天下り禁止できず

天下りの受け入れ停止が談合根絶の手段の一つになる」として、会員企業約1500社に受け入れ自粛を求めることを検討してきた。しかし企業、官庁からの反発が強く、最終的に要請を見送ることにした。」

だそうです。天下のトヨタ会長を持ってしても想像を絶する圧力に抵抗し切れなかったようです。

反対派の意見も筋は通っています。

  • 公務員とはいえ退職後の就職活動を妨げられる所以は無い。
  • 公務員の中でも高度の専門知識もつ人材があり活用しないのはおかしい。
  • 官民交流による情報の共有化は必要である。
まことにごもっともで、天下り公務員全員を悪徳の巣と見なすのは行き過ぎであると言われればそう簡単には反論できません。

反対派の意見は「良からぬ天下り」が「正しい天下り」を歪めていると取れます。それでは「正しい天下り」とはどんなものでしょうか。まずこれがモデルとしてあれば「良からぬ天下り」を排除することが出来るのではないかと考えます。

これがまた大変難しいのですが、企業が天下り役人に望むことをまず考えてみたいと思います。

  • 公務員の持つ専門知識を業務に活用する。
  • 公務員が在職時代に培った人脈を業務に活用する。
これ以外には思いつきません。この不況の最中、あえて高給で招聘するには公務員でなくてもこの二つの理由以外はないかと思います。ついでに言えば「活用した事により支払う高給以上の利益が期待できる」も絶対条件でしょう。

この中で「正しい天下り」は「専門知識を業務にのみ活用する」ではないでしょうか。企業の業務の足りないところを自らが持つ専門知識で埋め合わせて業績の発展を図る事です。またこの業務とは官庁との接待法の伝授ではなく、あくまでも一般企業活動における仕事の高度化、発展に寄与するもので無ければなりません。

「良からぬ天下り」とは在職時代の人脈による「コネ」を活用する事のみに存在する天下りでしょう。「コネ」による天下りの弊害は怖ろしいほどで、一旦受け入れるとその席は官庁側による権益となり、その席を官庁側に無条件で提供し、厚遇しなければ天下り予備軍から氷のような冷遇の報復が来ます。

もちろん官庁側も無償で確保しているわけではなく、見返りとして公共工事の割り振りに有形無形のさじ加減を加えます。公共工事のパイは決まっているので、企業側とすれば席の確保数と厚遇に血道を上げざるを得ません。

私は天下りの実情はよく知りません。しかし「正しい天下り」を純粋に行なえる人材はどう考えても少なく、それこそ貴重な人材という事になります。百歩譲って「正しい天下り」の業務も行ないながら一部に「良からぬ天下り」的な仕事に手を染めている人材を加えてもそんなにいるとは思えません。

大多数は「良からぬ天下り」であると考えるのは不自然ではないと考えます。天下り役人が有能であろうが無能であろうが、仕事をしようがしよまいが、元○○省の役人に高い役職と給料をあげている事を現役の○○省の役人に見せつけるパフォーマンスのためにしか存在しないと見えます。つまり「コネ」以外に存在理由の無い天下りはすべからず「良からぬ天下り」と定義しても良いかと考えます。

でこれらの選別を客観的に区別する基準が出来るかといえば、これがまた大変難しい。企業にしても「コネ」天下りを有害とは間違っても発言できないからです。「他所はともかくうちは正しい天下りです」と主張しておかないとすぐにでも報復の嵐が吹き荒れ、企業の存続問題に直結するからです。

たしかに「正しい天下り」はいるでしょうし、貴重な人材、活用しないと日本の損失になるような有能な人材も天下りにいるでしょうが、わずかな玉を活かすために数え切れないぐらいの瓦礫を抱えているとしか見えません。

ここは玉を惜しみつつも瓦礫と一緒に踏み砕いた方が総合的な損得勘定は絶対にプラスとなるはずです。この手の感情を押し殺した決断は企業にとって得意の分野だと思うのですがネ。もっともどうでも良い瓦礫から安易に利益を生み出す錬金術もまた長年の努力で確立していますから、この手法を放棄するのもイヤなんでしょうがネ。

ただし錬金術で金が出る元は税金であり、税金で経営されている国家財政は破綻状態であり、その再建方法を諮問されている財界人が「これ以上の歳出削減は不可能」と言うのは、錬金術での中毒症状の末期状態に見えてしまいます。