男性の育児休暇取得1%

9/10付の毎日新聞より、

本人や配偶者の出産で05年度中に育児休業を取った国家公務員(一般職)が、女性は92・4%(前年度比0・1ポイント減)だったのに対し、男性は1・0%(前年度比0・1ポイント増)にとどまったことが人事院の調べで分かった。人事院は「育児休業を取ると勤務評価が下がるのでは、という不安感がある」と分析している。

男性も育児休暇を取るべしは少子化対策からも必要と考えられています。一般企業に較べてこういうものが取り安い公務員で数字を見るのも悪い事ではありません。ただし原因分析として、

    育児休業を取ると勤務評価が下がるのでは、という不安感がある」
しか出さないところがどうにもこうにもです。これも大きな理由ですし、理由として外せないのは間違いありませんが、本当に男性が100%近く育児休暇を取ったらどうなるかのシミュレーションを、考えた事があるかどうかが疑問です。そこのところのバックアップ体制についての論議が零細企業経営者にとっては欲しいところです。

公務員は良く知りませんが、どこの企業もリストラの美名の下、人員整理は極限まで進んでいます。本当に必要な正社員の数まで削減し、その穴を派遣社員で埋めることが礼賛されています。ごく簡単に言えばどこも人手不足で、3人必要な仕事を2人でやっているのが実情です。誰か育児休暇で抜けても、それを補うような余裕ある人手を抱えているところは稀かと思います。それでも正社員なら育児休暇で抜けた分は派遣社員で埋める事は可能かもしれませんが、派遣社員は派遣先で優雅に育児休暇なんか取れるものでしょうか。取ったりすれば、派遣期間中のかなりの部分を育児休暇として不在となります。企業が「育児休暇だから仕方が無い、もう一人派遣社員を頼むか」なんて事にならないのは周知の通りです。

大手は派遣社員で育児休暇の穴を埋めることが理屈上可能としても、中小零細はそうはいきません。抜けた分を補う人員を雇えばもろに人件費が経営を圧迫します。しかたがないので人手不足の上にさらに育児休暇で抜けた分を、残りの者は歯を食いしばって耐える事になります。これもまたありふれた風景です。これまでは女性の育児休暇だけでしたからまだ耐えれたかもしれませんが、奥さんに子供が出来るたびにセットで旦那が育児休暇を取られたら、職場は瓦解します。大手だってかなりの負担を強いられるのは間違いありません。

また経営者としては育児休暇で抜ける人材の穴埋めを計画的に考える必要があります。女性従業員なら見ただけで分かります。ところが男性従業員は申告してもらわないと分かりません。ある日突然、「子供が生まれました。明日から育児休暇を頂きます」と言われても、言われた方は目をシロクロさせます。そうなれば男性従業員は奥様が妊娠すればこれを逐次報告しなければなりません。目出度い事とは言え、プライバシーの問題が少しは出てくるような気がします。

育児休暇が男性にも必要な事は大前提として認めます。そういう社会になって欲しいと願っています。しかし取れるような環境整備が必要です。育児休暇を取る男性個人が一番気になるのは勤務評価でしょうし、育児休暇で休まれる経営者にすればその間の人員補充と費用の問題です。これは両輪かと考えます。女性の育児休暇については長年の紆余曲折の末、曲がりなりにも可能となり、企業努力の内に吸収してきました。記憶が間違っていたら申し訳ないのですが、女性の育児休暇が確立した頃は、景気が良い時代であったかと思います。

今の時代に大手を振って男性がすべて育児休暇を取ればどうなるか、取った後の職場はどうなるかを、もう少し考えて欲しいものだと思います。妊娠出産はある程度計画的にコントロールするのは可能ですが、完全にはコントロールは不可能です。夫婦がいつ、どんな時期に何人子供を作るかは何人にも制約されません。完全な夫婦の自由です。だから経営者にとっていつ育児休暇が、何人発生するかは予測不可能という事になります。年齢層が若い職場なら、一時に複数人が育児休暇で抜けることも当たり前のように生じます。

難しい問題です。本当に難しいので理由を「育児休業を取ると勤務評価が下がるのでは、という不安感がある」とだけで矮小化せず、社会システムとして、不安感無く育児休暇を取れる体制の構築を考えて欲しいと願います。

蛇足の付け足しですが、麗々しく記事を書いている毎日新聞の男性の育児休暇の実態も是非報道して欲しいですね。毎日新聞は男性にも100%の育児休暇を与えているのか、与えていないのか。べつに与えていないから報道する資格が無いとは思いませんが、与えていないのならそれが出来ていない理由が「育児休業を取ると勤務評価が下がるのでは、という不安感がある」だけなのか、そうではないのかまで掘り下げるべきでしょう。毎日新聞クラスの大企業で、なおかつ社会のオピニオンリーダーを自負しているのなら、まず一番分析しやすい自社の育児休暇の取材をするべきです。そうすればもっと実感ある記事を書けると思うのですが・・・。