増税論議

誰が悪いかの責任論を展開したいぐらいですが、政府には天文学的な財政赤字があります。これをなんとかしなければならないのは誰でも分かります。宝くじでも当たって一挙に雲霧消散なんて事は国家ではありえないので、入ってくる収入で返済しなければなりません。収入とは歳入≒税収になります。現在の収入でも地道に返還すれば何年か後に目途がつくようなものであれば良いのですが、借金の額は聞いただけで天文学的です。

900兆円に近づく借金を一般会計80兆円程度で返済しようと聞くだけで絶望感に浸りますし、特別会計は何とかならんかと考えますが、どうにもこうにも聖域中の聖域らしく、借金返済の元手は一般会計で行なう建前は変わり様が無いようです。

借金を少しでも楽に返済しようと思えば税収を増やす事です。借金返済の元手が増えればそれだけラクになると言う理屈です。そこで税収アップの方策で政府部内に微妙な路線対立があるようです。もちろん来夏の参院議員選挙をにらんでいますから、後から見れば同じ穴のムジナかもしれませんが、それでも路線対立はあるようです。

  • 消費税アップ派
  • 景気振興派
消費税アップ派はある意味非常に判り安い主張です。もうこれしかないだろうと言う意見です。ただし消費税アップは導入した竹下政権も税率をアップした橋本政権も吹き飛ばされたぐらいの劇薬手法です。どんな理屈を聞かされようが国民の総スカンを食らう政策ですので、現首相が退陣程度では事が収まらず、前回総選挙の裏返しの結果が与党を襲う事さえ十分考えられます。

景気振興派は景気さえ良くなれば税収はドンドン増え、消費税なんて言う劇薬を使わずとも税収は確保できると言う考えです。この中には景気振興によるインフレも計算の中に入っており、インフレが適当に進めば借金も自然に目減りするという考えも含まれています。インフレが数%進めば借金も数パーセント自然に減ると言う事です。もう少し簡単に言えば、物価が二倍になれば借金は半分に減り、税収が二倍になると言う理屈と理解してもそんなに間違っていないかと思います。

どっちがマシな議論かは一長一短でしょうし、生活が苦しくなりそうなのはどちらも似たり寄ったりの気もします。漠然とした感想では景気振興派のほうがマシなような気もしないでもありません。ただ政府の他の政策をあわせて考えてみれば違った見方も出来そうです。

消費税派が納税者として想定しているのはあくまでも個人です。消費税は大衆課税と言われるぐらい庶民の暮らしを直撃するのですが、消費税を沢山集めようとすれば庶民の懐に余力がないと難しくなります。消費税はお金が動けば動くほど増えますから、出来るだけ沢山の人がお金を持って買い物をしてくれない事には税収は増えません。上手に説明ができないのですが、個人が消費をしてもらうために企業に富を蓄えさせるのではなく、個人に富を積極的に分配する政策を同時に行わないと、消費税の効果を十分に発揮できないと考えます。

景気振興派の課税対象は法人です。法人がバカスカ儲けて、そこから法人税収がアップさせるのが狙いになります。景気を振興させるために法人税引き下げが論議になっているのも、法人税が下がった分以上に景気が振興して企業に富が集まるのを期待した政策と見ます。法人が儲かるのが主眼ですから、法人に富を集積させるように個人への分配を極力抑えようとするのも正しい政策になります。ホワイトカラー・エキザンプションも正社員の給与を非正規社員の水準まで引き下げろの経済諮問会議の提言もそれに沿ったものかと考えます。景気振興派では企業が異常に儲からないと計算どおり税収が期待できないからです。

どちらの政策を財界が支持するかと言えば、景気振興派でしょう。法人税が下がり、景気振興により収益が期待できるのなら誰だってもろ手を上げて賛成します。そのうえ、悩みのタネの人件費も政府が音頭をとって公式に大幅賃下げできる環境を構築してくれるのですから、政治献金をいくら払っても全然惜しくないかと考えます。

そういう見方をすれば消費税の方がマシになります。ではでは本当に消費税の方がマシかと言われれば、この両派は最終的に同じ穴のムジナであるとの疑念はついてまわります。つまり景気振興策で企業を肥え太らせる政策を推進した後、さらに消費税を上乗せする政策をする可能性が十分あると言う事です。

景気振興策では個人の収入はやせ細ります。消費税最大の欠点である景気に水をかける影響も、個人消費が限界まで落ち込んでいればそれ以上落ち込みようが無いので、別に消費税を増やしても景気には関係ありません。個人消費がやせ細った分は税率の上げ幅で調整可能で、残っている消費は生活必要物資の購入部分ですから、確実に税収を期待できると言うわけです。

まあまあこんなに単純に経済が動くわけではありませんし、政治も変動する要素が山ほどありますから来年はどうなるか分かりませんが、天文学的な借金の重みはこれから長きに渡ってロクな影響を及ぼす事は無いことだけは間違いないでしょう。