福島から奈良、そしてネット

一年も終わりに近づくと「○○の十大ニュース」がやりたくなる季節です。JBM大賞でそれをやろうかと考えていましたが、あれはその後WikiJBM構想の具現化という方向に進んでしまいました。WikiJBMについては協力者のご尽力によりスタートまで後一歩に漕ぎ着けていますが、肝心の私がシステムチェックに取り組む時間が少なく、できれば年内、遅くとも年明けにと努力中ですのでもう少しだけお待ちください。そういう事で代わりに医療崩壊ニュースでベスト10を書こうかと思いましたが、まともにやればブログが終わらなくなるので、今年の医療崩壊ニュースの東西の横綱である福島と奈良に絞って取り上げたいと思います。

医療関係者とくに医師にとって、この二つの事件はまさに医療界を震撼させたニュースでした。福島事件はもう感覚としては歴史上の大事件と言う感覚があるのですが、報道記事の載ったのは2/19、私が初めてブログにエントリーしたのは2/23の事です。ちなみになんですが、その頃に社会で注目を浴びていたニュースは荒川静香の金メダル、紀子妃殿下御懐妊なんかがありました。

福島事件自体は現在でさえ世間の注目が低いものがあります。もちろん当時もです。しかし医療界に与えた影響は巨大です。何が巨大かというと、福島をキッカケに医療危機、医療崩壊に医師が注目し始めたからです。私だって福島以前は医療危機の問題なんてほとんど関心がありませんでした。それがこの事件以降、雪ダルマ式に医療問題に関心を寄せる医師が増えています。

福島事件以前でも医療問題に関心を寄せる医師はいましたが、ネットをする医師でも少数派であったといえます。今でもそうですが、そういう医師が集まるところとして2ch医療板やm3.comがありますが、この事件から飛躍的に参加者が増えた事は間違いありません。私もそうです。さらにこの事件で良心的先導を行なったブログとしてある産婦人科のひとりごとの功績は特筆されるものです。

福島事件によって医師は医療危機の存在に気づき、気づいた医師はその情報収集や意見発表の場としてネットに向かいだしたと言えます。この流れは現在も滔々と続き、決して一過性のものではなく、これまで情報とかコミュニティと言う面では孤立しがちでまとまる事の無かった医師が、ネット言う仮想空間で危機感を共有すると言う空前の事態が起こっているのです。

福島事件以降、ネットで暗黙のコミュニティを持った医師たちは、ネットの特性を生かした素早い情報収集や情報共有、さらに意思形成を行なえるようになったと考えます。ネット上で医療危機を感じるさせる契機となった大事件が福島だったと考えます。福島で医師が感じた怒りは今も続いています。決して忘れ去られるものではなく、ネット医師の中には永遠に刻み込まれた烙印として記憶されると断言します。

もう一つの大事件である奈良は、医師にとってはある意味、福島より衝撃度の低いニュースです。しかし世間的には福島の数倍のインパクトがあったと考えます。福島から奈良に至るまでにも中小の医療事件がありました。その影響にもよるマグマの蠢きが一挙に噴き出したのが奈良事件のような気がします。

どういう医療報道でもマスコミの根底にあるのは「医者叩き」です。とくに今年はあの大新聞社が尖鋭でしたが、他社も似たり寄ったりです。奈良事件でもあの大新聞社がスクープとして煽り立てるところから始まります。少なくとも福島以前なら立派な「医療叩き」報道として終わったのでしょうが、福島事件以来急進化していたネット医師世論が猛反発した事が画期的であったと考えています。

あの報道の粗雑さは後の検証により白日の下に曝されましたが、従来の医者叩き報道ではあの程度でも必要にして十分であったと考えています。どうせマスコミ以外に取材する機関なんてこの世の中に存在するはずも無く、マスコミ様がクロと言えばすべての国民はクロと信じ込むと盲信していたんじゃないでしょうか。

ところがネット医師たちは猛烈な勢いで情報収集を始めます。瞬く間に報道の杜撰さを指摘し、さらにそれがどう杜撰かを事実をもとに綿密に考証して素早く情報発信を行なったのです。発信しただけではなく、報道を鵜呑みにして酷いまでの医師叩きを行なっていたブログや掲示板に反論の書き込みを雨霰のように行ないます。

医師のコメントの特徴はうちのブログを見てもわかるように、長文かつ理路整然としているのが特徴です。そんなコメントが20も30も押し寄せ、コメントに反論すればその10倍の量の再反論が怒涛のように押し寄せます。こんな現象がネットのあちこちで見られることになります。こんな事は福島事件の時にはほとんど見られなかったかと思います。福島事件以降、ネットに参集した医師の数がどれだけ増えたかの一つの証拠かと思います。

奈良事件でネット医師たちはまた一つ発見したものがあると考えています。既製マスコミに対して無力であると思われていたネットが、場合によってはマスコミに対抗できる情報ツールになることです。この事は既製マスコミも十分ではないが気づき始めたようです。気づいたといっても相も変らぬ酷い医者叩き番組を放映していますが、放映後のネットの医師の反応を気にし始めています。

もちろんマスコミが気にしているのは医師ではなく番組を提供するスポンサーですが、ネット医師が見つけた放送局ではなくスポンサーに抗議すると言う戦略は、ボディーブローのように影響を見せ始めています。放送局にとって医師は屁でもない存在ですが、スポンサーは神様ですからね。もちろん明らかでありませんが、影響が出るぐらいにネット医師は力をつけたことだけは間違いありません。

今年は福島事件で医師が目覚め、奈良事件でマスコミ報道に対抗する手段を見つけたと言っても良いかもしれません。そして来年はになります。医療崩壊の速度は医師以外に誰も気がつかないうちにますます加速していますが、それに対してネットがどんな役割を果たせるかが問われる年になりそうです。