嘆息

2006年12月27日付毎日新聞東京朝刊より、

医療事故:主要570病院、検査で114件 目立つ基本動作ミス−−2年間で
 ◇採血取り違え/検体のラベル誤り手術…

 国立病院や大学病院など主要な病院約570施設で、04年10月〜今年9月の2年間に、検査に関連した医療事故が114件あったことが「日本医療機能評価機構」(東京都)への事故報告で分かった。患者らの名前の確認を怠ったり、検査手順や項目を間違うなどしたのが原因で、基本動作のミスが目立った。事故報告が義務付けられた医療機関の22%が、2年間で一度も報告をしていないことも判明した。【玉木達也】

 同機構は114件のうち、特に検体と病理、生理機能の各検査計23件を分析。検体検査では、患者の採血を別の患者の分と取り違えて、白血球の数値を誤り、抗がん剤を投与したケースがあった。また、別の患者の検体にラベルを張り間違えたため、肺の悪性腫瘍(しゅよう)が疑われるとして、手術をしたものもあった。いずれも患者に障害が残る可能性が高いという。

 事故報告は、04年10月に始まった医療法施行規則に基づく制度。約570施設のうち、国立病院など273施設(06年9月現在)は、患者が死亡したり重い障害が残った場合や、予想以上の治療が必要になったケースなどについて、報告が義務付けられている。

 しかし61施設は2年間で報告がゼロ。700〜749床の大病院12施設中2施設で報告がないなど、実態を反映していない可能性が高い。報告した施設名は公表されず、再発防止に生かすのが目的のため、同機構は積極的な報告を求めている。

この記事の中の事実は、

  1. 国立病院や大学病院など主要な病院約570施設で、04年10月〜今年9月の2年間に、検査に関連した医療事故が114件
  2. 事故報告が義務付けられた医療機関の22%が、2年間で一度も報告が無い
  3. 報告の無い施設のうち重傷例の報告が義務がある273施設のうち61施設で報告が無く、さらにその中で700〜749床の12施設のうち2施設で報告が無い
ぐらいが間違いないところかと思います。

でもってこの記事は素直に読めば「事故が多い」と感じます。つまり「114件も」のイメージです。しかし冷静に考えれば570施設で2年間に114件ですから、2年間に1施設あたり0.2件、1年間となると0.1件です。その間に行なわれた検査、治療の総数は明記されていませんが、膨大な数である事は誰でも分かります。その上で1施設あたり年間0.1件は多いのでしょうか、少ないのでしょうか。

ゼロにしたいのは医療者の願いではありますが、医療の大部分は手作業でありどんなに努力してもゼロにするのは困難です。ヒューマンエラーをゼロに出来て当然とこの新聞社が考えているのなら単なる妄想患者です。医療に限らずいかなる業種でも不可能かと考えます。ゼロに出来ないが故に許容範囲が必要と考えますが、1施設あたりの年間発生件数が0.1件ではどうかという評価はゼロです。

さらに言えば、この記事からはわかりませんが、この報告は今回初めてされたものなのでしょうか。前回報告があるのなら、それと比較すると言う作業は誰しも考えます。増えているのか、減っているのかは重要な指標かと思います。少ないなりでも増えているのなら警鐘を鳴らす意味はあるかもしれませんが、そこについても全く言及していません。

「実態を反映していない可能性が高い」から2年間で報告が無い病院は隠蔽しているとの趣旨の表現をしていると受け取れます。もちろん実情はわかりません。わかりませんが、実際に2年間に報告するような事故が無かった可能性もあります。もしそうであるなら、十分名誉毀損の対象になります。病院を上げて事故を無くす努力をした成果が、さも隠蔽しているように報道されたのであれば侮蔑以外の何物でもありません。

こういう報告は医療事故を減らすために貴重な報告だと考えます。この報告を分析して以後の事故防止につなげていくのは大事な事です。一方「医者叩き」が大好きな人々にはもってこいの報告ですね。手作業の塊である医療ではヒューマンエラーが防ぎきれません。どう頑張ってもいくらかは出現します。出てくる限り「○○件も」と叩き続けられます。では頑張って2年間ゼロであったら、「実態を反映していない可能性が高い」として隠蔽のイメージを植えつけてくれます。つまり報告の多い病院は事故多発病院、報告がゼロの病院は事故隠蔽病院となるわけです。では中間ならOKかと言えば「事故がゼロに出来ていない」と非難の対象になります。

ここの新聞社はこの1年間で明確な姿勢を見せてくれましたが、最後まで嘆息させてもらったような気分です。