生温かく読む記事

2007年5月15日付読売新聞より、

後発薬普及などで医療費6500億円削減…諮問会議議員

 八代尚宏国際基督教大教授ら経済財政諮問会議の民間議員は14日、新薬と同様の効果が見込めて価格が安い後発医薬品の普及を図ることなどで、2011年度までの5年間で、国と地方を含めた医療費に約6500億円の削減効果が見込めるとの試算をまとめた。

 15日に社会保障制度改革などをテーマに開かれる同会議で示す。民間議員らは、厚生労働省に対し、効率化に向けた具体的な数値目標を迫る方針だ。

 試算では、後発医薬品の利用率(数量ベース)を04年度の16・8%から欧米に近い30%に引き上げれば、5000億円の歳出削減効果があるとした。

 公立病院の医療収入に対する人件費率は、05年の54・5%から民間病院並みの52・1%に引き下げることで1400億円削減できるとした。医療機関の診療報酬明細書(レセプト)についても、電子化を進めれば113億円が削減できると試算した。

この記事が目を引いたのは医療関連記事であると言うだけではなく、記事の本文の冒頭に出てくる経済諮問会議の民間議員が余りにも著名な方だからです。ネット医師だけでなく会社員の方々にも忘れられないあの有名な主張、

この発言で一躍世にその名前を轟かせた八代尚宏国際基督教大教授の御提言とあれば取り上げざるを得ません。この発言のお蔭で八代教授は経済諮問会議の民間議員でもっとも高名になっています。ちなみに八代教授に次ぐ著名な方は、もちろん丹羽宇一郎伊藤忠商事株式会社取締役会長で、寄り道ですが丹羽会長の存在を世に知らしめた発言は平成19年第1回経済財政諮問会議議事要旨での、

ホワイトカラーエグゼンプションについては、どうも風潮として経営者が悪人でいつもいじめているようにとられがちだが、そういうことではない。

ホワイトカラーエグゼンプションの本当の趣旨は、大手企業の大部分がそうだが、若い人でも、残業代は要らないから仕事をもっと早くスキルを身につけてやりたい、土日でも残業代は要らないから出社したいという人がたくさんいる。しかし、経営者がしてもらっては困ると言っている。なぜなら出社されると残業代を全部払わなければいけない。家で仕事をするよりも、会社に来て色々な資料もあるし、これで自分が人よりも早く仕事を覚えて仕事をしたいんだと。

それを今は仕事をするなと言っている。ホワイトカラーエグゼンプションの制度がないからだ。だから、少なくとも土日だけはホワイトカラーエグゼンプションで、残業代は要らないから仕事をさせてくださいという人に、仕事をするなという経済の仕組みというのは実におかしい。これを何とかしてあげたい。

この従業員思いの発言に涙を流した会社員は数え切れないぐらいおられるかと思います。もちろんこの会議にも八代教授は出席し、キチンとこの発言をフォローする発言を行なっています。寄り道ついでですから紹介しておきます。

わかりやすいという点では、労働市場改革も生産性向上に不可欠だが、なかなか国民に理解していただけない。今回のホワイトカラーエグゼンプションもそうだが、反対派が「残業代ゼロ法案」とワンフレーズで表現した。これに対してちゃんとした対応がとられていない。

私は早くから、この前の日曜日に大田議員がテレビで説明されたように、これは「残業の定額払い法案」であるというべきと考えていた。いわば管理職手当のように一定額を最初から出すことによって、それ以上残業が長くても短くても変わらないというのが本来の趣旨であるわけで、なぜこういうふうにわかりやすく言えないのか。

これからは国民の理解を得るためにも、できるだけわかりやすい説明をする。労働市場改革は決して企業の利益のためではなくて、労働者自身の利益のためにやるのだということを、是非、諮問会議の下の労働市場改革専門調査会でも訴えていきたい。

この辺の発言に対する評価は既に散々行なっているので今日は遠慮しておきます。これも既出ですが八代教授が経済諮問会議でどのような位置におられるかを推測させるかは第2回主要官製市場改革WG議事概要によく現れています。これは生の議事録ではなく概要として編集された上での正式記録です。主要な発言を拾うと

  • ヒアリング対象者の論文を事務局が集めて委員に事前勉強させろ。時間を節約したい。公開討論については、総理から、意見の対立を明確にしろ、という明確な指示があり、マスコミに当会議についての記事を書かせることが必要。


  • 福祉は公開討論必要ない。教育と医療を公開討論する。論点整理の資料ぐらいは事務局の方で気を利かせて用意しろ。


  • 病院協会を呼んでもいい。厚労省は当事者能力ない。


  • 昨年までの資料は沢山あるはずではないか。そんなことを参事官に言われるのは心外。


  • 宮内議長に出てもらえるか。医師会は桜井さんがどうせ来るのだろう。


  • そんなことしてたら秋になる。7月には間に合わない。
ざっとそういう立場におられると理解できるかと思います。

八代教授の考え方、経済諮問会議での存在位置をごく簡単に説明するだけでえらい寄り道になってしまいましたが、記事自体は大したものでは無いのでエエかと思います。そういう訳でようやく記事の分析に取り掛かります。記事のポイントと私の見解を一遍にしておきます。その程度の簡単な記事ですから。

  • 後発医薬品の利用率(数量ベース)を04年度の16.8%から欧米に近い30%に引き上げれば、5000億円の歳出削減効果があるとした


      これがどれだけ真面目な提言かは不明です。医学的に後発品が先発品にはたして同等の効果があるかどうかの議論は今日はやめておきます。それより問題は莫大な資金力、政治力を誇る製薬業界がこんな提案を喜んで受けるかどうかです。5000億円の削減分は先発メーカーの売り上げから消えるわけであり、利益追求集団である製薬会社としては100億や200億の金を使って阻止しても余裕で算盤が合います。もっと言えば1000億使っても惜しくないかもしれません。

      もちろん経済諮問会議の財界議員は経団連等の「お仲間」です。特定のお仲間を真剣に利益減に追い込む政策に諸手を上げて賛成して押しきるとはちょっと考えられません。おそらく「そういう政策にして減るはずだったのに、そうならないのは医者が悪い」のシナリオにするとぐらいにしか考えられません。打ち上げておくだけの花火みたいなものと考えています。


  • 公立病院の医療収入に対する人件費率は、05年の54.5%から民間病院並みの52.1%に引き下げることで1400億円削減できるとした


      こっちが本丸でしょう。2.4%の人件費節約はやろうと思えばすぐに可能です。この公立病院の人件費節減の影響をモロに被るのはどこかになります。病院職員は大雑把に分けて医師、コメディカル、事務ですが、コメディカル、事務には強力な組合が控えています。地方公立病院ではこれらの職員は地方の中核産業の貴重な働き口として存在している側面もあります。地元採用が多いコメディカル、事務の給与を削減する事は政治的にも地方経済的にもおもしろくありませんし、労使交渉も厄介です。

      そうなればもっとも削減しやすいのは医師となります。のぢぎく県では既に類似の事が行なわれています。これを全国に展開しようとの算段かと思います。また誰の発言かは記事に掲載されていませんでしたが、医師不足に悩む地方公立病院が高給にて医師を招聘しようとする動きを「無駄な出費であり、経費節減の対象」と断言した経済諮問会議の議員もいるようですから、粛々と断行される可能性は大です。

      たしか厚生労働省の医師確保対策のひとつに国立病院機構に医師をプールしてそこから全国の医師不足地域に派遣する構想がありましたが、ただでも安い国立病院機構の給与を削減したら、ただでも少ない医師がもっと減ると思うのは私だけでしょうか。まあ、どっちゃでも良い事ですし、余計な心配ですけどね。


  • 医療機関の診療報酬明細書(レセプト)についても、電子化を進めれば113億円が削減できると試算した


      これについては既に各所で論議が行なわれているので深くは触れませんが、大甘の机上の試算でたったの113億円ですか。レセプトオンラインについても既に書き散らしてあるのであまり触れませんが、全国の病院、診療所がレセプトオンラインに対応するだけで何千億円の出費が強いられると考えられます。うちだって100万円以上は軽く必要です。それだけやって113億円、誰が儲かるなんて書くのもアホらしい話です。
以上、今朝目についた生温かい記事のお話でした。