公約違反

読売新聞が右よりなのは周知のことですが、ここまで御用新聞化しているのには驚かされます。あそこの社説を読むと憲法改正は全国民が待望しているかのようになり、自民党政治こそ神の声であるように思えてくるから笑えます。

ふた昔前に較べると憲法改正を是とする勢力は増えているのは間違いありませんが、改正の内容はまさしく同床異夢で、最大の焦点である9条すら諸説紛々です。いろんな意見のある事はそれで良いのですが、まだまだ半分ぐらいの人間は改正すら反対であり、賛成派の意見も一本化しているわけではなく、ましてや自衛隊を軍隊として正式に認め国防軍にする読売の提案が、世論の多数派と考えているのはまさしく読売だけです。朝日もまた左よりの偏向が強くしばしば批判の的になりますが、読売も鏡の裏返しで五十歩百歩としか私は見えません。

選挙がひと段落して案の定、増税案がぞろぞろと出てきました。現在の財政事情からすればしかたが無いかもしれませんが、どんな理屈をならべられても感情として気持ちの良いものではありません。今度の選挙の争点も小泉首相の巧妙な戦略により「郵政民営化」のみが焦点となりましたが、本当の焦点は財政再建であり、再建のための増税である事は少し考えれば誰でもわかる事です。

ただし選挙において増税を掲げて勝てるわけがありませんから、自民党の公約も民主党のマニュフェストも曖昧な抽象的な表現に留めていた面があります。それでも選挙中に首相は「在任中は消費税は増やさない」、「サラリーマン増税はしない」との声明を行なっています。昔ならたかが公約、いつもの常套手段である「社会情勢の変化による高度の政治判断」で手のひらを返すのですが、最近は重みがやや増しているので、それなりに守る必要があります。

今回定率減税の廃止の方針が出てきました。常識的に見るとこれは「サラリーマン増税」の一環としか見えないのですが、読売には全然見えないようです。読売の主張は

    政府税制調査会が今年6月の「論点整理」に盛り込んだ給与所得控除などの大幅縮小案に反対したもの、と見るのが自然だ。」
だそうです。その手の弁明ですべてが済むのなら世の中の約束はほとんど反故に出来ます。また試験研究費税制や情報技術(IT)投資促進税制の存廃についても、真の存廃の価値はともかく、3年の特例と限った経緯があると一刀両断です。それでは」30年以上にもわたって特例が延長されている自動車関係の暫定税率はどう説明するのでしょうか。

この手の問題に対しての我田引水的な説明は昨日今日始まった事ではありません。都合の良い事は「欧米諸外国に較べて」でお墨付を必死になって書き加え、都合の悪い事は「日本と諸外国は違う」で切り捨てる論理構成にはあきあきします。別に海外の国々にモデルを求める事は悪いと言いません。他国で実証済みのモデルを行なう方が成功率が高いというのも理解します。ただしそういうモデルはシステムとして成立しており、都合の良いところのみを切り取ってパッチワークのようにつなぎ合わせれば理想のシステムになるわけではありません。

増税はある程度しかたが無いかもしれませんが、その事により日本がどう良くなり、国民一人一人がどういう風なメリット、デメリットを享受できるのかの方向性が全く見えてこないのが最大の問題であると考えます。政府が正々堂々と増税を提示しても国民が納得する政治こそが、今求められていると思います。そんな揺るぎない信頼感、安心感を提示する政府の成立が無いと、またぞろ政争劇で国会が紛糾し、国政が止まり、妥協の産物である中途半端な政策のみが続けられる様な気がします。

まあ300議席もあるのですから、安定した政権だけは我々は手に入れたとも言えるのでが・・・。