけで政策変更の露払いだったはずです。しかしながら、その空気の読めない人がいるようです。御用学者の風上にも置けません。このままなら何らかの問題を持ち出されて、排除されることになるでしょう。

…宿舎と旅費と離婚問題という前例があったじゃありませんか。まあ、取り除くに難しいということはあるかも知れませんが、であれば、単に御座敷がかからなくなるだけのことです。

じつに卓見でとくに、

    現政権が国民会議に期待したことは、そういうわけで政策変更の露払いだったはずです。しかしながら、その空気の読めない人がいるようです。
座長の吉川洋氏は元経済諮問会議民間議員であり、これまでは新自由主義路線礼賛で食ってきた方です。首相の意向を読めば、そういう人物が路線転換の旗振りをしてくれれば、より効果的の意図が込められているとも考えます。それが空気を読めずに従来の路線に誘導しようとすれば、
    何らかの問題を持ち出されて、排除されることになるでしょう
御用学者はしょせん幇間みたいなものですから、役に立たないと判断されれば放逐されます。それこそ代わりは「なんぼでもいる」の世界だからです。政府のこの手の会議に名を連ねて名を売りたい学者はゴマンといます。次の政権でも御用学者として生き残りたいのなら、素早く首相の意向を読み取らないと物の役に立ちません。そうでない御用学者は、
    御用学者の風上にも置けません
ほとほと感嘆した卓見なのですが、少しだけ異論を差し挟みます。異論と言うよりrijin様が書き足りなかった分と表現した方が正確かと思います。NIKKEI.NET記事にあった首相の路線転換発言ですが、やはり額面通り受け取るのは危険かと思います。社会保障への不満は総選挙の動向に大きな影響力を持つ可能性はあります。だから路線転換をしようと考えるところまでは良いと思います。

この路線転換がどこまで本気かが問題です。首相は選挙で世論の支持が必要ですが、選挙の時以外は財界の支持が必要です。財界の支持も新自由主義路線で勝ち組企業になったところの支持が必要です。この支持が無いと政権与党になる旨みが半減します。路線転換は財界支持を失う公算が高くなります。

そうなると首相の真意は年内に有力視されている選挙対策としての路線転換の姿勢を示す事が重要になります。ここで重要なのは社会保障だけ切り離して会議を作ったことで、経済全般から考える経済諮問会議とは別立てです。首相の計算として、社会保障国民会議で路線転換を強くアピールして選挙への世論作りを行い、選挙後に財界の意向を濃厚に反映する経済諮問会議でこれをひっくり返すではないでしょうか。

そうすれば選挙に勝って政権の基盤を確立し、選挙後には財界の意向を損ねないように路線を戻すのが、見かけ上首相の心変わりではなく「民意風」で行うことができます。実に冷静な計算です。

そこまで考えると社会保障国民会議は出来るだけ派手に路線転換をアピールする必要があります。経済政策全般ではなく社会保障だけに限った選挙用の路線転換ですから、ドンドンと連発花火を選挙に向かって次々と打ち上げてくれなければ意味がありません。そこまでの文脈で考えても吉川洋座長の発言は空気を読めていません。首相の微妙な意向を汲み取れない御用学者はやはり不要な存在となります。

やっぱり

    御用学者の風上にも置けません
考えていたら余計に虚しくなってしまいました。