医師の育児休暇エピソード

モトネタは掛け値なし

2013.10.9付「イクメン医師、増加中!Vol3 日経メディカル」(リンク先は会員限定です)より、

夫婦ともに実家が遠く両親に頼れない。奥さんは妊娠中に切迫早産で絶対安静。上の子供の面倒を見る人がいない──。聖隷浜松病院の森雅紀氏は今年初め、こうした事情が重なり対応を余儀なくされた。4人目が生まれる1カ月間前から17時に仕事を切り上げ、誕生後は平日5日間の育児休業を取って約10日間“主夫”となったのだ。

5日間の育休で約10日間になるのは「おそらく」ですが、

  1. 土日は普通に休む
  2. 月から金は育休
  3. さらに土日は休み
こんな感じでなかったかと推測しています。たいした裏事情ではないのですが、聖隷浜松病院はこういう支援に前向きかつ理解のある幹部がおられるそうで、事情を知る医師によると、ごく素直に「良い話」と受け取って良いそうです。たった10日間ほどの「主夫」で何がわかるの批判ぐらいはあるかもしれませんが、勤務医の実情からすると記事に価する快挙は言い過ぎとしても、先駆者的なエピソードとして報じる価値があるものと見ます。

少しだけ受け売り知識(つか今日の話自体が殆んど受け売りです)を披露しておきますと、

    4人目が生まれる1カ月間前から17時に仕事を切り上げ
こういう事は職場の理解と協力が必要なのはもちろんですが、実は法制上も整備されています。「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」てな長い名前の法律があり、

第十六条の八

 事業主は、三歳に満たない子を養育する労働者であって、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうちこの項本文の規定による請求をできないものとして定められた労働者に該当しない労働者が当該子を養育するために請求した場合においては、所定労働時間を超えて労働させてはならない。

いつもながら非常に読み難いのですが、要するに3歳未満の子どもがいる場合、「子どものために残業は堪忍してくれ」と申し出られたら、これを事業主は基本的に拒めないとするものです。おそらくこんな法律を盾に17時に帰宅した訳ではないでしょうが、法律には実はそんな規定があるぐらいのお話です。


問題は制度活用

ほいじゃ、どこに問題があるかです。それは、

何故に有給休暇ではなく育児休暇なのかの指摘です。一般的な勤務医(たぶん勤務医でなくとも)は「売るほど」の有給休暇を腐らせています。別に育児休暇で休まなくとも有給休暇で休めば済む話ではないかです。つうのも有給休暇と育児休暇は同じ休みでも質が違います。ごく大雑把に分けますが、
    有給休暇・・・給与に影響しない
    育児休暇・・・給与の最大50%までしか給付されない
言い換えると育児休暇で休むと有給休暇の半分以下しか給料が出ない事になります。多くの出産女性のように数ヶ月単位で育児休暇を取る場合であればともかく、「たった5日間」であれば有給休暇の方がはるかにお得と言うところです。もう少し言えば、20日ほど有給休暇があれば1ヶ月程度の「育児のための有給休暇」を取る事も可能です。

これに「さらに」が付きます。今回のケースが本当に育児休暇で休みを取っていたら、最終的に欠勤扱いされる可能性さえ出てくるとの指摘があります。ハローワークインターネットサービスから、

就業している日数が各支給単位期間(1か月ごとの期間。下図参照)ごとに10日以下であること。(休業終了日が含まれる支給単位期間は、就業している日数が10日以下であるとともに、休業日が1日以上あること。)

5日しか育児休暇を取ってなければ、どう考えても11日以上は勤務しているわけで育児休暇として認められない事になります。どうも制度として短期の育児休暇を想定しているようではなさそうです。


好意的に裏を読む

出産育児みたいな極めてプライベートなエピソードが記事になると言うのは、やはりこのエピソードをアピールしたいの意図があってのものと考えます。ぶっちゃけた話、男性にも育児休暇を取得する動きの援護射撃です。激務と言われる男性勤務医でさえ短期間とは言え育児休暇を取得している事を報せたいです。その意図にちょうど当てはまるケースがあり、実際にあったエピソードとして報じさせたぐらいでしょうか。

問題はその先で、これが本当に育児休暇であったのか、それとも「育児のための有給休暇」であったかです。なんとなく本当は「育児のための有給休暇」であった気がしています。ただそれでは男性医師が育児休暇を取得したアピールにはインパクトが不足します。だって有給休暇では「単なる普通の休み」だからです。そこで病院側か、マスコミ側か、もしくは両方で

    その点を可能な限りボカした
私だって育児休暇制度についてそんなに詳しいとは言えません。一応これでも経営者ですから漠然と知っていても、幸か不幸かあんまり適用者がいなかったので今回の事があるまで曖昧な知識しかありませんでした。ましてや従業員となるとなおさらです。社会の要求として男性の育児休暇取得は促進される事であるのは同意ですから、制度としての育児休暇と育児のための有給休暇取得を少々混同させて記事にしたぐらいは許容範囲ではないかと考えています。