今年の初めに一時話題となった僻地義務化の話が静かに再燃しつつあるそうです。道標主人様のブログより引用します。
日医インターネットニュース 1656 号 2006.9.8
■ 医師確保で来月にも独自策提言 — 日医、後期研修でのへき地勤務も —
日本医師会は、厚生労働省など3省がまとめた「新医師確保総合対策」は不十分だとして、来月早々にも日医としての医師確保対策を提言することを決めた。開業志向が続く勤務医への対応をはじめ、いわゆる後期研修で医師がへき地医療に勤務する新制度も検討課題に上がっており、より踏み込んだ具体策をまとめる方針だ。
少し前の話なので3月の自分のエントリーを読み直すと、
- 新たに診療所を開業したり、病院の院長になる医師に対し、へき地医療や救急医療などを一定期間経験することを義務づけるもの。
- 僻地研修を義務化する
僻地医療の問題は深刻です。たとえ医者であってもほとんどの者は行きたくないのが本音です。それでもこれまで僻地医療が成立していたのは、由来不明の神聖権威であった医局命令が強制力となっていたからです。医局命令のメリット、デメリットを論じると長くなるのでここでは余り触れませんが、最大のメリットとして僻地の医療機関への医師の安定供給に果たした役割はもっと評価してよいと思います。
医局というところはいろんな役割を行なっていましたが、各病院から医者の派遣を請け負う人材派遣会社の一面がありました。医局人事は広範囲に浸透していましたので、医局以外に医師の派遣供給を行なうシステムはほとんど育たなかったとも言えます。これを寄ってたかって壊したのですが、壊しただけで代替システムの構築については極めて無関心であったと言う事です。医局人事攻撃の大義名分として覚えているのは
- 医師は自らの意志と反するところに就職するように医局に強制されている。
どうやったら地方の僻地病院が医者の獲得が出来るかといえば、そこに就職したいと言う条件が必要です。なんと言っても医者は自分の自由意志で選択できる時代になっていますし、医師不足の中、売り手市場になっているからです。そういう事を煽り、推進するのが政府の取っている新自由主義の本質ですし、そういう社会になればそれに順応していかないと生きていけません。
で、結果として僻地病院は崩壊の危機に瀕することになります。崩壊の危機に瀕しても責任者の危機感と言うか、そういう時代になったという感覚は極めて薄い事は良く分かります。彼らのする事は医者のいなくなった医局に今さら医者派遣を要請したり、旧来の勤務条件で公募したり、人材派遣請負業者に医者探しを依頼します。それでも医者はほとんど寄って来ません。責任者には旧来の勤務条件がどんなに馬鹿げたものかに一片の理解も無いからです。
地理条件の悪いところには、それを補う条件でカバーすると言う発想が皆無だと言うことです。医師の就職先が市場原理で動いている事がどうしても理解できないと言う事です。市場原理で動き出した医者を僻地病院まで充足させるのは簡単ではありません。簡単ではありませんが方法は単純です。
- 僻地病院に行かざるを得ないぐらい医者の数を増やす。
- 都会の病院よりも魅力的な勤務条件を示す。
聞いただけで虫酸が走る義務化ですが、これが実現すれば僻地病院には多大なメリットがあります。なんと言っても義務で来るのですから、報酬、勤務条件はどうとでもやり放題です。義務で来ている医者には年季が明けるまで逃げると言う選択は奪われますから、どんな無理難題でも黙って受けざるを得ません。何と言っても義務ですから途中で放棄すれば医師免許の剥奪まで行かなくとも、保険医ぐらいは召し上げられるのは覚悟しないといけないだろうからです。
5500万円の産婦人科医は24時間365日院内拘束、年休2日でしたが、それでも5500万円です。僻地義務化となればこれを500万でやれといわれても甘受せざるを得ないかもしれません。僻地の義務化で赴任したら、恐怖の常駐契約しか選択枝がなかったなんて悲劇が日常化するかもしれません。
どこか発想のボタンの第一歩が誤っている気がしてならないのですが、日医まで尻尾を振るとは世も末ですね〜。