博多の壁

新型インフルエンザの感染の発見が不自然に偏っている事は公然の秘密です。なんらかの工夫はあるのは確実ですが、あくまでも推測段階のお話でした。それが福岡の騒ぎでその一端が露呈したようです。まずは6/9付けRKBローカルニュース(魚拓)より、

「福岡市の初動ミス」と批判の声

福岡市が最初に感染を確認したのは今月6日でしたが、先月末から板付校区の子どもや大人に、感染の疑いが確認されていたことが分かりました。診察した医師の要請に対し、市の保健所は新型インフルエンザかどうかを調べる詳しい検査を行っておらず、市の初動ミスとの批判の声もあがっています。福岡市が、新型インフルエンザの感染を最初に確認したのは、板付中学校の生徒でした。今月6日のことです。

ところが、その1週間以上前の先月30日から、板付校区に隣接する春日市内の病院に、板付小や板付中の児童ら少なくとも6人が受診し、簡易検査で陽性と診断されていたことが複数の医師への取材でわかりました。

診察した医師らは、博多保健所に対し、新型インフルエンザが疑われるケースが相次いでいるので詳しい検査をして欲しいと要請しましたが、季節性のインフルエンザとして扱うよう指示されたということです。また、要請をした医師に対し保健所は、「同じ学校で5人以上陽性だったら検査します」と話したということです。

最初に新型インフルエンザへの感染が確認された中学生が受診した医療機関では、簡易検査で陽性となった生徒の検体を、医師は筑紫野保健所に送りました。複数の医療機関が、博多保健所に検査を拒否された事実を知っていたからです。医師は、福岡市の対応を強く批判します。

今月5日にも、博多区内の医療機関で板付小学校4年の児童3人が受診し、3人とも簡易検査で陽性と診断されました。医師は、このとき児童と同じクラスに10人の欠席者がいることを知り、新型インフルエンザを疑いました。そして博多保健所に連絡しましたが…、ここでも検査は行われませんでした。さらに、きのう、板付小学校の児童の保護者も簡易検査で陽性でしたが、詳しい検査は行われていません。

感染症の専門医は、同じ地域で疑われるケースがあれば、すべて検査すべきだと話しています。RKBの取材に対し福岡市は、「状況は何もわからない」と話しています。

しかし、福岡市は、中学生の感染が発覚する以前の早い段階で、同じ小学校で集団感染の疑いが浮上していたことについては公表していません。簡易検査で陽性と診断されながら、児童の詳しい検査を行わなかった保健所の対応が、感染を広げている可能性も出てきました。医師の間からは、「福岡市の初動ミスで感染ルートの特定は難しくなった」と、批判の声があがっています。

福岡市は、「封じ込め対策」を強調していますが、正確な情報と迅速で適切な対応が、まず何よりも必要です。

チト長めの経過なのでまとめて見ると、

日付 患者発見の様子 行政の対応
5/30 板付校区に隣接する春日市内の病院に、板付小や板付中の児童ら少なくとも6人が受診し、簡易検査で陽性 博多保健所は「季節性のインフルエンザとして扱うよう指示」、「同じ学校で5人以上陽性だったら検査します」
6/5 板付小学校4年の児童3人が受診し、3人とも簡易検査で陽性 博多保健所は検査を拒否
6/6 板付中学校の生徒が簡易検査陽性 博多保健所を回避して筑紫野保健所に検体送付し新型発見


5/30の経過がおもしろいのですが、板付中と板付小の生徒6人以上が簡易検査陽性でしたが、博多保健所の基準は、

同じ学校で5人以上陽性だったら検査します

つまり患者は6人いましたが学校単位では「5人の壁」を越えられず門前払いにされたようです。東京は3人と言う基準を敷いていると聞きましたが、博多保健所は5人と言うことのようです。東京の壁より、博多の壁の方が高かったようです。当然6/5も「3人」ですからこれも検査は門前払いで拒否されています。

ここで興味深いのは5/30の医療機関と6/5の医療機関はどうも別の医療機関であると思われます。仮に別であれば、博多保健所の検査基準は、

    同じ医療機関で同じ学校の生徒が5人以上ならPCR検査をする
おそらく、もうちょっと厳しくて、
    同じ医療機関に同じ学校の生徒が同じ日に5人以上ならPCR検査をする
博多の壁はこれほど高かったのですが、それでも越えられてしまいした。理由は、

医師は筑紫野保健所に送りました。複数の医療機関が、博多保健所に検査を拒否された事実を知っていたからです。

博多保健所が高い壁を設けている事は医師の間にかなり広まっていたようです。そこで博多がダメなら筑紫野保健所に検体を送る目標を変更したようです。ただここで素朴な疑問が出ます。いくら博多保健所が高い壁を作っているからと言って、管轄外の保健所に検体を送れるかと言う疑問です。ちなみに福岡県の保健所の管轄地域を確かめると、

そうそう記事では筑紫野保健所になっていますが、どうやら筑紫保健所が正しいようです。それはともかく保健所の管轄が違えば、通常は検体は送れないはずです。博多の壁がいかに高くても行政の対応とはそんなものかと思います。その辺の経緯が天漢日乗様の豚インフルエンザ 福岡市が新型インフルエンザを当初隠蔽? PCR検査を保健所が拒否 ウイルスは「他に感染拡大の恐れ無し」と当初発表のアメリカ人感染者のウイルスに類似に情報として集まっています。

まず天漢日乗様のところに寄せられた「地元民」様のコメントですが、

    なるほど。最初に感染が確認された中学生が、最初に受診したのが市内ではなく、近隣の春日市ってのがミソですね。
    福岡市内の医療機関だったら握りつぶされていたということでしょう。
    これが福岡市の思惑が効かない春日市の病院だっからこそ、発見、発表に至ったというところかもですね。
    おそらくその春日市の病院というのは、某有名私立病院T州会かと。福岡市に近くて夜間受け入れやってる所はそこぐらいですから。
    さすが、こども病院移転の見積もりで不明瞭な上乗せを公式でやる市です。なさけなや

5/30も6/5も患者が受診した医療機関は地元の博多区であったようです。ですから保健所といくら押し問答しても博多の壁に阻まれたと言うわけです。ところが発見に至った患者は春日市医療機関を受診したので、筑紫保健所に検体が送付され、幸いな事に筑紫の壁が無かったのでPCR検査で新型が確認されたようです。このコメントだけではソースとしては若干弱いのですが、6/6付の福岡市保健福祉局発表があり、

6月5日:春日市医療機関新型インフルエンザサーベイランス定点医療機関)受診。発熱(37.8℃)、頭痛、筋肉痛の症状あり。インフルエンザ迅速診断キットA型陽性

6月6日:上記医療機関より提出された検体を福岡県保健環境研究所においてPCR検査実施福岡県より、新型インフルエンザ(インフルエンザ A/H1N1)陽性の連絡

地図で確かめると博多区の板付と春日市は隣接しており、おそらくですが、夜間救急にて春日市にある徳洲会病院を受診したもと考えられます。さらに条件として筑紫保健所に筑紫の壁がなかったのに加えて、

これであった事も大きかった様な気がします。神戸の国内発見例と経過は似ているのですが、ある程度たまたまサーベイランス定点医療機関に受診したのも発見に寄与したと考えられます。ではでは板付で発見された新型インフルエンザはどこからかになりますが、6/10付け共同通信(47NEWS版)に、

米国人から中学生に感染か 福岡県の遺伝子検査で一致

 福岡県は9日、福岡市立板付中学(博多区)などで起きている児童生徒の新型インフルエンザ集団感染について、同県を訪問中に九州初の感染確認事例となった米国人男性から感染した可能性が高いと発表した。

 板付中で最初に感染が確認された1年男子と、米国人男性のウイルスについて、県保健環境研究所で遺伝子の塩基配列の一部を調べたところ、完全に一致。米カリフォルニアで確認されたウイルスの遺伝子と近く、国内ではほかに報告例がないタイプだという。

 米国人男性は来日翌日の5月23日夜、同中学校区内にある飲食店を利用していた。県はこの店内で感染が広がった可能性が高く、男性と中学生の間に一人か二人の感染者が介在したとみている。

 米国人男性は福岡県志免町に滞在中の同25日に感染が確認された。板付小学校と板付中で今月6日以降、児童生徒30人の感染が確認されている。

 福岡市によると、米国人男性が同中学校区内の店を利用していたと県から知らされたのは今月7日。市には4日から5日にかけて、医療機関から「簡易検査で陽性と診断された例がある」との情報が寄せられていたが、感染地域への旅行歴がなかったため、詳細検査を見送ったという。

 市は「県からの情報提供がもっと早ければ対応が変わっていたかもしれない」としている。

そう言えば福岡で米国人の新型発見のニュースはありましたね。その米国人は、

5月23日夜、同中学校区内にある飲食店を利用していた

この「夜」と言うのが何時ごろなのかで変わりますし、利用した店のジャンルで変わりますが、土曜とは言えまず他の成人に感染した可能性があると考えるのが妥当です。そこからさらに二次感染、三次感染と拡がったと推測されます。板付小、板付中でいつごろから流行し始めたかは記事情報では5/30が確認されますが、5/23に米国人男性から拡がったとすると辻褄は合います。


ここでなんですが、板付中の生徒が春日市徳洲会を受診していなかったらどうなっているかです。博多の壁は推測ですが、

    同じ日に同じ医療機関で同じ学校の5人以上の簡易検査陽性でPCR検査
6/11付の福岡市保健福祉局の報道資料では現在47名の新型患者が確認されていますが、

学校 6/6 6/7 6/8 6/9 6/10 6/11
板付中学校 1年生 1 4 2 3 1 0 11
2年生 0 1 0 0 0 0 1
3年生 0 0 0 0 1 0 1
板付中学校計 1 5 2 3 2 0 13
板付小学校 3年生 0 0 1 1 1 1 4
4年生 0 4 8 2 0 0 14
6年生 0 2 4 3 5 0 14
板付小学校計 0 6 13 6 6 1 32
三筑小学校 5年生 0 0 0 0 1 0 1
学校外 0 0 0 0 1 0 1


実際は休校措置に入っていますから、あくまでも参考なんですが、博多の壁を越えるためには、板付中なら6/7に全員が同じ医療機関を受診する必要があり、板付小なら6/7、6/9、6/10に6人中5人が同じ医療機関に、6/8なら13人中6人が同じ医療機関を受診しないと発見できなかったことになります。6人中5人もかなり厳しい条件ですが、13人中5人も相当厳しい条件です。医療過疎地帯ではないですからね。

ひょっとすると博多の壁の中だけなら新型発見は見事封じ込められたかもしれません。思わぬところで壁が破られて福岡市の「封じ込め」努力は崩壊してしまった事になります。やはりこれも行政の縦割り行政の弊害が出たからかもしれません。横断的連携が苦手なのが行政ですから、保健所同士でも連絡と言うか申し合わせが不徹底になったようです。


しかしここまで新型発見の封じ込め努力が行なわれているかはやはり気になります。最初に考えられるのは報道被害です。かなり新鮮味が薄れたとは言え、新型発見は未だローカルでは大ニュースになります。最初の横浜での疑い例の中継車は出てくるは、ヘリは飛ぶわ、大報道陣が押し寄せるわの光景を見せ付けられたら、なんとか発見を封じ込めたいの気持ちになるのは心情的に理解できます。

次は深刻な風評被害です。大阪は見ていませんが、神戸では本当に人通りが途絶えました。人通りが途絶えれば商売はあがったりになります。有馬温泉でもキャンセルの嵐が吹き荒れ、経済被害の概算は数百億円と言われています。福岡も日本を代表する大都市ですし、とくにアジアからの観光に力を入れていますから、二の舞は極力避けたい心理が働いた心情もわかります。


福岡では博多の壁が脆くも崩れてしまいましたが、他地域の責任者の方はこれをきっと教訓にされるかと思います。もう少し発見を封じ込めば夏も来ますし、厚労省6/11付け読売新聞に、

新型インフル第2波に備え、毒性に応じ3段階区分

 今秋以降に予想される第2波の新型インフルエンザ流行に備える厚生労働省の医療体制素案が10日、明らかになった。

 比較的症状が軽い現在のウイルスでも、ワクチンがない場合は国内だけで一冬に約5万人が死亡すると想定。ウイルスの毒性に応じて被害を3段階に分け、毒性が比較的弱い場合は、発熱外来は原則として設けない。同省内でさらに検討し、専門家の意見も踏まえて最終決定する。

 素案では、ウイルスの毒性を〈1〉現在流行している新型と同等(軽度)〈2〉アジアかぜと同等(中等度)〈3〉スペインかぜと同等(重度)――の3段階に区分。被害が最も少ない「軽度」でも、米国での流行状況からみて、国内ではワクチンがなければ3200万人が感染して23万人が入院し、感染者の0・15%にあたる約5万人が死亡すると試算している。

どうやら弱毒オプションを作ってくれるようです。その地域の保健所だけではなく、近隣の保健所とも連携を密にして「封じ込め」により一層精励されると思われます。てな事を考えているうちにWHOはついにフェーズ6を宣言されたようです。