WEは残業代定額制度?

WEは冷静にその価値を分析すると評価すべき部分はあるはずです。だから少数派とは言え導入賛成論もあります。経営者ではなく現場の従業員の声としてあることも認めます。ただどんな制度でもそうですが、制度は運用するものの精神で性格がガラっと変わります。WEの場合、運用者は言うまでもなく経営者です。従業員にとって会社とは自由に退職できる権利だけはありますが、その他は組織の論理に服従しなければならないところです。組織の論理は組織の秩序統制に必要なものではありますが、一面理不尽な事も多々あります。

WEが従業員にとってメリット多く運用されるか、それとも従業員を絞り上げるために存在するのかは、運用者である経営者の腹一つで決まります。私がWE導入に反対の立場なのは、医師にとっては現在の職場環境の劣悪さを是認し、さらに助長するものにしか感じられなからです。他業種の現状は正直なところよくわかりませんが、WEの発動源たる大企業の経営者の言動を見るとどうにも信用が出来ません。

WEを発案し、その強力な政治力によって導入をゴリ押ししている有力経営者は、あまりにもあからさまに「賃下げ」と「無限の長時間労働」の獲得の目的が剥き出しです。WEは適用される職種、立場によって功罪相半ばするんじゃないかとは考えているのですが、肝心の運用者の親玉みたいな連中が真意を隠そうともしないのには少し驚かされます。通常ならもう少し言いようもあるとは思うのですが、正直と言うか、顧慮しなければならない勢力がもう日本には無いと多寡を括っているのか言いたい放題の印象を受けます。

昨日のコメント欄に書いた事の再掲になりますが、平成19年第1回経済財政諮問会議議事要旨で注目された丹羽議員の発言の前に八代議員の発言があります。

わかりやすいという点では、労働市場改革も生産性向上に不可欠だが、なかなか国民に理解していただけない。今回のホワイトカラーエグゼンプションもそうだが、反対派が「残業代ゼロ法案」とワンフレーズで表現した。これに対してちゃんとした対応がとられていない。

私は早くから、この前の日曜日に大田議員がテレビで説明されたように、これは「残業の定額払い法案」であるというべきと考えていた。いわば管理職手当のように一定額を最初から出すことによって、それ以上残業が長くても短くても変わらないというのが本来の趣旨であるわけで、なぜこういうふうにわかりやすく言えないのか。

これからは国民の理解を得るためにも、できるだけわかりやすい説明をする。労働市場改革は決して企業の利益のためではなくて、労働者自身の利益のためにやるのだということを、是非、諮問会議の下の労働市場改革専門調査会でも訴えていきたい。

発言したのは「正社員の待遇を非正規社員まで引き下げて格差解消をしなければならない」で有名になった大学教授です。そういう人物の発言とのバイアスがあっての受け取り様になってしますが、こういう人物がいくら

    労働市場改革は決して企業の利益のためではなくて、労働者自身の利益のためにやるのだ」
と力説されても真の目的は「正社員の待遇引き下げ」以外にどう解釈すればよいのでしょうか。そうなれば同じように強調している
    「これは「残業の定額払い法案」であるというべきと考えていた」
医療界においては高邁な目的とは別に「定額制」とは収入減と同義語です。また医療界でなくとも携帯などで「定額制」と聞いて値上げと感じる人間は少なく、「お得、割安」に通じる言葉です。この辺の言葉遣いのセンスの無さは置いておくとしても、
    「一定額を最初から出すことによって、それ以上残業が長くても短くても変わらないというのが本来の趣旨」
これも悪いですが、これまでの経過からすると良い意味に受け取るのに非常な努力を要します。悪評高い年収条件は現在棚上げ状態ですが、経団連の原案は400万です。これは経団連の剥きだしの本音が図らずも表れているかと考えます。経営者として年間400万も支払ってやれば、1年間の残業手当なんか十分「定額制」のうちに含まれると受け取ってしまいます。また「定額制」の使用者すなわち経営者の感覚として、「定額制」ならばトコトン使わなければ損だの観念がないかも次に当然考えられます。定額制は使えば使うほどお得な制度であることは今や常識です。

経営者たるもの生産性を上げる事は経営の至上課題です。生産性を上げるとは従業員の仕事量を増やす事に通じます。ここで100の仕事を行なうとして、それを従業員がWE下で残業無しで達成したとします。その状態は従業員にWEのメリットを十分もたらす事になります。それで経営者が満足すればなんの問題も無いのですが、そんな事で満足する経営者はまずいないと思います。次に考えるのは「これでは定額制の残業代が無駄な投資になっている」と。

その思考延長線上で次に考えるのは、仕事量を増やすか、従業員を減らすかです。仕事が増えた分もしくは従業員が減った分の仕事は、「定額制」の残業代で賄えば新たな出費は生じません。別に経営者の悪口を言う訳ではありませんが、普通の経営者であるならそう考えるのが当然です。はっきり言えばWEで従業員にメリットをもたらす仕事量しか行なえない経営者は無能の烙印を押されかねません。ましてやそんなWEの使い方をして経営が傾こうものなら笑いものどころか社会批判の対象になってしまいます。

WEは本当はメリットもある人も出て来るはずの制度なんでしょうが、メリットは制度の運用者の腹一つで決まり、なおかつ運用者の腹はどう見ても黒そうだと判断せざるを得ません。少なくとも私はそうしか受け取り様がありません。