医者へのネガティブキャンペイン

昨日のブログは凄い反響でビックリしました。しかし表彰ニュースに驚き、憤慨しているのは医師ばかりと言う構図に変わりが無いのに落胆もしています。いろいろ経緯があったにせよ、医師の声を無視する習慣はここまで浸透している事に愕然たる思いを隠せません。

医者へのネガティブキャンペインは、思い起こせば相当長期に執拗なぐらい繰り返されています。お蔭で世間には確固とした医者像が確立されたようです。思いつくところを幾つか挙げると

  • 医者は不必要なぐらい高給取りである。
  • 医者はミスを組織ぐるみですべて隠蔽する。
  • 医者は治療をするがすべて儲け主義に直結している。
  • 医者は患者を見下している。
  • 医者は説明をしてくれず冷たい。
まだまだあるでしょうし、私があげた中でも重複するものもありますが、要は
    医者は信用できない。
の一言でくくられそうです。もう少し飾ると
    医者はエエ加減な治療で、不必要な暴利をむさぼる人種である。
とすればより適当でしょうか。

医者の中にも不心得者はいます。年間8000人も医者になるのですから、99%が高い倫理観と使命感を持った医者であったとしても、80人ぐらいは侮蔑すべき存在の医者は存在する事になります。これをゼロにするのは理想でしょうが、はっきり言って不可能です。医者だけにそれを求めるのは正直言って無理無体です。

医者以外にも高い倫理観と使命感を必要とする職業があります。例えば司法関係者。日本の資格試験のうちでも最難関の一つである司法試験をクリアし、法と正義のために従事する職業です。これからは変わるようですが、医師に較べても1/20以下しか誕生しませんが、それでも悪徳弁護士の存在は昔から知れ渡っています。

また教師も聖職として倫理観と使命感を必要とする職業です。子供の人生を大きく左右する立場にある教師の役割は重大です。では教師たるものそのすべてが尊敬に値する存在であるかと言えば、不良教師、ハレンチ教師がいくらでもいる事に根拠を挙げる必要があるでしょうか。他にも窃盗などの犯罪を行なった警察官、放火をした消防士、議員にいたっては枚挙に暇が無いぐらいの利権議員が転がっています。

一部の不心得者の悪行は全体のイメージを低下させます。低下させますが、その職業に従事しているものすべてを同じに見なすと言う暴挙はしません。あくまでも例外的な存在として考えます。大多数は真摯にその務めを果たしているものと考え、敬意を払って接していると思います。

医者もまたそうです。大多数の医者は高い倫理観と使命感を支えとして、激烈な勤務条件に耐え忍んでいます。今ですらほとんどの医者が、勤務が激烈である事が医者の業務で当然であると信じています。勤務と同様の宿日直、当直明けの勤務、莫大な時間外勤務も医者はそういうものをこなせるから医者であると考えています。休日がなくなることも医療と言う性格からやるのが当然と思っています。

それでも医者へのネガティブキャンペインは止むところをしりません。キャンペインが行き届いた結果、今やどんな医者であっても悪徳医者のレッテルを貼られかねません。世間の関心は数多い悪徳医者を避ける方法に熱中し、医者はすべて悪徳であるから市民がこれを正さねばならないと言う、医者から見れば不思議な市民運動を見ることになります。

キャンペインの結果は恐るべしです。医療過誤は裁かれるのに医者は何の文句もありません。むしろ医者からすれば唾棄すべき存在です。不良分子は速やかに排斥すべしです。ところが現在は、医療事故さえ医療ミスにする事が正義であると言う風潮が常識として蔓延しています。

マスコミは長年のキャンペインの成果の医者不信を最大限に生かして攻撃します。この作られた世論を金蔓と考える弁護士は訴訟を頻発します。訴訟を起せばマスコミは最大限の悪意を持って報道し、さらに医者不信を煽ります。

世間知らずと言われる医者も、ようやく自分たちが社会で置かれた状況に気づき始めたと言う事です。すべては患者のためにと過酷な勤務条件で耐え忍んでいても、この事はほとんど評価されない事にです。ほとんどの医者の心情なんて可愛いもので、どんなに治療に苦労しても、最後に「おかげさまで良くなりました」の一言さえ聞ければ、その疲労は吹っ飛ぶのが医者心理です。それを支えに仕事に従事している部分は大です。

ところが「金は払っているのだから、仕事はキッチリやってもらうし、失敗は許さない」との態度で接せられると、士気は瞬く間に低下しますし、現実に低下しています。医療を軽々しくサービス業であると高言する人がいます。私は形は似ていますが、通常のサービス業とは似て非なるものと考えています。大多数の医者もそうです。

しかし医者と患者の距離はそういう本質を話し合って、望ましい関係を築く状態には程遠いものになっています。医者が主張すれば患者は反発しマスコミが助長する、患者が主張すれば医者が反発しマスコミが袋叩きにする。

出口はどこにあるのでしょうか。見えないところに深刻さがあると考えています。