考えてみれば怖い

今は中休み中としていますが、医療危機の問題をしばらくの間、執念深く取り上げていました。問題点の追及、問題の現状解析、その上での解決手段と、ブログなので必ずしも系統だっていませんが、書いた結果、私なりの理解は出来たつもりです。出来たから中休みとしたのですが、フトフト怖〜い事に気がつきました。

非常に微弱ですが世間でも医療危機なるものがこの世に存在し、どうやら何か手を打たなければならないと考える人が出てきたようです。とくに崩壊現象が一番先行している産科の問題とか、地方医療の医師不足が、囲み記事程度ですが国会質疑に出たことをようやく報じ始めています。この動きが大きくなっていけば、やっとこさ医療危機の問題を検討のテーブルに載せる事が出来ます。そうなる事を祈るばかりです。

こういう流れでまず取り上げられるのは、産科医(ついでに小児科医)不足問題と地方での医師不足問題でしょう。一足飛びに医療危機全体が課題になるとは到底考えられないので、その辺りまでとりあえず課題に上れば現状では上出来でしょう。ところが具体的な手順を考えてみるとかなりの難題であるののが分かります。

通常この手の問題が生じると関係団体と問題点を検討する作業部会みたいなものが設置されます。ところが医者にはこれを統括する団体が事実上無いに等しいのです。一般的にすぐ浮かぶ日本医師会ですが、これは歴史的経緯もあり開業医の意向を表す団体です。勤務医でも加入している人はいますが、勤務医の意見は医師会内では非常に弱いのは医師なら誰でも知っています。また勤務医が医師会に何の期待も寄せていないのもまた常識です。言ってしまえば医師会と勤務医は協力関係というより対立関係にあるというほうが相応しいような関係です。

もう一つの医者の団体である学会ですが、これは実質的に勤務医の団体です。開業医の医師でも積極的に参加される方もおられますが、個人で開業してしまいますと、日々の業務に追われ、学会活動にはなかなか積極的になれない人が多数派です。また学会は本来の性格として学術研究団体で、医師の勤務条件や待遇などの政治的活動には不得手なところがあり、勤務医が主体とは言え勤務医の政治的意向を表すところとしては必ずしも的確とはいえません。

もう一つの集団として大学医局があります。かつては医局だけで医師会と十分対峙できるほどの権勢がありましたが、医局解体運動が進み、一部の医局を除き、かつての権勢は失われています。衰えゆく勢力を維持するために、有力拠点病院だけを死守するのが目一杯です。これも基本的に勤務医の団体ですが、交渉相手としては力量が失われているといえます。

産科医不足問題も、地方医師不足問題も勤務医の問題です。ところがこれを統括する団体は無いのです。勤務医と一括りにしますが、実態は個々の医者が病院に勤務しているだけで、医者たちの不満、要求を聞き、これをまとめて訴える団体や機関は事実上無いという事になります。ここで言う機関とは、交渉して対策なり結論を決め、それを所属員に通達し遵守させる機関を意味します。

問題が生じても、それを討議してくれる団体が無い事は非常に難しい事態を予想させます。政府がそれなりに対応しようと思ってもまず交渉相手がいないということです。交渉相手がいてこそ問題点の洗い出しをその団体にさせ、叩き台になるべき要求を聞くことも可能ですし、要求を聞いた上で妥協や駆け引きをする余地が生じます。また交渉の末の結論が医師側に不利な物になったとしても、後は団体が不満を抑えるほうに働いてくれます。

無いとなれば問題解決の取っ掛かりから問題となります。なんと言っても勤務医労組代表みたいなものはいないのですから、問題の広がり、現状分析、対処方法まで政府がしなければなりません。また対策を打ち出しても、それに賛同するかどうかは個々の医師の判断ですから、対策を受け入れてくれるかどうかはやってみなければ分かりません。いくら「こう決めた」といっても聞いてくれなければ解決策は宙に浮くだけですし、有効な成果が出なければ政府や官僚の嫌いな責任は自分に返ってきます。

表面上は手強い交渉相手がいないのでやり易いと政府は理解するかもしれません。交渉団体が無いのでいくらでもお手盛りの解決策を打ち出せます。またお手盛りの解決策が成果を見なければ「医者が悪い」のキャンペインでも張れば表面上は責任を回避できます。

では「その次は」という事になります。お手盛り案で失敗して、医者に責任を擦り付ければ当面は終わりです。しかしその次には崩壊から焼野原が待っています。焼野原になれば世論は掌を返したように政府の責任を追及します。自分の身に直接振りかかる痛みですから、怒りは現実的で直接的で、決して人の噂も75日でやがて慣れるという性質のものではありません。政権の一つや二つ倒れるぐらいの重要問題となります。

その程度の先を読む政治家がいて欲しいと思っていますが、多分いないでしょうね〜。