ようわからん

高橋洋一ニュースの深層」の大増税路線に騙されるな!東電を潰さない政府案では国民負担10兆円、解体すれば0.9兆円で済む、遅れる復興の裏で補償問題だけが進む不思議から少し引用します。理屈はリンク先を読んで頂きたいのですが、テーマとされているのは東電の賠償問題です。東電単独では払いきれないので、これをどういう手法で調達するかの問題です。

高橋氏の解説するところによりますと、

  • 政府案


      東電を温存しながらの増税による賠償資金調達


  • 高橋氏案


      東電を解体した上での賠償資金調達
高橋氏は賠償金総額を10兆円程度と仮定していますが、イメージ図として、
こうすれば政府案の8.1兆円に較べ、わずか0.9兆円の国民負担で済むというものです。0.9兆円で済むのなら本当に目出度いのですが、この差が出る原因としては、賠償資金に社債と株主が加わるところに見えます。二つを合わせると7.2兆円になりますから、これが国民負担になるかならないかの差と理解しても良さそうです。

ここでハッキリ断っておきますが、お世辞にも会計学にも経済学にも詳しいとは言えないので、あくまでも素人の疑問程度に取り扱って欲しいと思います。この社債と株主部分の高橋氏の解説ですが、

負担関係をきっちり把握するには、東電のバランスシートを見なければいけない。資産は13.2兆円、負債のうち流動負債1.9兆円、固定負債8.8兆円(うち社債4.7兆円)、純資産2.5兆円(2010年3月末。連結ベース)。

流動負債と固定負債といわれてもピンと来ないのですが、マネー辞典の解説で固定負債を引用しておけば、

貸借対照表における負債の部の1つで、負債から流動負債(短期間内に支払期限がくる負債)を除いた勘定科目。支払期限が、1年以上経過した後に到来する負債のこと。

具体的には社債転換社債、返済期限が1年以上の長期借入金、1年以上先に支払われる予定の退職給与引当金(従業員への退職一時金や、退職年金のための引当金)などがある。

このため貸借対照表における「負債」は、上記の「固定負債」と前述の「流動負債」の2つに分類される。ちなみに流動負債とは具体的に買掛金、支払手形、未払金、1年以内に返済する短期借入金などを指す。

素人ですから単純に解釈しますが、

    流動負債:短期借入金
    固定負債:長期借入金
これぐらいでもそんなに的外れではないと思います。要は借金なんですが、この固定負債のうち社債分は賠償資金になりうるとしています。また株主は株による資金調達部分として良いと思うのですが、これも賠償資金になりうるとしています。ここの高橋氏の解説は、

 かりに個人であっても、資本市場のルールではいざというとき株式や社債は保護されない。こんな資本市場のルールを無視すると、世界から相手にされなくなる。

 素人は、東電の電力事情を継続するために、東電を温存しなければいけないと思い込むだろう。しかし、東電向けの通常流動債権のみを保護すれば足りる。

つまり会社更生法なりで、株券と社債を紙くずにして、株券や社債で集めた資金を賠償に回すの主張と理解すれば良さそうです。株券や社債を発行するに当たって集めた資金があるはずだから、これを賠償資金に回すとぐらいに言えばよいでしょうか。

確かに東電は震災が来るまで優良企業でしたから、実は粉飾決算で株で集めた資金も、社債で集めた資金も使い果たしているはたぶん無いでしょう。ですので、これを賠償資金に活用するのは案としてなんとか理解できます。ただ素人の疑問なんですが、株で集めた資金も、社債で集めた資金も、それこそキャッシュで7.2兆円もあるんだろうかは素朴な疑問です。

零細企業の感覚に過ぎないのですが、借金してまで作った資金は、金利を含めてさらに利益の生じる投資に使います。長期借入金なら長期で利益を生じる投資に使っているはずで、賠償金としてのキャッシュに変換できるのだろうかです。この辺は経理上でわざと借金をして税金対策にすると言うのもありますからなんともいえませんが、本当に素朴な疑問です。

それともう一つ良く判らないのは、固定負債のうち社債以外の借入金はなぜにチャラにできないのだろうです。高橋氏の案では0.9兆円の国民負担に減るとはなっていますが、残りの固定負債から0.9兆円の債権放棄があれば、国民負担はゼロになりそうに見えますが、そこはどうなんだろうと言うところです。この辺はバランスシートを読まないといけないんでしょうが、多分キャッシュはあるぐらいにしておきます。


株券と社債を紙くずにして、そこからの借金(株は借金とは言わないと思いますが・・・)として借りていた資金を賠償原資にするとして、それで影響が出るのは株主や社債購入者になります。株や社債の購入も一種の投資ですからリスクは付き物であり、原発事故による巨額の賠償金が突然生じたからには、投資者は当然リスクを負うべきだの考えかとしても良さそうです。

私は東電の株も社債も持っていませんから、たとえ紙くずになっても痛くも痒くもありませんが、気になるのはその総額である7.2兆円です。小さな金額でないから賠償原資になるのですが、投資した側の影響はどうだろうかはやはり心配になります。

高橋氏の案では社債や株主以外の国民負担は軽くはなりますが、一方で巨額の賠償金を投資者だけが負担する様にも見えます。投資とはそんなものだと言えばそれまでですが、金額が大きいだけに小口の投資者が「チョット痛かった」程度で済む話になるかどうかは心配になる点です。

東電の株や社債は、おそらくですが投資する側にとってもリスクの低い優良な投資先と判断していたとしてもよく、東電投資分の損失は非常な痛手になると考えられます。同じ投資でもハイ・リスクのものとロー・リスクのところでは、損失に対する備えが違うと言う事です。ハイリスクのところが損失を出しても、ある程度は織り込み済みで対応できても、ローリスクのところは直撃みたいな感じです。

今のまままでも株価の下落や社債の格付けの低下で少なからぬ損害を蒙っていますが、本当に紙くずになればどうであろうです。高橋氏はアッサリと政府案では、

これで利益を得る人は、東電株主や社債権者だ。個人株主や個人社債者がいるので救済だというのが表向きの理由であるが、実は金融機関の救済の色合いが濃い。

株主構成や社債購入者リストを調べる気力も無いので、この話を信じれば、金融機関の救済が政府案のキモとしているようです。つう事はもっとも痛手を蒙るのが金融機関と言う事にも通じます。金融機関とて不沈艦で無いのはバブル崩壊のときに目の当たりにしましたが、震災復興にあたり金融機関の経営が揺らぐリスクはどの程度評価しているのかは気になるところです。

東電の賠償額の国民負担は減じても、またぞろ金融機関救済に巨額の予算が必要となれば、回りまわってあんまり変わらないんじゃないかの憶測も出てこない訳でもありません。


高橋氏の主張も一理はあります。サラッと読めばフムフムと共鳴しそうな主張で、私のような東電株も社債ももっていない大多数の人間なら、「そうだ、そうだ」と言いたくなりそうなものです。上でチョコットだけ絡みましたが、あんなのは会計学や経済学の素人の戯言程度のレベルのお話です。

実は一番気になるのは話が旨過ぎる点です。こういう難問に関して、そんなに旨い話がそうそうあるはずが無いと言うのが基本的な見解です。高橋氏は自説を主張するにあたって、政府案の欠点を厳しく指摘し、自説のメリットを力強く主張されています。そういう論法自体はポピュラーなんですが、高橋氏の主張にもデメリットが当然あるはずです。

このデメリットに関しては可能な限りマイルドに散りばめる事はさして悪いとは思いませんが, 必ずアラはあるはずと考えておくのが妥当です。これが医療の話なら私でもある程度有効なデメリットの指摘が見つかるのでしょうが、経済とか会計になるとチトどころでないぐらい門外漢になります。そこで搦手から考えてみる事にします。この高橋氏がどんな人物であるかも判断材料になると思います。ごく簡便にwikipediaから適当に抜粋します。

う〜ん、どうもですがインフレ政策にある程度軸足を置いた考え方ぐらいに大雑把には出来そうです。それとここを読んでなんとなく判ったことですが、増税に反対派の方であると解釈出来そうな気がします。これは高橋氏の主張の冒頭部近くにあるのですが、

復興財源で、つなぎ国債を出して来年から3年間増税して、そのまま社会保障財源に転じて恒久増税化するという財務省増税マニアが仕組んだとしか思えないような話もある。

ここも賛否の分かれるところですが、震災がなくとも増税については必要性が論じられていました。世の中で増税なんて歓迎する人間は少ないですから、諸手を挙げての賛成の議論ではありませんでしたが、国家財政がニッチもサッチもいかないのと、医療者なら増大が確実に予想される、医療費も含めた社会福祉関係への財源としてやむなしぐらいのスタンスです。

増税、とくに消費税については総論としては必要性を認めても、各論としてと言うか、素朴な感情としての嫌悪感からの反対の綱引き状態が続いていた様に見えます。財務省は確かに「増税マニア」の側面はありますが、増税を否定するなら、現在の財政状態で復興資金も、原発賠償も、財政再建も行う妙案を出す必要があります。

原発賠償問題については妙案らしきものを提示しましたが、震災復興資金はどうするのでしょうか。高橋氏の主張を見ると政府発行紙幣を50兆円ばかり発行すればすべては解消みたいな案が出てきそうな気もしないでもありません。50兆円あれば震災復興資金も、原発賠償資金も一挙に賄う事が不可能ではないかもしれません。

もっともそれだけの資金が裏付け無しに流入すれば、今度はインフレが心配されるわけですが、高橋氏はインフレ政策による景気振興が持論のようですから、「心配せずとも、万事うまくいく」の理論で説明できるのだとは考えています。


私は別に政府案が良くて、高橋氏の提案が悪いという気はありません。そんなところを論じるほど詳しくありません。政府案だって高橋氏の指摘にもあるように様々な思惑が込められ、思惑の中には一部の利益を講じている部分があるとは感じます。しかし高橋氏の案だって、政府案支持者の経済学者なりに論じさせれば、きっとアラがありそうな気がします。

さてさてどんな政策が取られ、どういう結果が待ち受けているかは、これから否応無しに経験できますから、静かに待つことにします。その結果をきっと経済学者がまた詳細に分析してくれると期待しています。