手作業のぬくもり

全日本フィギュアの男子の決勝で前代未聞の採点ミスがあり、表彰後に優勝取り消し、五輪代表まで入れ替わると言う椿事があったそうです。原因はコンピュータのプログラムミスだそうです。プログラムミスと言うのも正確でなくて、新しいプログラムに更新を怠っていたのが原因だそうです。ほかにも今年はコンピューターのトラブルによる大きなミスが目に付いた年で、大証東証の取引が停止したり、ジェイコム株での空前のトラブルなんかが記憶に残っています。

電算化の波はもう生活の隅々まで入り込んでいるのは間違いなく、ファミレスのオーダーなんかも電算化されています。コンビニやスーパーのレジなんかもそうで、昔懐かしい打ち込みしきなんかは零細な個人商店レベルにしか残ってなく、バーコードで「ピッ」でどんどん進んでいきます。つり銭なんかも自動的に小銭までジャラジャラと出てくるのですから大したものです。

医療にもその波はヒタヒタと押し寄せています。複雑怪奇な診療報酬請求も昔はそれ専門の人が手書きでやっていましたが、ほとんどのところはレセコン(レセプトコンピューター)が処理してくれます。カルテもボチボチですが電子カルテが確実に普及しています。予約診療をPCでやっているところも珍しくありません。そうそうレントゲンなんかもFCRとか言って電子画像で撮影保存できるシステムがあり、現像液と格闘しない世界も金さえかければできる時代になっています。

それでも医療は手作業の領域が大です。これも随分昔からPCによる自動診断プログラムの作成の試みはなされてきました。昔よりは進歩しているでしょうが、かつての物は研修医の目から見ても「役にはたたない」と一目で分かるものでしたが、今はどうでしょうか。あまり売り込みに来ないところを見るとまだまだ実用には遠いのでしょうね。実用化されると医者もかなり淘汰整理されてしまいますので、あんまり早く実用化して欲しくないとは思っていますが。

振り返ってうちの診療所の電算化ですが、レセコンはさすがに使っていますが、正直なところそれぐらいしかありません。日々たまるカルテの収納場所に困っていますので、電子カルテの話は出るだけ出ますが、話だけで私以下誰も乗り気でないのは確かです。値段もそうですが、使い勝手の悪さ、融通の利かなさ、なによりPCはいつシステムダウンするかのリスクが常について回りますので、昔ながらの紙とボールペンの世界に固執しています。

予約診も予防接種と乳児健診だけしていますが、システムは大時代的な台帳方式。これもネットを利用した電算システムのDMが頻々と舞い込みますが、まだまだ採用する気にはなりません。もともと最大で1日20人程度が限界のはずなのに、繁忙期には50人以上を詰め込み、さらに検診と予防接種の所要時間の違い、予防接種でも種類による説明時間の違い、検診も相手により所要時間が変わることをすべて織り込んで電算化するのは至難の業です。

またこれは手作業だから出来るのですが、満員パンパンでも時と場合によりそれでも押し込む荒技はプログラムでは不可能です。また予防接種予約はチケット予約と異なり相談部分が大です。「何から始めたら・・・」、「こんな状態ですができるでしょうか」、「仕事の関係でどうしても・・・」に臨機応変で対応するのもまだまだ無理でしょうから。それより何よりネットと直接申し込みの二元になるのが困ります。台帳は一つですから、どんなに殺到してもダブルブッキングは防げますが、二元になるとこれが難しくなります。

というわけでうちは金も無いのでアナログ作業でほとんどやっています。でもアナログも良いんじゃないかと考えています。医療は人と人との温もりが基本ですから、予約一つでも直接人が対応する方が印象は良いに決まっています。良いはずだと少なくとも私は思っています。医療が自動診断プログラムの時代が来る前には私は仕事を辞めているでしょうから、私が生きている間ぐらいはアナログ診療を続けたいと考えています。