宮武嶺氏の橋下府政批判をもう一度検証する

前に10/11付BLOGOS「大阪府が起債許可団体に転落 大阪を破産させる経済無策の橋下・松井維新の会に国政進出の資格なし」を取り上げました。これをもう1回しゃぶろうが今回のテーマですが、その前に筆者である宮武嶺氏を少し調べておきます。BLOGOSは自分で記事を書くのではなく(書くことあるのかな?)、巷のブログ記事を拾い上げる編集方針です。これはうちにも勧誘が来ましたからわかりやすいのですが。

BLOGOS編集部 2012/10/20 20:42

はじめまして。BLOGOSに、是非貴エントリを転載させていただければと思います。
よろしければ、メールにてご連絡いただけないでしょうか。

そうなると宮武氏の記事もオリジナルがある事になります。探せばすぐにみつかり、Everyone says I love you !と言うブログを書かれています。10/11付BLOGOS記事もあるので間違いありません。そこにはプロフィールも書かれており、

性別
男性
都道府県
兵庫県
自己紹介
LEC東京リーガルマインド講師宮武嶺こと弁護士徳岡宏一朗。龍谷大学客員教授。2010年3月まで関西学院大学法科大学院教授。

「宮武嶺」はペンネームで本名は「徳岡宏一朗」である事もわかります。では前にもやったBLOGOS記事の再検証を行なってみます。皆様の協力でかなりの精度で検証が可能となったのは喜ばしい事です。


橋下府政の3つの財政上の失政

宮武氏は大阪府の実質公債費比率が18%を超え、府の公債発行が総務省の許可が必要な起債許可団体になってしまった事を重大な失政としています。たしかに余り喜ばしい状態ではありません。これが橋下府政の失敗なのか、これまでの府政の失敗のツケなのかになりますが、宮武氏は橋下氏の失敗としています。理由として3つあげています。

  1. 一つ目は、橋下氏、松井氏と続く維新の会の大阪府政下でまともな経済振興策がとられず、大阪の地盤沈下が続いていることです。
  2. 二つ目は、橋下府政下での黒字が「帳簿上の操作」による嘘だったことです。
  3. 三つ目は、橋下前の知事は黒字だからと借金等で余ったお金の総額が4年で1600億あり、本来それを減債基金として積み立てるべきだったのに、自らがやりたいWTC購入や知事重点事業に使い込んでしまったことです。
宮武氏の指摘通りであるかを順番に見ていきます。


一つ目は、橋下氏、松井氏と続く維新の会の大阪府政下でまともな経済振興策がとられず、大阪の地盤沈下が続いていることです。

ここの具体的な指摘として、

大阪府の2011年度普通会計決算見込みでは、歳入は2兆8471億円で、前年度実質規模の比較で1759億円の減となりました。

本当にこれしか指摘していないのですが、

    2011年度の歳入が2010年度より1759億円減少した
おそらく宮武氏は大阪府HPの平成23年度普通会計決算見込みの概要等普通会計決算の推移を参照にしたと考えられます。そこの2010年度決算と2011年度決算見込みを引用すれば、

年度 2010 2011
(見込み)
増減
歳入 3兆231億2900万円 2兆8471億9300万円 ▲1759億3600万円


確かに1759億円歳入が減っています。しかし正直なところ2年度の推移だけで物事を「断定」するのは危険かと存じます。参考資料には1996年度からの推移が追えますから表にして見ます。

知事 年度 歳入
(億円)
中川和雄 1994 25667
横山ノック 1995 26740
1996 25069
1997 24255
1998 25906
1999 26305
大田房江 2000 26258
2001 26917
2002 27107
2003 26016
2004 26503
2005 26293
2006 28078
2007 27779
橋下徹 2008 27085
2009 29901
2010 30231
2011 28472


この中で歳入が多い年度ベスト5をあえて出せば、

順位 知事 年度 歳入
1. 橋下徹 2010 30231
2. 2009 29901
3. 2011 28472
4. 太田房江 2006 28078
5. 2007 27779


年度が過去のものと純粋の比較は難しいとは言え、単純な数字の大小で言うなら太田時代より橋下時代の方が歳入は増えているとして良いかと考えられます。宮武氏が酷評した2011年度見込みでも太田氏の最高年度歳入を上回っています。これだけで、

大阪経済の地盤沈下が進んでいることは明らかで、3年半以上続いた橋下府政がいかに無能だったかがよくわかります。

これはチト言い過ぎではないでしょうか。もう少しだけ詳しくみておけば、減債基金の影響は除去する(宮武氏も除去されております)として他の項目では、

項目 2011年度 対前年度
金額 増減
府税収入 府税収入 9702 ▲158 ▲1.6%
うち法人二税 2687 58 2.2%
地方交付税 地方交付税 2973 ▲22 ▲0.7%
臨時財政対策債 2781 ▲445 ▲13.8%
地方法人特別譲与税 1130 104 +10.1%
その他 制度融資貸付金償還金 4986 ▲1164 ▲18.9%
第三セクター等改革推進債 233 +233 皆増


2010年度より1759億円の歳入減になっていますが、主要な歳入減少は制度融資貸付金償還金と臨時財政対策債になるのは見ればわかります。合わせると1609億円になります。制度融資貸付金償還金とは地域総合整備資金貸付の類ではないかと考えます。またここは前年度比で1164億円の減少があるとは言え、これに対比する項目として歳出の制度融資貸付金もまったく同額であり、見掛け上大きくなっても、小さくなっても実質的な歳入とは関係が薄そうな気がします。

もう一つの臨時財政対策債はお手軽にwikipediaから、

臨時財政対策債(りんじざいせいたいさくさい)は、地方債の一種。国の地方交付税特別会計の財源が不足し、地方交付税として交付するべき財源が不足した場合に、地方交付税の交付額を減らして、その穴埋めとして、該当する地方公共団体自らに地方債を発行させる制度。形式的には、その自治体が地方債を発行する形式をとるが、償還に要する費用は後年度の地方交付税で措置されるため、実質的には地方交付税の代替財源とみて差し支えない。

読めばわかるように「国の地方交付税特別会計の財源が不足」した時に、その穴埋めに地方が発行できる地方債であり、元利を含めて国が後で交付金で対策するものです。つまりは交付金とおなじものですから、見方としては、

こうになります。本来当該年度に実額で交付される交付金のうち、国の都合で足りない分を自治体が公債でカバーしているだけのものです。


二つ目は、橋下府政下での黒字が「帳簿上の操作」による嘘だったことです。

ここはまず、

 実は大阪府は2011年だって実質収支で124億円の黒字となっています。ところが、地方自治体の黒字は基金や起債を活用した「帳簿のやりくり」でも作り出すことができる数字です。なぜなら自治体等の公会計は民間と違い、借入金も収入としてしまうからです。ですから、起債=府の公債を発行すること=借金することで、収入が増え黒字が出ているように見せかけることができるのです。

 つまり、地方自治体の黒字は、実際の収入と借入金を足してそこから総支出を差し引き、余ったお金である剰余金が発生すれば黒字となるのです。無茶苦茶ですね。

 実際には、大阪府の債務は橋下府政下で増えつつけ、平成22年度には府債残高が6兆円を初めて超えました。

借入金が公会計では収入になるのは確かそうであったと思いますが、これは別に大阪府に限ったものではありません。そういう会計ルールだからです。問題はそのカラクリが悪質なのかどうかです。宮武氏はグラフを示しています。

ここは良くみて欲しいのですが、債務は宮武氏の指摘通りに6兆円を超えています。これは間違いではありませんが、債務の内訳を見る必要があると存じます。これは色分けまでされて示されていますが、項目を書き出します。
  • 実質府債残高
  • 臨財債等
  • 減収補てん債
  • 減収補てん債増発分
まず臨財債等(臨時財政対策債)は実質交付金であり大阪府の債務とは言えないで良いかと考えます。減収補てん債とはなんぞやですが、大阪府HPの「いろいろ知りたい!」 財政関係用語の解説より、

 地方税の収入額が(地方交付税の基準財政収入額の算定に用いた)標準税収入額を下回る場合に、その減収を補うために発行する特例地方債(元利償還額の75%について交付税で措置)のことです。

ここも詳しい事は置いといても

    元利償還額の75%について交付税で措置
これも実債務としては見た目の額の1/4であると言う事です。ですからどうせ引用するなら大阪府債IR情報の、
コチラの方が実態を表しているかと存じます。2007年度時点で4兆1121億円あった実質府債残高が2010年度には3兆7886億円に減っています。差し引き3235億円の債務減少と見るのが正しいと私は見ます。


三つ目は、橋下前の知事は黒字だからと借金等で余ったお金の総額が4年で1600億あり、本来それを減債基金として積み立てるべきだったのに、自らがやりたいWTC購入や知事重点事業に使い込んでしまったことです。

さて宮武氏の指摘ですが、

 また、松井府政下での中長期財政見通しでは、2016年までの間に毎年、640億〜920億円の収入不足が発生すると見込まれています。2013年度の予算編成には690億円の収入不足が予想され、この穴埋めには、禁じ手の府有財産の処分や基金の取り崩しを充てることにしていますが、それでも、現在の試算で295億円が不足するというのです。

 そして、松井府知事は冒頭の府議会の中で、

「減債基金の復元などをしっかり行い、(早期健全化団体となる)25%超えを回避していきたい」

と述べていますが、大阪府の財政見通しでは実質公債費比率が、今から5年後の2017年には25%を突破し、起債などが制限される財政早期健全化団体に転落すると指摘しています。

この指摘自体は間違っていません。大阪府もそう示しています。問題はこれが橋下氏の財政運用の拙さからむるものなのか、長年のツケなのかです。これについての宮武氏の見解はすべて橋下氏の失政としています。理由は、

 大阪府が起債許可団体になった原因の三つ目は、橋下前の知事は黒字だからと借金等で余ったお金の総額が4年で1600億あり、本来それを減債基金として積み立てるべきだったのに、自らがやりたいWTC購入や知事重点事業に使い込んでしまったことです。

 減債基金とは、地方自治体が借金をした場合には無理なく返済するために、一定の積立金をする事が義務づけられているものです。つまり借金をすればするほどこの減債基金を多く積み立てないといけないのですが、橋下前府知事はこれを怠りました。その結果、減債基金積み立て不足額は橋下前知事就任時より3914億から5547億と4年で1632億円と増えてしまいました。

 減債基金の積立率は、総務省の実質公債費率では計算に入れられます。そのことは橋下氏が太田房江元府知事を批判して指摘していたことです。ところが橋下氏も易きに流れて減債基金の積み立てを怠ったことから、この1632億の積み立て不足額が実質公債比率を引き上げ、大阪府の財政ひっ迫をひどくしてしまったのです。

まず減債基金の動きを再掲します。


年度 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010
基金借入額 0 577 1145 1020 710 640 430 680 0 0 0
基金返済額 0 0 0 0 0 0 0 0 0 52 5150
累積借入額 0 577 1722 2742 3452 4092 4522 5202 5202 5150 0

確認できるのは橋下府政が始まってから減債基金からの借入は一切行われていません。累計で5202億円の借入を行っていたのは太田府政時代のお話です。減債基金の積み立てについて確認しきれなかったのですが、「どうも」積み立てを行う一方で借入していたと解釈出来そうな気がします。つうのも府債の状況(平成23年度決算全会計ベース)に、

 過去に減債基金から5,202億円の借入れを実施したため、減債基金残高が府の償還計画(積立ルール)に基づいて積み立てておくべき額に比べて不足。そのため、21年度から減債基金への復元(返済)を実施しており、21〜22年度合わせて435億円を復元し、22年度末で4,767億円不足。

これから考えると、減債基金への積み立てはキチンとやってはいたが、それ以上に基金からの借入金がデカかったとして良さそうです。もし積み立ても怠っていたら橋下氏は容赦なく指摘するであろうからです。積み立てる以上に借入していたらそりゃ基金も細ります。ですから、宮武氏の

    本来それを減債基金として積み立てるべきだったのに、自らがやりたいWTC購入や知事重点事業に使い込んでしまったことです。
これは的が少々外れていると考えます。またこれも宮武氏の、
    減債基金積み立て不足額は橋下前知事就任時より3914億から5547億と4年で1632億円と増えてしまいました
これも何を言っているのかよく理解できません。減債基金からの借入はすべて太田府政時代に行なわれており、太田府政時代の3914億円がどこから出てきたのか私では確認不可能でした。もう少し言えば橋下府政時代のの5547億円も不明です。太田府政時代の基金借入による財政運用について大阪府HPの基金の状況に公開されています。

基金名称 基金名目残高 繰入運用残高 実質基金残高
公共施設等整備基金 1369億円 1154億円 215億円
福祉基金 192億円 160億円 32億円
みどりの基金 89億円 83億円 6億円
文化振興基金 16億円 13億円 3億円
女性基金 29億円 28億円 1億円
府営住宅整備基金 205億円 41億円 164億円
減債基金 7567億円 5202億円 2365億円
合計(7基金 9466億円 6681億円 2785億円


でもって橋下府政になってからは、

なお、平成20年度以降は、「収入の範囲内で予算を組む」原則を徹底する考えから、新たな借入れは行っておりません。

基金からの繰入運用はその場しのぎにはなるでしょうが、結局のところ隠れ借金にしかなりません。また財政運用上で不明朗な予算の動きになります。そのためだと考えますが、橋下氏は2010年度に基金からの繰入運用による借入金を特例処分で一挙に解消しています。特例処分と言っても、そこから新たな財源が湧いて出たわけでなく、

  1. 大阪府から基金に借入金を一括返済する
  2. 基金は一括返済された分から基金を取り崩す
これで借金がなくなったわけではありませんが、予算や決算で良く見えなかったお金の流れが明瞭になる効果はあったと見ます。


宮武氏への感想

私が検証する限り、宮武氏は断定調で橋下府政を切り捨てる強い表現とは裏腹に、その根拠は非常に薄弱と判断します。薄弱と言うよりもtadano-ry様も指摘されていましたが、そもそも自治体財政がわかっていないのではないかです。ここも解釈として

  1. わかってないが故の誤解に基づくもの
  2. わかっていて、あえてやった悪意に基づくもの
この2つの可能性は存在します。宮武氏はこの記事の後にも佐野眞一氏と週刊朝日の「ハシシタ 奴の本性」は橋下徹大阪市長の人権を侵害していないを書き、これもBLOGOSの求めに応じて転載を認めています。他にも記事はあるのでリンク先を確かめていただければ良いのですが、立ち位置として、
    アンチ橋下である
これはそうとしても誤解の余地は少ないかと存じます。それも表現法からしてかなり感情的なものの気配が濃厚です。まあ、感情の余り「誤解に基づくもの」であろうが「あえてやった悪意に基づくもの」であろうとあんまり頂けそうなものと私は感じません。この指摘に何か反応するかどうかは不明ですが、もしあるとすれば「大阪府の公式情報が操作・隠蔽されている」ぐらいは出るかもしれません。

その点については私も根拠があるわけではありませんが、大阪府ぐるみの操作・隠蔽となればこれは犯罪レベルに近いと存じます。ですから操作や隠蔽などの陰謀論を持ち出されるのなら、明確な根拠をお示し下さる様にお願いします。本業は弁護士のようですから、常識以前のお話だとは思っています。


しっかし、私だって橋下氏は基本的に支持していないのですが、何故にアンチ橋下の批判論をネチネチ検証・否定しなければならないのか我ながら嫌になります。もう少しと言うか、もっとまともな橋下批判のタネが無いのかすこぶる不思議です。まあ、私は橋下氏を支持していませんが、一方で根拠なき批判も嫌な方ですから、信条優先で小さな自己満足をしたぐらいでヨシとしておきます。


オマケの陰謀論

橋下氏批判で私が本当にやって欲しいのは、その経済政策です。橋下氏の経済ブレインが竹中平蔵氏である事は既に公然たる事実ですし、例の維新八策にも濃厚に反映されているように感じます。竹中氏は小泉時代新自由主義経済を持ち込み、評価は分かれるにしろ成果を収めたとは思っています。しかし今の時代にもう一度ゴチゴチにやって欲しいかと言えば、私個人としては否定的であると言うところです。

私の憶測に過ぎませんが、橋下氏を強烈に批判する勢力の存在は明らかですが、橋下氏個人は嫌いでも、橋下氏の竹中流経済政策は支持しているんじゃないかと密かに疑っています。だからそこの批判は回避するです。経済政策批判が禁じ手になっているので、個人攻撃のネガキャンしか展開できないです。考え過ぎかもしれませんが、そう考えるとある程度の話の筋が通る気がしています。

そういう次元の話が仮にあるとすれば、宮武氏も週刊朝日佐野眞一氏も使い走りクラスの様に思っています。