朝三暮四

安倍前首相の突然の辞任に伴い急遽行なわれた自民党総裁選挙ですが、この時に福田氏が掲げた公約に

これについては公務員叩きに物申す!−現職公務員の妄言様からTBを頂き、趣旨を取り違えているとの指摘がありました。まず今朝見たらアクセスできないのですが、福田氏のHPにあったとされた公約には、
    「高齢者医療費負担増の凍結を検討し、医師不足解消のための抜本的措置を講ずる」
「制度の凍結」ではなく「負担増の凍結」が公約であるとの事です。総裁選中のNIKKEI.NETにも

自民党総裁選に出馬した福田康夫官房長官政権公約が15日、明らかになった。医療制度改革に関連し、来年4月から70―74歳の低所得者らの窓口負担が1割から2割に上がる措置の凍結を検討。格差問題の対策では、中小企業や地方活性化に向けた支援税制の拡充を盛り込んだ。16日に公表する。

この記事では

    来年4月から70―74歳の低所得者らの窓口負担が1割から2割に上がる措置の凍結を検討
この部分のみが「高齢者医療費負担増の凍結」と報じられています。ただ福田氏の公約の「凍結」の表現は玉虫色の面があり、具体的にどう凍結するかについては総裁戦中は最後まで明言を避けていたかと思います。そのため連立与党である公明党の北側幹事長は公明党HP

国民の皆さまが求めている問題、例えば、(新たな負担増が予定されている75歳以上を対象とした後期)高齢者医療制度も来年4月から始まるが、こうした問題についても見直しが必要だと思う。

この発言は「負担増の凍結」ではなく「制度の見直し」が必要との見解と解釈できます。

総裁選中の与党側の高齢者医療制度への姿勢として、

  • 福田氏は玉虫色に「高齢者医療制度の凍結」を公約した。
  • 公明党は「制度の見直し」に言及した。
この議論は総裁選中に深まらなかったので、福田氏の真意は「負担増の凍結」にあるらしいぐらいが情報では精一杯です。

ここまでは福田氏が首相就任前の動きです。福田氏が首相に就任し国会論戦が始まると、玉虫色では凍結問題は放置できませんので動きが出てきます。10/3付のキャリアブレイン民主党鳩山幹事長がまず正論を述べています。

 鳩山幹事長は、高齢者医療制度について「総裁選で“凍結の検討”と言っていたものが、所信表明では“在り方の検討”となっており、早くも後退していた」と指摘。「そもそも高齢者医療の負担増は与党が昨年強行採決したものであり、民主党は反対してきた。凍結ではなく、まずは中止し、これまでの過ちを認め、医療や介護など高齢者の生活全体を改善し、再生する観点で抜本的に見直すべき」と述べた。

鳩山幹事長の指摘のポイントは、、

    高齢者医療の負担増はそもそも与党が強行採決したものである。
議会運営において強行採決を取る事は、出来るだけ避けるのがマナーとされています。そりゃそうで、一から十まで強行採決で事を決すれば議会審議は不要となります。民主主義のルールの一つである少数意見の尊重が保証されなくなるからです。それでも審議が紛糾すれば国政全体の運営を鑑みて出す切り札が強行採決です。国会決議、国会承認はどれを取っても重いものですが、強行採決まで行なって可決させたものは与党にとって軽々しいものではないとの指摘です。

現在の政治情勢は参議院において与野党逆転状態が固定していますので、たかが野党の発言と軽視できない重さがあるのは周知の通りです。べつに鳩山幹事長の発言を受けてではないでしょうが、自民、公明の与党が「凍結問題」のプロジェクトチームを作ったことが報じられています。これは勤務医 開業つれづれ日記様より引用します。

凍結は6カ月-1年程度に 高齢者医療費負担増で与党

記事:共同通信社
提供:共同通信社

【2007年10月3日】
http://www.m3.com/news/news.jsp?sourceType=GENERAL&articleId=56583

 自民、公明両党は2日、高齢者医療費の負担増凍結に向けた具体策を検討するプロジェクトチームの初会合を国会内で開いた。

 会合では「高齢者の負担軽減が必要だが、医療制度改革の流れは堅持していくべきだ」との意見が大勢を占めた。このため、来年4月に予定されている70-74歳の窓口負担の引き上げと75歳以上の新たな保険料徴収について、凍結期間は6カ月から1年程度にとどめる方向で調整が進む見通しとなった。今月中に結論をまとめる。

 凍結に伴い必要となる財源は、1年間では約1500億円となることから、社会保障費の自然増分の2200億円削減を求められている2008年度予算で確保するのは困難で、07年度補正予算編成などの措置が必要との認識で一致した。ただ、法改正により制度の抜本的な見直しを求める声も一部にあることから、プロジェクトチームで引き続き対応を検討する

初会合で、このプロジェクトチームの基本方針が明らかにされています。

    「高齢者の負担軽減が必要だが、医療制度改革の流れは堅持していくべきだ」
医療制度改革なんて言葉が麗々しく書かれていますが、この言葉の意味するものは「医療費大幅削減路線」です。目に見える形で具体的なものとしては5年間で1.1兆円の機械的な医療費削減であり、直近のものとして来年度の2200億円の医療費削減です。これはまず堅持すると定義つけています。この政策が行なわれた末にあるものについては今日は論じません。

そうなると高齢者医療の負担軽減はこの医療制度化改革に全く反する事になりますが、なんと言っても首相の公約ですから、全面否定で面子を潰すわけには行きません。そのため、

    凍結期間は6カ月から1年程度にとどめる
いみじくも中間管理職様が御指摘の通り、露骨なぐらいの選挙対策に見えます。衆議院解散総選挙については早期に行わざるを得ない政治情勢です。いつになるかは緊迫した政治情勢が続いていますので予断を許しませんし、年内説、新年早々説もあり、そうなる事も十分可能性としてあります。与党とて任期満了まで解散せずにいられるとはさすがに考えていないようです。

与党の理想のシナリオは来春の予算案成立後と伝えられています。成立後どれぐらいかもわかりませんが、どう転んでも来年中とは考えていて不思議ありません。高齢者負担増は凍結がなければ4月から施行され、このままでは高齢者の痛みの怨嗟の声の中で総選挙を戦う羽目になります。それを避けるためには凍結が必要です。

6ヶ月案は来春から夏ごろまでに総選挙がある想定でしょうし、1年案はもう少し総選挙が延びた時、もしくは総選挙中に「与党は選挙が終わればトットと凍結を打ち切るつもりだ」の非難回避のためと考えられます。

朝三暮四という諺があります。

宋の国にさる好きのおじさんがいて、さるにえさをやっていたのじゃ。しかし、えさをやりすぎて、おじさんは貧乏になってしまったのじゃ。

そこでおじさんはさるたちにこう言ったのじゃ。

    「今日からえさは、どんぐりを朝に3つ、日暮れに4つにするからな。」
えさを減らされて、さるたちは怒ったのじゃ。
    「じゃあ、朝に4つ、日暮れに3つならどうだ?」
そう言うと、さるたちは喜んで、おとなしくなったのじゃ。

このことから、目先の違いにとらわれて、全体のことに気づかないことや、知恵のある人が、知恵のない人をまるめこむことを、『朝三暮四』というようになったのじゃ。

よく似ていると思うのですが違うのですかね。